雷雲の走る時 21

〜はじめの一言〜
元々長かったんです。それを話数が誤魔化していたんですよ。きっと
BGM:
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雷が近づいてくる。
セイの耳は黒谷に向かう途中の道の先で斬りあう音を捉えた。喉から胸が走り通しで苦しい。

「副長!!」

その先で斬り合っている人に向かって叫んだ。
土方は、五人を相手に斬り合っていた。灯りもなしに走り通してきたセイには、暗闇に目が慣れているからそれでも十分だった。

セイは、一番近い所にいて、セイの叫びに反応した者に向かって袈裟掛けに斬りつけた。相手が間合いを測るより勢いを殺さずに滑り込んだセイの小柄な体が速かった。

土方は向かってくる男達を次々に相手をしているためにかえって致命的な一打を浴びせられずにいた。それだけ、相手も腕が立つということもあった。セイが来たことで、その一人が減った。

「生意気だぞ!お前は向こうの守りだろうが!」

次々と、相手をかわしながら土方がセイに向かって怒鳴ってくる。セイも次の者へ向けて刀を向けながら怒鳴り返す。

「向こうはあれだけ先生方が揃っているんだから私が副長の元に来るくらいなんでもないです!」

セイは、突きの構えをとった相手の剣を、軸足を踏み込んで斬り弾くとそのまま相手の腕めがけて振り下ろした。しかし、相手の腕は、セイ達が普段相手にするような腕前の持ち主ではないために、先ほどの不意を突いた時とは違い、あっさりとかわされる。

「三番隊組長、斎藤一!」
「一番隊組長、沖田総司!」

セイと土方の双方の背後から声が重なった。

土方の背後から斎藤が、セイの背後から総司が走り込んで、あっという間に二人を斬り捨てた。彼ら二人には、相手の腕など関係ないかのような早業である。
形勢が変わったこと知った土方は、目の前に向かってきた男の首筋から胸元にかけてやっと、躊躇なく斬りつけることができた。同時に総司と斎藤がセイと斬り合っていた不逞浪士を上段と下段から斬り捨てる。

息が切れるままに、セイはその場にぺたりと座りこんでしまった。屯所から駆け通してきてそのまま斬り合ったのだ。
そのセイよりは、いくらか落ち着いている総司が斬り捨てた者達の中で息が残っている者がないか確かめている。腕の立つ相手だけに加減する余裕がなかったのか、あえて斬り捨てたのかはわからないが、全員が死んでいることを確認すると、総司は懐紙を出して刀を拭った。同じように土方と斎藤も刀を拭って納める。

「お前ら、よく」
「斎藤さん」

総司と土方の声が重なった。肩を竦めて総司が土方に譲ると、土方が着物の袷を整えて照れくさそうにそっぽを向いた。

「お前ら、よく俺が襲われてるって分かったな」

当たり前だという代わりに、斉藤が口を開く。

「自分は屯所に向かうところでしたから」
「なんでここなんだ?お前、黒谷にいたのか?」

ぐっと、言葉に詰まりそうになったところに、総司が助け舟を出す。

「斎藤さんは、土方さんが黒谷に行くので先回りしていたんですよ。それがこんなところでいつまでも引っかかってるとは思わなくて遅くなったんじゃないですか?」

平然とすました顔が斎藤からすると、にやにやした黒平目に見える。

―― この腹黒平目め!!

内心では口汚くののしりながらも斎藤は頷いた。

「なら神谷!総司!お前らはなんでここに来たんだよ!!」
「だって!屯所に襲撃にきた浪士達って、全然新撰組とは格が違う腕なんですよ!?仮にも屯所を襲撃するのに、人数だけでそんな腕の人たちを寄越すって、おかしいじゃないですか。自分だったら腕の立つ人を本命に送ります!」

セイがびしっと、座り込んだまま土方を指さした。そして、まだ刀を納めていなかったので、拭った懐紙を懐に入れて、刀を納める。

「私は、傍にいなさいって言ったのに、いきなり飛び出した神谷さんを追いかけて来たんですよ。ねぇ?そうですよね、神谷さん」

飄々と答える総司だが、明らかにそこに嫌味が入っている。呼びかけられたセイは、はっとして身を竦ませた。一瞥をくれながら総司は土方のこともじろりと睨みつける。

「土方さんもですよ。腕は信用してますけどね!供はいらないのかって聞いたじゃないですか。こんなところで五人も相手にして何かあったらそれこそ局長に合わせる顔がありませんよ」
「……すまん」

珍しく眉間に皺を刻んだ総司が怒っていて、叱られた土方もまずかったと思ったのか、下を向いて詫びを口にする。

「とにかく!黒谷に行くならこのまま三人でお供しますからさっさと用事を済ませて屯所に戻りましょう。捕まえた浪士達のこともありますし、蔵に入れっぱなしの人たちのこともあるじゃないですか」
「さ、三人ってお前ら皆ついてくるのか?」
「あたりまえじゃないですか。私と斎藤さんは当然だし、そしたら神谷さんだけを一人帰すわけにもいかないし」
「沖田先生?!私は、子供じゃありませんから!一人でも帰れますよ!」

ついて行く、といわれてぎくっとした土方と一人では帰せないと言われたセイが頬を膨らませた。しかし、総司はにべもなく言い放つ。

「二人とも!放っておいたらこうして襲われてるし、傍にいなさいって言ったのに勝手に飛び出すし、当たり前でしょう!」

「「……はい。すみません」」

堪忍袋の緒が切れた総司を前にセイと土方が小さくなって頭を下げた。斎藤は、それを見ながら内心では毒づくと思惑はそれぞれ異なったが黒谷へと向かった。

黒谷で暗躍した土方は初め、そんな襲撃を受けるのは問題だと言わんばかりの者もいた中、見事に抑えきって逆に大量に捕縛したということを手柄として認めさせた。

 

– 続く –