白き梅綻ぶ 13

〜はじめの一言〜
バトル~。意外と襲撃者もストイックだったのね、見たいな。

BGM:AqureTimes  Velonica
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奥の部屋に押し込められていた小夏とタエは浪士と戦っている間を縫って各部屋を捜索していた監察の隊士によって見つけ出されると、斬り合いの最中にいることが危険ということもあり、すぐに町屋の中からは連れ出された。

「小夏さんと佐々木殿の妻女殿ですね?」
「はい。お手数おかけいたしました」
「さ、こちらへ」

すぐに駕籠が呼ばれて屯所へと二人は連れて行かれた。すでに、病人や賄いの小者など、想定された襲撃に備えて非戦闘員達が西本願寺の一角を借り受けて非難してきている。
町屋で捕縛した者達は、町方に預けられて井上の隊もすぐに屯所に引き返していた。

日が暮れるにつれてどんどん空模様が怪しくなり、今にも降り出しそうな空模様にあちこちで空を見上げる者達がいる。
タエと小夏は病人のいる一間に監察方の隊士ともにいることになった。

「申し訳ありません。しばらくすればお二人ともお話しを伺わせていただいてからお帰りいただけるようにいたしますので」
「わかっております。お気遣いありがとうございます」

タエは、救い出され屯所のある西本願寺に連れてこられても顔を見せることのない蔵之介と自分のことを考えていた。

 

屯所近くの茶屋にいた男達は、見張りを頼んでいた町人から土方が屯所をでたという知らせを受け取った。町人も遊里で声をかけて金を掴ませただけの者でお互い素性も知らない。

「すまなかったな。礼だ」

白い小粒を一つ男に握らせると、男達は茶屋を後にした。土方が黒谷へ向かう際に歩く道筋はすでに調べてある。その道筋でも一角、人気の少なくなるどこかの下屋敷沿いの場所へと向かった。

「降り出しそうだな」

ポツリと一人が呟いた。ふ、とさらに一人が応じる。

「雷のほうが先であろう。さて、天の怒りを買うのは我等か奴か」
「涙雨はどちらのためか」

歩む先はすでに崩れ始めた天気と共に暗くなり始めた。市中から外れる手前の荒物屋で四人はそれぞれ提灯を買い求めて灯りを入れてもらった。武家屋敷が並ぶあたりは人通りもなく、白い塀ばかりでさらに暗さが増した。片側に木立がある場所で四人は立ち止まる。

「このあたりかな」

先回りしたといってもそう長くはない。すぐに土方がこのあたりに現れるだろう。男達は持っていた提灯を道の中央に静かに置いた。四つの提灯の灯りは、目印の代わりである。
その背後にさらにもう一人。

「遅くなったか?」
「いや、ちょうどよかった。磯貝殿」

ただ一人、最後に現れた男は彼らに金を出し、援助してきた者との繋がりを持つものだ。一人、襷をかけまわしている。磯貝と呼ばれた男は、四人に向かって頭を下げた。

「皆、これまでよくやってくれた。感謝する」
「何を言う。われらは皆志を同じくするもの」
「そうだとも」

彼らの身分も、背景も志もわからないが、武士として貫きたい思いがあることは新撰組と同じなのかもしれない。
磯貝は、提灯を四人の真ん中に差し出した。

「もはや奴もやってくるだろう。よいか。我等の志は折れぬ。例え、剣が折れても志は継がれてゆく。我等が討つのだ」

遠くから砂利を歩む足音が聞こえた。道の中央から急いで木立の影にそれぞれが身を隠す。道のあちこちに置かれた火のついた提灯に遠くから気がついて いた土方は警戒しながらもその場に近づいた。ここに提灯があるならば当然、それを置いた者たちがいるはずだ。いるとすれば木立の中、と気配を探る。

提灯は四つ。

―― 四人か…?

提灯を調べながら、土方は木立に目を向けた。
ひゅっと磯貝の持っていた最後の提灯が土方めがけて投げつけられた。土方は咄嗟に鞘ごと引き抜いた大刀で提灯を叩き落す。その間に磯貝が土方の目の前に走りこんだ。

「新撰組、土方歳三!覚悟っ」

叩き落した動きのまま、鞘を振り払って土方は刀を抜いた。中段から打ち込んできた磯貝に大きく足を開いて、斬り払う。わざと時間をずらして背後から四人が斬り込んで来る。
くるりと向きを変えて塀を背にした土方は次々と繰り出される刀を斬り払うだけで、なかなか決定的な一太刀を誰かに浴びせることができなかった。
並みの者達ではない。新撰組でも幹部並の腕前の男達が同時に斬りかかってくるのを交わすだけでもぎりぎりだった。

土方の袂が、切り裂かれて羽織の組紐が飛んだ。

「副長!!」

背後から高い声がかかる。もっとも距離をとっていた一人が声のするほうへ振り返った所にセイの小柄な体が走りこんで袈裟懸けに斬り付けた。
足元で燃え上がった提灯が半ばを越えて大きく燃え上がっている。

「くっ……そっ、何だお前は……」

がくりと膝を突いた男が呟いて倒れこむのを目の端で捉えながら、男達は一刻も早く土方をと刀を振り上げた。土方の意識がセイに向いている間に下段か ら磯貝が斬り上げる。その間に一人がセイに向っていく。小柄な助け手と見て刀を突き込むが、なかなかどうしてセイも斬り弾くだけの腕はある。
前髪の小僧が、と思った瞬間背後から声が重なった。

「三番隊組長、斎藤一!」
「一番隊組長、沖田総司!」

セイと斬り合っていた男の隣にいた者と、磯貝と入れ替わりに土方に向かって突き込んだ男をあっという間にそれぞれが切り捨てられた。そして、セイに向かっていた男が斎藤と総司に一撃の元に打倒される。

もはやこれまでとばかりに磯貝は八双に構えて土方に向けて斬り込んだ。

「これで最後だ!!」

土方が磯貝の刀をかわして胸元にかけて斬り付けた。

どさり。

磯貝は自分が倒れる音を聞いた。

―― 我等の志は折れぬ。例え、剣が折れても志は継がれてゆく……

新撰組とは真逆の立場にいた磯貝達は、志が同じならば良き同士であったかもしれない。ただ、目指す者がほんのわずかずれていた。
ただそれだけでこれほどまでに歩む道が違うのか。

彼等のことを土方達は知らない。ただの不逞浪士としか見ていないが、いずれまた志を継ぐ者が現れるまで、しばしの間、彼等は休息を得る。

 

 

– 続く –