洗い髪 <拍手文 101>

〜はじめの一言〜
恋仲だったらこんなこともあるよねーってことで。先生、何気にせくしー
BGM:
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近藤と土方、そして伊東との会議だからということで副長室から追い出されたセイは、夕餉を終えてどこかざわついている隊士棟へ向かった。
どのくらいかかるかわからない会議だけに幹部棟の廊下で待つということもできない。

「何なら外泊してきていいって言われてもねぇ」

明日も非番ではない。そんな状況で男ならば花街に繰り出して朝礼までに戻ればいいかもしれないが、セイにとってはこんな時間にお里のも とに行っても気を遣わせるばかりである。いざとなれば、幹部棟の小部屋に床を取る気になったセイは、ひとまず茶でも飲もうかと賄へ向かうつもりだった。

「あれぇ。神谷さん、こんな時間にどうしたんですか?」

着替えを手にして、手拭で濡れた髪を拭きながら廊下の向こうから総司が現れた。風呂上りなのだろう。
流したばかりの肌に薄く汗を光らせながら浴衣に袖を通した姿にセイが慌てて視線を逸らした。

「ん?」

嬉しそうにセイの目の前まで来て覗き込んでくる総司に、薄らと顔を赤くしたセイが、会議のために部屋を出されたのだといった。

「何時までかかるかわからないと言われたので、とりあえずお茶でも飲もうかと思って……」
「なあんだ。そうなんですね。でも何時までかかるかわからないって困りますねぇ」

セイを促して、一番隊の隊部屋の方へと向かいながら総司がごしごしと濡れた髪を拭っている。ちらっと総司を見上げたセイがぱぱっと首筋まで赤くなったのを見て、総司が不思議そうな顔を向けた。

「どうかしました?」
「いえっ!」
「かーみーやーさん?」

いつものセイとは違う反応に、くすっと笑った総司が周囲に素早く視線を走らせると、一瞬でセイの耳の後ろのあたりを指先で撫でた。

「ひゃっ!!」
「なんでそんなに赤い顔をしてるんです?このへんまで」

見透かされた気がして、セイの気恥ずかしさはますます募る。だが、目の前で悪戯っぽい顔をしている人には敵わないことはよくわかっている。
渋々、周りを気遣いながらセイが小さな声で囁いた。

「あの……、屯所で髪を下ろしてらっしゃるところを見るのは久しぶりなので」
「髪?髪なんて……」

風呂に入れば当然、と言いかけてその意味を理解する。
一番隊と小姓のセイとではなかなか掛け違うことが多くて、廊下ですれ違うか、総司が幹部棟に現れたとき、そして非番の時くらいのものだ。
それでも、総司が暇を見つけてはセイを構いに来るので、一番隊にいたときほどではないが、全く顔を合わせないわけではない。

だとしても、風呂上りの時間は限られており、そんな時間に出くわすことも少ない。

“屯所で髪を下ろして”

ごくごくたまに、機会に恵まれてセイを過ごせる時間に何度か髪を下ろしていることがあった。離れで風呂がついた部屋を選んだ時に、セイだけでなく総司も頭から湯を流していた。

つまり、そういう時だ。

う、と口元を覆った総司はセイがなぜ赤くなったかの理由を悟り、それから全く違う話を口にした。

「会議は、いつ終わるかわからないんですか?」
「あっ、はい。副長は遊んできても朝に戻ればいいなんておっしゃってましたけど」

―― そんなわけにはいきませんから

そう言いかけたセイの背中をすっと指先が撫ぜた。びくっと再び顔を赤くしたセイに、総司がにこっと笑った。

「じゃあ、ちょっと待っててくださいね」
「え?」
「これ、置いてきますから」

そういって、総司は手にしていた着物を見せる。意味が分からなくて目を丸くしていたセイに、頭一つ分下げた総司が内緒話をするようにセイの耳元に手を添えて囁いた。

「私だけじゃ不公平でしょう?付き合いますよ」

―― 神谷さんの洗い髪が見られるところへ洗い髪

とん、と肩に触れて大階段のところで、と総司は隊部屋へと
着替えを置いて、刀を取りに向かった。
セイも自分の刀を取りに副長室へと戻りながら、
耳が熱くなっていることには目を瞑ることにした。

– 終わり –