雷雲の走る時 22

〜はじめの一言〜
焼き直しにより13話から22話へ。終わりました
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きっちりと仕事をこなした鬼副長は、お供の三人を連れて屯所に戻った。捕縛した浪士達はまとめられて引き渡しの手筈も済み、西本願寺に預けられていた内勤の者達や病気や怪我の者達も屯所に戻っている。

「結局、黒幕は分からず仕舞いか」

副長室に集められたのは、総司、斉藤、原田、永倉、藤堂、井上である。土方が腕を組んでその他の報告な無いのかとそれぞれの顔を見た。

結局、捕縛した不逞浪士達は長州者だけでなく土佐や薩摩の者も含めて三十数名を捕らえたが、引き渡した後に彼らがどのような処罰を受けるのかは分からない。ある者は切腹になり、ある者は処罰も受けずに国許に引き上げるだけの者もいるだろう。
ともあれ、彼らはそれ以上の情報を持っていることはない。

彼らを動かしていた者達はすべて、土方達が斬り捨てた。それ故に、背後は分からないとされた。しかし、斉藤や山崎が掴んだ情報では、尊皇派の幕閣の大物が動いたようだ。さらに、そこには近藤の不在や隊内の派閥だけでない情報をそもそも握っている必要がある。

 

それを流した者がいるとすれば。

 

「ヤツが思ったようには進まなかったにせよ、油断がならねぇことだけは確かってことだな」

ヤツ、と土方が思った者は今は近藤と共に出張中だ。出張に出ていれば疑いが向かないと思ったのかもしれないが、それほど簡単なものでもない。山崎が元々探っていたのは伊東一派だったのだ。そこに繋がる大物の名前も分かってはいるが証拠は押さえられなかった。

「で、どうするの?」

藤堂が聞いたのは、蔵に押し込められた者達のことだ。たとえ人質をとられたとしても、あるまじき行為ではある。
かろうじて佐々木は妻女共々、言うことを聞くことを拒否して自害しようとしたが、濱口は巡察の度に不逞浪士達に標的にしやすい、セイの存在を教え、襲わせていたことからしても、積極的に協力していたと言わざるを得ない。
隊内の情報を一番流していたのも中心は濱口だった。

牧野は蔵の錠前を開けたことのみで、実際はその様子を伺っていた濱口が、中から不逞浪士達を解き放って、屯所から逃がすところまでを行っている。篠崎は、嘘の情報を流しながら許婚を助けに向ったところで捕縛されたのだった。

「実際に奴らに協力したものは切腹、協力しなかったものは監察をつけて離隊させろ」
「承知」

対応のために腰を上げた皆が部屋を出ていく中で、去り際の総司に土方が言った。

「総司、濱口の介錯は神谷にやらせてもいいぞ」
「……今の神谷さんには無理ですよ」
「そういうならそれでもいい。最後の始末をつけさせてやるのもいいかと思っただけだ」

曖昧に口元に笑みをたたえた総司は、応えずに部屋を後にした。
濱口もセイを可愛がっていたはずではある。手に入らないものだからそうしたのかは分からない。それを聞き取る気も総司にはなかった。

たとえ聞いたとしても、処罰が変わるわけでもない。日取りを決めるにしても、ごたごたしているため即日にはならないだろうが、そのことをあえてセイに教える気も無かった。耳に入ればそれまでだし、わざわざ教えるようなことではない。
それだけなのだ。

病間で他の者達の面倒を見ているセイは、傷口も乾き、かさぶたを残すだけになった首の包帯はすでに取り去っていた。その他の怪我も、セイ本人に言わせると、動いたら痛くなくなったと言っている。

それでも痣がきえるまではと、病間に押し込めていた。

「これからも狙われるかも知れんな」
「うわっ、斉藤さん。気配を殺して近づくのやめてくださいよ〜」

病間を窺って廊下に立っていた総司の背後から斉藤が声をかけた。驚いた総司が動揺したところをみて、斉藤は少しだけ憂さの晴れる思いがする。

「狙われるでしょうねぇ。あの人、何処にでも突っ込んで行きますし」
「アンタはそれでいいのか?」
「よくないですよ」

そういうと、総司は斉藤の顔を見る。

「斉藤さんもでしょ?」

にっこりと笑ったその顔に、すべて読まれている気がして、斉藤は顔を逸らした。その腕をいきなり掴むと、グイグイと引っ張って病間の中にいたセイを呼んだ。

「神谷さ〜ん」
「あれぇ?沖田先生に斉藤先生。どうされたんですか?」
「そろそろ退屈かなぁと思って、体慣らしに稽古しませんか?斉藤さんが一緒に稽古をつけてくださるそうですよ」
「なっ……っ!」
「本当ですか?!兄上!」

総司に呼ばれて二人の下にやってきたセイに、総司はにこやかに告げる。明らかに先ほど後ろを取った仕返しだろうに、セイの顔がぱっと輝いたのをみて斉藤は仕方なく頷いた。

「う、うむ。いつ狙われてもいいように鍛えておくほうがいいからな」
「ありがとうございます!先生方。急いで支度しますね!」

セイはそういうと、中にいた小者に後を頼んで、稽古着に着替えるために隊部屋に向った。残された総司と斉藤は慌しいセイの様子に顔を見合わせて吹き出した。

「じゃあ、我々も着替えてきましょうか」

セイが駆け去った後に、二人もそれぞれ着替えるために隊部屋に戻っていった。

 

– 終 –