親しき中にも 2

~はじめのつぶやき~
そんなに長くないので前後編ですかね。わがまま先生の甘ったれぶりを少し。
やっぱり先生のお話も病気になってもうコミックスで5冊くらいたつとどうしても増えますねぇ。

BGM:24K Magic Buruno Mars
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「落ち着いたら少し横になりましょうか」

促されれば素直に横になる。
だが、不機嫌そうな様子は変わらない。

ふと、南部は首をひねった。

「沖田さん。お暇でしょうから少しお話でもしましょうか」
「え……」

放っておいてくれ、とその顔に張り付けた総司ににこにこと南部は微笑んで見せた。

「気晴らしにならないかもしれませんけどね。沖田さんのご家族は?」
「姉が……。姉の家族がいます」
「そうですか。では、京に来るまではずっとそちらに?」

緩く首を振った総司は気怠そうに眼を伏せた。
試衛館は総司にとって、もはや家と同じようなものでいつも温かだった。

「私は父のもとで幼いころから手伝いをしていましたが、そこからもっと医術を学ぶためにメースの御父上について学びました。幼い頃から他所様に囲まれていたようなものです」

にっこり微笑む、南部の穏やかな様子からは、それまでの生い立ちやこれまでの様子は想像したこともなかったが、きっと松本と共に、まっすぐに真剣に医術と向き合ってきたことは考えなくてもわかる。

「父も、患者さんも、手伝いの方もお弟子さんも家族のようなものでしたから、余計にきちんとしなければと思ってきましたが、沖田さんもお武家様ですし、同じようなものですかね」

穏やかに、ただひたすら穏やかな口ぶりの語りにぼんやりと耳を傾ける。

それがなぜか不思議と心地よくて、荒れていた心が少しずつ忘れ始めた。

「まあ、男は甘えるということがそもそもありませんけどね。だから、沖田さんを見ていると時々うらやましいですよ?」
「……うらやましい、ですか?」
「ええ。こういっては、……よくないんですけどね。こうして過ごしている姿を見ていると、神谷さんは誰よりも神谷さんに気を許しているんですねぇ」

何をいうのかと、その意味が分からなくて目だけを南部に向けると、まっすぐに見つめた目が不意を突くようにまっすぐに刺さった。

「親しき仲にも、と言いますが、神谷さんにだけはその垣根がなくて、心底わがままを言ったりされているので」
「……っ!!そんなことはっ」

どちらかといえば、セイがこうして総司が自由にならない間に何かやらかさないか、それが気になって仕方がない方が先だというのに、何を言うのか。

そう返したつもりで、総司は頬に血が上るのを感じる。

「違う、とおっしゃるかもしれませんね。それもいいでしょう。でも、決して一方の目線だけではなく、客観的に見た結果ですからね」

間違いはありませんよ。

まるでそこにあるのが当たり前だと言わんばかりの口調に、反論しようとしたが、南部は片手をあげてそれを制した。

「反論は、また次の機会にしましょう。さ、少し休んで下さい」

有無を言わさずに横にならせた総司を置いて、南部は部屋を出る。
隣の部屋をそのまま通り抜けて、玄関わきの部屋へと戻りかけて足を止めた。

「おや。……おかえりなさい」
「……ただいまもどりました」

そういったセイは、濡れた羽織を脱いで足袋も取り換えている。
戻ったのはしばらく前なのだろう。

聞いていたのか。

あえてそうは言わずに、南部は火鉢の傍に腰を下ろした。

「患者さんには薬を飲ませておきましたから、じきに熱も下がると思いますよ」
「はい」

胸に抱えていた風呂敷包みを持ったまま、セイはぼんやりとその場に佇んでいた。

「先生。戻りました」

襖を開けて部屋を覗き込むと、横になっている姿にほっとして部屋へと入る。

「先生?お休みになってるんですか」
「……」

畳に片手をついてそっと腰を下ろしたセイは、静かに風呂敷をほどいて着物を乱れ箱に収めた。

こんなことしかできないと思っていたのに、総司の懐に入ることができているというのなら。

―― 先生。必ず、また先生が走り出せるように。

部屋の隅で火鉢がちりちりと音をさせている。
セイの胸の内と同じように、密かに。だが確実に。

病み抜けた例が身近にあるのだから、総司にもその奇跡が起こらないわけがない。

「……先生。具合がよくなったら、大福でもぜんざいでも食べましょうね。そしたら、きっともっと力が湧いてきて、元気になれますよ」

眠っているのか、いないのか。
それはわからないが、セイは小さく呟いた。

—おわり