その願いさえ 19

〜はじめのつぶやき〜
本当はね、年始というかこの年末年始のお休みにもっと更新するはずだったんです!!
が、ちょっとアクシデントがあってなぜか1本だけ。。。ごめんなさい。
BGM:T・O・T!~Vivid Men~
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このままでいてほしい。

そう思えば思うほど、そんなときであればあるほど、時の流れは残酷なものだ。

目に見えるような動きをするほど、伊東の一派も愚かではない。だが、新平や、そしておそらく監察の者たち、ほかにも紛れているだろう間者の類の者たちにはざわざわと落ち着かない空気は伝わっているだろう。

動きで言えばあちこちの手の者たちの動きもひどく活発だ。日ごろの隊士として変わらない動きをしながらも、不穏な動きを掴むために動き回る。

一番隊に身を置いている新平は新参者とはいえ、その腕や気遣いができると重用されていて、忙しくしていた。

「それでは神谷さん。代わりに私が行ってまいりましょう」
「すみません。郷原さん」
「いえいえ。黒谷では沖田先生や神谷さんじゃないと務まらないでしょうが、町飛脚ならいくらでもまいりますよ」

羽織に袖を通し、油紙に包んだ文を預かって屯所を後にする。セイはセイでこれから局長の供で黒谷に向かわなければならないから新平に文使いを頼んだのだ。

このところ、近藤は呼び出しがあってもなくても黒谷に足を運ぶことが多い。それに伴って、セイや、総司、一番隊は頻繁に供をすることが増えた。

懐に文箱を温めながら歩く新平は、ゆったりと足を進めながら、偶さかの一人歩きを楽しむように足を進める。草履のつま先はしっかりと踏みしめているがちらり、ちらりと周囲に目を向けた。

目の前を斜めに横切った番頭風の男が目配せをして通り過ぎる。

何も気づかないふりで通り過ぎた新平は飛脚屋につくと、文箱から取り出した文をそれぞれ宛先を確かめて渡していく。セイよりも少し多めに心づけをつけて代金を支払った後、飛脚屋を出た新平は屯所には向かわずにふらりと歩き出した。

「時間がありません。手短に」
「……」

ふいにすぐそばで声が聞こえた。
見知らぬ男の声だが新平は、気づかぬふりでゆったりと周りを見回してから、近くの茶屋を目に入れて歩き出す。

すぐそばを歩いているものの、寄り添う気配は薄い。

「洛外にたまっていた不逞浪士が寄せ集められました。一刻ほど前に集められた後、どこかに向かったようです」

いくら自由が利かないといっても多少の猶予はある。とはいえ、つなぎをつける店に向かうほどの余裕もない。

そのまま、わずかに顎を引いて承知したという意志だけは伝えてとにかくその場を離れる。

わざと先ほどよりもゆっくりと歩き、目についた茶店の店先で表がみえる場所に腰を下ろした新平の視線の先で先ほどの町人が一瞬、新平を見て離れていく。

「おいでやす」
「茶を頼む。それから何か干菓子かなにかはあるか?」
「へぇ。落雁でよろしおすか?」

先に銭を渡した新平は腕を組んで表の人の流れを見ながら頭の中で何があるのかと思案を巡らせる。

誰が動いているのか。
どこが動くのか。

洛外から集められた場所を聞けがよかったと思ったが、その余裕もなかったのだろう。

茶を飲んで頭を冷静にするために息を吸い込んだ。

屯所に戻れば身動きはしづらくなるが、巡察がある分、情報は動くかもしれない。

―― 巡察に引っかかるほど間抜けな輩だろうか……

迷う。
決める。

時間は動く。

半分までゆっくりと飲んでいた茶を一息で飲んだ新平はすっと立ち上がった。
屯所とは逆の祇園の途中まで向かえば少しは動きがわかるはず。つなぎをつけるのも花街なら塩梅がいい。

近藤の供につくのに、総司とセイだけがつくということはあり得ない。特に今は。
ならば、一番隊が動いているはずだけに、まずはそこに近づく方が話が早いと踏んで動き出してかなり近づいたあたりでその異変に気付いた。

なにかあったときに、必ず普段とは違う空気が動く。

町人たちや、道を行く人々が不安げにあちこちを見回している様子に眉をひそめた。足早になる自分の胸にある感情がただの動揺なのか、不安なのか、自分でも見極められないまま、新平はその感覚のままに進む。

腰のものを押さえて走る黒い影を見かけて左手が自然に動いた。
刀を押さえて、走る先に同じ一番隊の林を見つける。

「林さん!」
「郷原か!」
「何があったんです?」

息の上がった林が足を止めたつま先に砂埃が舞う。

「襲撃だ!腕は大したことないんだが、人数が多い」
「場所は?!私も行きます!」
「前田屋敷の川沿いだ!」
「承知!」

林はそのまま屯所に向かうと言う声を背中に聞きながら、踵を返した新平は走り出した。