その願いさえ 23

~はじめのつぶやき~
ようやく、終わりがみえてきたぞと。おそ・・くてすいません・・・。
BGM:悲しみのバンパネラ
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「沖田先生」

足元にうなだれたままの総司を見降ろして、新平は口を開いた。

「それが武士の姿ですか」
「……っ」
「それが、反省をしている在り様ですか」

総司の膝の上で猪口から溢れた酒で濡れた手がぎゅっと握り締められる。それをみて、ただ静かに、決まりきったことをただ口にした。

「悔いて、腹を決めようなんて思ってないですよね」
「……っ!思ってますよ!あの人には幸せになってほしいと、あの人にだけは」
「では、その幸せとは?」
「それはっ……」

娘らしく嫁に行き……。

そう口にするはずが、総司の舌は凍り付いたように動かなくなる。

「沖田先生?」
「……っ」

ふーっと大きく息を吐いた新平は、片膝を落としてかがみこんだ。

「先生は、……どうしてそうなんです?」
「え……」

新平の問いかけにひどく苦しそうな顔を上げた総司は、一瞬、その問いかけの意味をとらえきれなかった。

「そう……とは……」
「沖田先生は、本当はすべてをわかっていらっしゃる。なのに、ずっとそれを認めようとしないのは、本当は沖田先生の一番の望みも神谷さんと同じだからなのでは?」
「……!そんなことは!私の望みは武士としてっ」
「武士として?」

武士として。

―― その答えは……

揺らいだ目が伏せられて、そして下を向いた総司をおいて、新平は座敷を出た。

「……ふう」

店をでてすぐ、思わずため息が漏れる。

この国が、幕府と討幕派に揺れる中で、女子が武士と偽るなど、あり得ない。
それも、女子が生き延びるための事としても、普通なら何とかして隊を抜け出させて、娘として立ち行けるようにすべきなことものわかっている。

だが、新選組を何かあったときに抑え込める切り札の一つとして、使うことができると判断した。
だから新平は、セイに手を貸したのだ。

そうすることで、新平が隊の中でも情報を握れるように。
なにかの時のために。

だが、ただの男として、武士として、いざとなるとこんなにも自然に体は動くものなのか。

無意識に、隊士たちの無事を思った。
いや、それは正しくない。

無意識にではなく、ただ、斬られてその姿が改められた時、女子だと知られてしまうことは避けてやりたかった。
そして、できるなら無事に、過ごさせてやりたいと願う。

そう思うほどには、セイはただ一筋に、武士としてあろうとし、それだけの努力もしていることを知っている。

だからこそ、一番隊の組長であり、幹部でもある総司がこんなにも煮え切らないことに思わず腹を立ててしまった。

男として。
武士として。

セイを女子として見ているわけではないが、新平にとっての矜持に悖る姿にどうにも我慢ができなかったのだ。

―― まさか、あれだけの人が、あれほど腹が座ってないなんて思わないだろう

惚れた女についてだけは。

傍から見ればこんなにもわかりやすいというのに、セイはまだしも総司だけがあれほど迄にわかっていないとは、誰が思うだろう。
こんなにもわかり切ったことなのに。

一度、秘密を抱えてしまったら、どこまでも抱えきるしかない。そして、それは簡単に手放したりするものではなく、最後まで責任を持つべきものなのだ。

新平が抱える秘密と同じように。

京へ来てから、歩き方さえも多少武骨に見えるように気を付けていたが、今は気を使わなくても武骨になりそうだった。

満足するほどには腹に収めたはずなのに、満足感もなくただ膨れた腹を少しでもこなれるように遠回りする。

総司がこれから、どうするつもりなのか、新平が知るはずもなかった。