流星2

セイが近藤について屯所に戻ると、土方が副長室にいなかった。

「うん?歳?」

局長室に戻った近藤が隣の部屋を覗いても部屋の主は随分長いことそこにはいないようだ。
そういえばこの部屋に戻ってくるまでもなんだかざわざわとしていた。

「何かあったのかな?」
「そういえばなんだか……」

近藤の着替えを整えていたセイが顔を上げた。
そこに、どすどすと足音がしてセイは隣の副長室の襖を開けた。

「お、神谷。戻ってたのか。近藤さん」
「歳。なにかあったのか?」
「どうしたもこうしたも……。総司の野郎が熱だしやがってな」

苦虫をかみつぶした土方が困ったものだという。驚いた近藤に肩を竦めて見せる。

「どうしたんだ、急に。ひどいのか?」
「随分熱が高い。お前がいつもいる部屋に寝かせてあるが……」

それを聞いてすぐにセイが局長室を飛び出して行った。

「何があったんだ?」
「それが話を聞くと呆れるぞ?」

心配顔になった近藤がセイの後を追って部屋をでていくのについて土方が再び幹部棟の小部屋に向かう。

「昨日、あのくそ寒いなか星空を眺めてたんだってよ。隊士が気を遣って火鉢、じゃねぇ。七輪を傍に置いてやったみたいなんだけどな。風呂上りにずーっと表にいりゃ熱もでるってんだ」
「なんだってそんなことを……」

困惑しながら小部屋に入ると、横になって真っ赤な顔で苦しげな息を吐いている傍に心配そうな顔でセイが手拭をかえている。
その横に座った近藤が手を差し伸べると真っ赤な顔が驚くほど熱い。

「総司!歳、医者は呼んだのか?」
「とっくのとうに呼んだ。診てもらった。熱が下がるのを待つしかねぇってよ」

部屋の入口で障子に寄り掛かった土方が顎で示すと頭の上の方には盆の上に土瓶と薬が置かれていた。
やるべきことはやってある。後は本人が熱を下げるだけだ。

「確かに熱は高いが、大丈夫だろ」
「…うむ」

顔を曇らせた近藤の肩を叩いて土方は首を振った。

「神谷。お前、総司が熱が下がるまで面倒見てやれ」
「承知しました」

こちらは心配を通り越して無表情に近いセイが頷いた。傍にいてもそれ以上はどうすることもないと言われて近藤は立ち上がった。

「神谷君……。帰ったばかりですまないが総司を頼むよ」
「お任せください」

セイが頷くと、近藤と土方は小部屋から出て行った。残されたセイは、総司の様子を見てから自分が昨日から着換えてないことに気付いて、一度隊部屋に着替えを取りに戻った。

総司の分と自分の着替えを持ってくると、部屋の隅で着換えてから総司の汗を拭った。
熱に浮かされながら深い深い眠りに沈んでいる総司に心配そうな顔を向けた。

熱が高いのに、まだ熱が上がるのかぶるっと震えた総司は布団の中で寝返りをを打った。

「寒い……、……さん」
「先生?」

枕元ににじり寄ったセイが総司の頬に手を当てると吐く息が燃えるように熱い。
セイの手がひんやりして心地よかったのか、その手を頬の下にしてにこっと微笑んだ。

「……う、動けない……」

手を引くわけにもいかず、そこから動けなくなったセイは、仕方なく肘をついて総司の寝ている横に寝そべった。

「先生……、どうしてあんなに寒いのに空なんか見てたんだろう」

セイは総司の寝顔を眺めながらひっそりと呟いた。