強者の伝説 1<拍手文 7~9>

〜はじめの一言〜
4本目の拍手。お礼キャンペーンで拍手なのに連載(←鬼)
BGM:トンガリキッズ B-DASH
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隊内の雑用をこなす小者達は、隊士達の日常にも深くかかわっている。

「又助はん、またそろそろみたいやで?」
「んっ?なんでや、この前増えたばっかりやろ」
「いやあ、臨時やいうてまた十人ばっかし見習さんが増えたようや」

小者達の仕事に近い小荷駄の者達が渋い顔でその輪に加わった。

「いやぁ、しかも今回は腕自慢ばっかりみたいでなぁ・・・」

新人隊士の募集は常に行われており、大規模なものは平助が江戸に下った折などであったが、少人数の参加は常にある。
近頃も腕自慢ばかりが十人ほど増えたらしい。

小者だけでなく小荷駄の者達も、深いため息が出た。
又助が代表して口を開く。

「ということは・・・また、そろそろ毎度のごたごたの始まりやなぁ」
「そろそろ皆はん、学習してくれはったらええんやけどなぁ」

そして、又助は古参の隊士達への妓達からの文を渋りはじめた。
妓にかまけるよりも隊内の平和に尽力させなくては。彼等が止めなければまたどんな大騒ぎになるのかわからないからだ。

しかし、苦労半分、楽しみ半分。
どこかで彼等は楽しんでもいた。毎回、手を替え品を替え持ちあがる騒動によって、隊内が結束していくのもまた事実だったのだから。

「それではこの名札を付けて、それぞれ組み割り表に従って各隊の組長のところへ行ってください」

てきぱきと仮入隊の新人たちに説明を終えたセイが、全体を見回って組長がわからないものはその隊の組長の元へ案内するなど、だいぶ受け入れの際の対応が堂に行っている。

それを見ている古参の隊士達もまた、すでに臨戦態勢に入っていた。
今回入隊の十人は皆、名のある道場では師範代を務めるような腕前の者達ばかりということで近藤は非常に喜び張り切っていた。
通常は全体を通して万遍なく割り当てて行くのだが、今回は腕自慢ということで井上や原田達の隊より、総司や永倉、斎藤の三隊を中心に割り当てられていた。 また、それによって移動する者がいたりと、増えた人数はそれほどではなくても、隊の中は結構ばたばたと落ち着かないものが漂っている。

「いいな、皆」
「おう!」

密かに集合した者達は、それぞれ、組を超えた別の隊に所属している者達である。この三隊に関して言えば、組下の隊士達はすこぶる仲がいいと周りからは思われているが、それも次々と繰り返される事態に対応していったらこうなってしまった、というのが正しい。

「うぉ、なんだあの小柄なのは!」
「副長の小姓らしいけどすげえな。色小姓じゃねえのか?」

きた。その時がきた。

すかさず相田と山口を筆頭にした告知隊がそれぞれ二人一組で出動した。小者達は、荷物や持ち込んだ刀類の確認を進める傍らで、彼等の動きを追っていく。
今度はどこで起こるのかを事前に察知しておかないと、後々面倒になる。もちろん、小者の中にも組を超えた隊に所属している者達が何人もいるのであった。

告知隊。密かにそう命名された彼らは、常に入ってくる新人隊士や小者達に、まず目に付くはずのセイについての情報を叩き込むために存在する。
彼らは二人一組で行動しており、筆頭は山口と相田が務めている。

色小姓発言の新人隊士の傍にすすっと近づいた二人は、組長方からは見えないように彼らの首根っこを押さえた。

「よし!たった今、危険な発言をしたお前ら」

俺が先輩の山口だ、と名乗りながら声を落とした山口はぐいっと腕を引いた。

「神谷は華奢で小柄だし、確かに声変わりもせずに如身選という奇病ゆえに女子っぽい。だがな!」

俺は相田だ、とこちらも名乗りながら次を相田が継いだ。

「あれは隊内随一の精鋭部隊、一番隊の組長の最愛の弟子で、寺田屋では病の沖田先生をかばいながら二人斬って一人捕縛という大英雄なのだ!」
「そして!」
「局長のお気に入りであり、副長に向かって対等に言い合うツワモノであり!」
「永倉、原田両先生が衆道に走るなら神谷!と言わしめた経歴があり」
「斉藤先生ですら血を見るという天然っぷりの上に、囲った女は極上ときてる」
「「隊内随一の最強者なのだ!!」」

「だから、手をだすなよ?」
「だから、近寄るなよ?」

「「血をみることになるからなっ!!」」

そういうと、山口と相田はそそくさと次の新人の傍に移動していった。そこには告知隊の別の者の達がいたが、不足だとばかりに山口たちが加勢している。
それを聞いていた小荷駄の者達が密かにため息をついた。

「なあ……あの告知隊ってのはよぅ」
「名前変えたほうがいいよな。煽り隊とかよう」

ぼそぼそと密かに続く声に皆が頷いた。

「しかも今回の謀り隊は山崎先生自ら指揮するらしいぜ?」
「本当かよ?そりゃ大変だ」

小荷駄の者からの情報はすぐに小者達の間に駆け巡る。彼らは彼らで、隊内を歩き回るような雑用を極力セイから引き受け始めて、大きな嵐に備え始めた。

– 続 –