節分

わくわくして総司が待っていると、ばらばらとそれぞれに豆を持った隊士達が幹部棟へ向かってやってきた。

「副長失礼します!」
「うぉっ?!なんだお前ら!!」

あまりの集まり具合に土方が怯えた顔になると、総司がその後ろでにこにこと笑った。

「いやだなぁ。土方さん。豆まきですよ。豆まき」
「だっ、だからってなんで俺のところにこんなにくるんだ?!」

ぴっと指を立てた総司に皆が一斉に頷いた。

「「「そりゃあ、掛け声が掛け声ですから」」」

そういうと、皆がにやりと笑って豆を手に握りしめると土方のいる副長室の部屋の中へ向かって思いきり力強く豆を投げつけた。

「「「鬼は~外!!!」」」

ばちばちばちっ、と派手な音がして雨あられと降り注ぐ豆のつぶてに土方は片腕を上げて頭をかばったが、それでも相当豆がぶち当たった。

「あはは。さすがに気合入ってますねぇ、皆さん」

総司にも豆は降り注いだはずだが、こちらは要領がいいだけあって賄からお鍋の蓋を二つほど借り受けてきていて、両手にお鍋の蓋を持って見事に豆を叩き落としていた。

「お~ま~え~ら~!!」
「おっ!間に合ったな」

こめかみに青筋を立てた、まさに悪鬼がごとき土方が立ち上がったところに、人垣の向こうから近藤の声がした。
豆まきに間に合うように外出から急いで戻ってきたのだった。

「やあ、今年もこの部屋は賑わってるなぁ!」
「勇さん!!賑わってるじゃねぇ!!毎年毎年っ!!」

雷が落ちる直前の避雷針代わりの近藤の帰還に皆がほっとしていると、今年は土方も怒りを納めずにそのまま怒鳴った。

「もう、我慢がならねぇ!!今年から節分の豆まきは変更だ!!」
「……変更って歳……」

困惑した顔の近藤に、仁王立ちの土方は鼻息も荒く言った。

「俺だけじゃねぇ。どうせ俺達全員が鬼なんだからな。だったら、鬼は内、福は外、にしろ!!」

どうだまいったか、という風情で土方が皆を見渡していると、きょとん、とした顔でそれぞれに顔を見合わせている。
その反応に、微妙な顔になった土方は急に不安になって近藤や総司の顔を見た。

「……、おかしいことを言ってねぇぞ?」
「まあ、そうですけど」

本当に微妙な顔になった総司と隊士達に、近藤が弾けるように笑った。

「よおし。それでいこうじゃないか。どれ」

すぐ傍にいた、隊士の手元から豆を一握り掴むと、近藤は手の中の豆を上に向けて放り出した。ばらばらと自分にも土方にも周囲にいた隊士達にも豆が降ってくる。

「のぁっ、何すんだ!!」
「ん?だって鬼は内だろう?」
「・・・・!」
ぐっと言葉に詰まった土方を見て、総司が腹を抱えて笑い出した。

「あははは!本当にそうですねぇ!」

あちこちからぶぶっと吹き出す声が響いて、笑いが広がっていく。歯噛みした土方に、隊士達を押しのけて升に山盛りの豆を入れたセイが前に進み出てきた。

「はい、ちょっと、ごめんよ。ごめんなさいよー」
「なんだ、おい」
「お?神谷、なんだよ」

ぐいぐいと隊士達を押しのけたセイが土方と総司と近藤の間に割り込んだ。

「はい。副長の分です。存分にご自分に向かって投げつけてください」
「テメェ……」

ふるふると拳を握りしめた土方の手をぐいっとセイが引っ張るとその手に升を押し付けた。そして、びしっと土方の目の前に指先を立てた。

「必ず、歳の数だけ召し上がるの忘れないでくださいね?誰も副長の年の数なんか数えませんから」

ふん、と鼻息も荒く去ろうとしたセイの襟首を捕まえると、たった今渡されたばかりの升から土方がセイの背中に豆をざらざらと流し込んだ。

「ぎゃああああああ!!!」
「あっ、こら!土方さん、何してるんですか!!」

すっかり目の座った土方がセイの襟首を離すと、にやりと笑って振り返った。手には、思いきり握りこんだ豆。

「お~に~わ~う~ち~~~~っ!!!」

先程思いきり豆を投げつけてきた隊士達に向かって、思いきり豆を握った拳を振り上げた。

「「「ひえぇぇぇぇぇ!!!」」」

一斉に逃げ出した隊士達を追いかけて土方が走り出した。
部屋の中では、半べそをかいたセイが両腕を広げて左右に体を揺するとばらばらと豆があちこちから飛び出してくる。

「神谷さん、大丈夫ですか?もう、土方さんたら大人げないなぁ!」
「あっはっは。あれで歳も憂さを晴らしてるんだろうよ」

ぽん、と総司の肩を叩くとにやっと笑った近藤が総司の襟首から手にしていた豆を全部流し込んだ。

「ひぇっ!!」
「はっはっは。お揃いだな。神谷君」

笑いながら局長室に去って行った近藤を見送って、総司とセイはやっこのごとく、左右に体を揺すって豆を取り出す羽目になった。

***終わり。