紅葉の伝言 6

〜はじめのお詫び〜
うっきー。煽ってどうする。。。

BGM:土屋アンナ 暴食系男子

– + – + – + – + – + – + – + – + – + –

視線を合わせずに、頭を下げて座ったセイが、平静ではないことが見て取れて、これはこれで近藤と土方が顔を見合わせた。

「いや、神谷君、そんなことじゃないんだが…。その、いろいろと噂になっているようなので事情を聞こうと思ってね」
「そうですね。不思議な話で盛り上がっている方々がいらっしゃるようですね」

はっきりと怒りをにじませたセイが顔を上げた。痛そうな顔をした総司がセイに目を向けても、まったくそちらを見ようとはしない。

はーっとこめかみを押さえた土方は、渋々と口を開いた。

「あー……それでだ」
「それでなんでしょう」

明らかにけんか腰でセイが切り返した。小さな体が周りを取り囲む者達に一人で逆毛を立てて向かっていっている様だ。

「けんか腰で向かってくるなよ……誰も好んで聞いてるわけじゃねぇ。で?どうなんだよ?」
「どう、と聞かれる意味が分かりかねます」
「ったく、面倒くせぇな。お前が艶文を交わす相手がいるのかってこった」

ぴくっと総司の体が動いた。セイはそれを視界の端で捉えながら、なおさら情けない気持ちになる。

「艶文と言われますが、それは何を指してそういわれます?花や小枝に結び付けられていればすべてその類ですか」
「……まあ、普通はそうだろうが」

土方は聞きながら、なぜセイがこれほどまでに怒っているのか分からないでいた。艶文ではないにせよ、文を送ってくる相手がいてそれを総司に内緒にし ていたのだから、セイが怒る立場ではないはずだ。仮に中身が艶文ではなかったとしても秘密の文相手がいれば不義密通ととられてもおかしくはない。
それにしても文箱持参ということは問題の文を見せる気なのだろうか?

そう思っていた瞬間、門脇の隊士が町人風情の男を伴って現れた。

「失礼します。その、神谷に呼ばれたといってこの者が……」

一見遊び人風の男がさも面白そうに、部屋の中からの返事を待たずに障子を開けた。

「よぉ。清三郎。お前が呼んだから来てやったぞ」
「あっ!!貴方はっ!!!!」

その場でがばっと平伏したのは近藤と総司、それに斉藤だった。土方が怪訝そうな面持ちでその場の異様な雰囲気の中でその男を見た。
セイだけは、正座を崩さずにその男に向き直り正面から睨みつけた。

「呼んだから来たって、誰のセいだと思ってるんですか!当人に始末をつけていただくのは当然です!!」
「あっはっは!!確かにな。せっかく余計な心配をさせないように気を使ってやったのにこれじゃあお前があんまり可哀想だよなぁ」
「か、神谷さん……まさか…」

顔を上げた総司がなんとも言えない顔でセイに問いかけた。そこにきて始めてセイは総司に冷たい視線を向けた。

「局長ならびに皆様はどうやらお忘れみたいですけど……。私は、これでも新撰組の隊士なんですよ!その上、一番隊組長の妻でもあるんですけどっ!本 当に皆様、綺麗さっぱりとお忘れになっているみたいですね!!でなきゃ、その私がこの浮之助さんからの文を大っぴらになんてできないことくらいわからない はずありませんよね」

頭から湯気が出そうなくらいのセイにげらげらと笑いながら浮之助が背後から抱きついた。

「まったくだよなぁ。婚礼の祝いまで贈った相手に失礼なことは清三郎はしないんだよな」
「浮之助さん!!貴方がそういうことをなさるから!!いらぬ誤解をうけるんじゃないですか!!!」
「えー。俺、指図されんの大っ嫌いなんだよねぇ。なあ、沖田。お前の嫁は配慮が行き届いたいい嫁だよなぁ」

そのやり取りにまったく話の見えないほかの面々は、固唾を呑んで見守っていた。セイに後ろから抱きついたままの浮之助は、にやにやしながらその場に平伏している総司が伏せたまま、悋気に満ちているのを面白そうに眺めている。ようやく土方が口を開いた。

「神谷、その、何だ。お前が文をもらっていたのは……」
「おう。お前が土方か。俺が清三郎に文を出していた張本人だけど?なんか文句でもあるのか?」

その場にいて、すべてを理解した近藤と総司、そして斉藤は頭から血の気が引くのを感じた。そして、この場をどう納めれば丸く収まるのかまったく想像もつかない。

「局長、沖田先生。もう一度伺いますけど、私が公式に浮之助さんからの文を堂々と受け取っていたらどうなるんでしょうね!?ぜひともそこのところを伺いたいところです!!」

怒り狂ったセイの怒声に近藤も総司も返す言葉がない。にやにやと薄ら笑いを浮かべた浮之助は、セイから離れると面白そうに室内を検分している。
開け放った廊下の向こう、中庭から声がかかった。松蔵が中庭に控えていたらしい。

「若も、神谷さんもその辺にしておきませんと・・・」
「何だよ、松蔵。お前こいつらの味方すんの?」
「あっしは味方なんてぇもんじゃありませんが、皆さん若をご存知ないんで」

ぶーっと浮之助がむくれていると、セイが総司と近藤の間に文箱を投げ出すように置いた

「お読みになりたければどうぞご覧ください。浮之助さんからじゃなくて、表の顔のお方から届いていたらどうなるでしょうね?!これで士道不覚悟だとおっしゃるなら存分に裁断願います!!」
「すまん!神谷君、これは俺達が悪かった!!」
「近藤さん?!」

平伏したままの近藤ががばっと土方の首根っこを掴んで頭を下げさせた。その目の前に浮之助がしゃがみこんで一喝した。

「近藤!お前達はこんな戯言で騒いでいられる場合ではなかろう!」
「はっ!!」

平伏した近藤が頭を擦り付けんばかりにする前で浮之助はニヤリ、と笑った。

「まあ、俺もこのちっさい清三郎を贔屓にしてるんだからさ。宜しく頼むわ」

呆気にとられた一同を前に、浮之助はセイの肩を掴んで立ち上がった。

「これより、清三郎はしばらく俺が預かる。お前らは少し頭を冷やせ」
「ちょ、浮之助さん?!」
「お芳がえらい怒ってんだよ。お前が可哀想だってな。だから一緒に行ってもらう」

そう言いながら、局長室から廊下へと浮之助はセイを連れ出した。
用意のいい松蔵が二人の草履を懐から出してそのまま浮之助は、セイをつれて中庭に下りる。にやりと笑った浮之助が振り返った。

「沖田。早く迎えに来ないと、清三郎は俺が貰っちゃうよ?」
「う、浮之助さん!!」
「あっはっは。後で迎えに来る場所を教えてやるよ」

じゃあな、といって浮之助は松蔵とセイをつれて帰っていった。

ようやく頭を押さえつけられていた力が緩んで、土方は近藤の手を振り払った。

「近藤さん!いったいあいつは何者なんだ!!」
「・・・・・・・・――――だ・・・・・・・・・・」

耳元で囁かれた名前に土方の顔面から血の気が引いた。

「なんだってぇぇぇぇぇ!!!」

土方の叫びが屯所に響き渡った。

 

– 続く –