雷雲の走る時 6
〜はじめの一言〜
前回のお詫びの独り言が意味が通じないですよねー全部おわると通じるはずなんですけどー
BGM:ヴァン・ヘイレン Ain’t Talkin’ ‘Bout Love
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その時のことを思い出したのか、セイが眉を顰めて自分の刀を差した。
並んで歩いていた山口に向かって、相手はわざと鞘を当ててきたのだ。武士の命たる刀に当たるとは言語道断なことである。相手がわざと当ててきたのは分かっていたが、ここは引くのが得策と山口はすぐに詫びを口にしたのだ。
「これは、申し訳ない」
「なにぃ?武士の命に当たっておきながらすまんで済むのか!」
山口が反応を返すところを狙っていたのだろう。間をおかずに、相手が山口の足に斬りつけてきたのだ。
この状況で抜刀すればまずいと、刀に手がかかったセイを山口が止めた。そして、斬られたために膝をついた姿で、再び詫びを口にした。
だが、相手がそれを嘲笑って、全員が刀を抜いてきたところへ総司が現れたのだ。戸板の上に乗せられた山口も、防ぎきれなかったことを詫びた。
それぞれの眉間に皺が寄って、憂いが深くなる。
「とにかく無事でよかった」
「申し訳ありませんでした。先生」
山口に止められたとはいえ、セイはもう肩が痛くてうまく刀が握れないでいた。
もめている間に、小童といわれて、痛むほうの肩を思いきり刀の柄でどつかれたのが響いた。指先までしびれが走って、痛くて腕を上げる事さえ辛い。
こんな状態で通常の隊務などはこなせるわけがないと自分自身でも思う。ただ、それを総司に言いだせずにいた。
山口を医者に見せた後、屯所に戻った三人は病間に山口を運び込んだ。ざわざわとその様子を診ていた隊士達をかき分けて、総司は土方の元に報告に向かう。
「薬を買いに行っただけで三人か」
「ええ。土方さん、もう少し時間をもらえませんか。三日じゃ無理です」
今のままで、たった三日セイを大人しくさせていたからと言って、何ができるだろう。そう申し出た総司に、腕を組んで報告を聞いていた土方が、まったく逆のことを口にした。
「いや、それなら明日から午後と夜の巡察には神谷を必ず同行させる。隊にかかわらずだ」
「土方さん!」
「落ちつけ、総司」
腰を上げかけた総司に土方が落ち着いた口調で話しかけた。
「誰もアイツが相手に向かっていく必要はないだろう?あくまで餌だ。あとは他の者が守ればいいだろう?それに神谷が怪我をしていて、動きが鈍っていることも相手の隙を誘うにはちょうどいいじゃねえか」
「そんな、神谷さんに何かあったらどうするんです?!せめて刀をまともに握れる様になるまで待ってください!!」
手をついて前のめりになった総司の顎をぐいっと土方は掴んだ。ひときわ厳しい目が総司を留めた。
「総司。組長が下の者を心配するのはわかる。だがな。一平隊士の状態で左右していい状況か?お前にもそれはわかるだろう?」
確かに、自分が土方だったらそうするかもしれない。
だが、総司はセイが女子だということを知っているのだ。知っていてどうしてそのままにできようか。
掴まれた顎を外して、総司はその腕を逆に掴んだ。
「じゃあ、神谷さんが出るときは私も必ず付き添います」
「駄目だ」
「どうして!」
土方は掴まれた腕を振り払った。総司が食い下がる。
「お前がついているとわかれば、餌の意味がなくなる」
「土方さん!」
「各隊に任せろ」
それ以上、いくら言っても土方が折れてくれることがないことはわかっていた。だが、頭から離れないのは総司も同じことだった。
副長室を出ると、総司は病間へ足を向けた。
自分自身でも愚かしいくらい、頭の中がいっぱいになっていることは自覚がある。それでも今はセイのことが心配で頭を離れない。
顔を出した総司に、小者達が挨拶をしてくる。
山口に付き添ったセイは、熱を出し始めた山口の額に手拭いを乗せていた。
「神谷さん、山口さんはどうですか?」
「沖田先生。少し熱が出てきたのと、斬られた場所が場所なので、しばらく身動きするにも難儀するかと……」
痛みに顔をしかめたまま、眠ってしまったらしい山口の傍でセイは総司に傷の様子を告げる。
総司はそのまま、セイを伴って賄いに移動すると夕餉をとった。膳の前に向かい合っていると、些細な動きでもセイが痛みに顔をしかめる瞬間がある。
「そんなに痛むんですか?」
箸が止まってセイが苦笑いを浮かべる。
「なんだか、意識しちゃうと今まで平気だったのに痛くなっちゃいますね」
「そんなになる前に言ってくれればよかったのに……」
心配そうな顔をした総司をみて、セイはほんの少しだけ、心配されることが嬉しくなる自分が申し訳なくて顔を伏せた。
「大丈夫です、沖田先生。今は幹部の先生方だってお疲れなんですから。こんな怪我くらい大丈夫ですから!」
「貴女ってば……・」
は、と破顔した総司を見ながら、セイはもうひとつ口に出していないことがあった。まさか、という思いからまだ総司には言えないでいる。
どうか、間違いであってほしいとその時はただ一人、願っていた。
同時に、もしそうだった時、どうするのか考えているセイは、立派な鬼の一人だった。
夜半、ひっそりと土方の部屋に山崎が訪れていた。
二言、三言の会話で山崎はすぐに土方の部屋をでていく。周囲に気を配り、幹部たちにも目撃されないように細心の注意をはらって屯所を後にした山崎の姿を見た者は誰もいなかった。
翌日、セイは副長室に呼ばれていた。土方のほか、総司、永倉、原田、斎藤、藤堂が顔を揃えている。
「神谷。先日の永倉が捕まえた奴から“新選組を相手にするなら前髪の童を狙え”ってぇ話が出回っているらしい」
言い回しによって、セイがうんと頷かなければならないようなところに持っていく話しぶりに総司のこめかみがぴくりと揺れた。
「そこでだ。小者達や内勤の者を狙わせるわけにもいかん。お前には囮になってもらう」
「はい!」
状況を知らず、特命を任されたと思っているセイは素直に、頷いた。
「いいか、今回お前は餌だ。餌は戦うんじゃねぇ。周りの者に任せておけ。でないと何度も餌として使えなくなる」
「そんな!敵前逃亡は士道不覚悟じゃないですか!!」
「うるせぇ。お前はそんなにさっさと死にてぇのか?そういうことは別の機会にやれ!」
ぐむ、とセイは言葉に詰まった。別に死にたいわけではないが、法度破りになるのも嫌だと思う。法度は法度、とこれまで納得のいかない時も飲み込んできたのだ。
– 続く –
るーさん こちらこそ、年単位のお願いをかなえてくださってありがとうございます。 …
わーい!喜んで頂いてめちゃくちゃ嬉しいです!いつもありがとうございます! 褒めら…
おはようございます。 コメントありがとうございます。こちらこそ、今、風にはまって…
風の新作うれしかったので、こちらにもお邪魔します^^ 風光るにハマってしまって1…
そりゃーお返事しますよ!もちろんじゃないですか。 そんなこんなで久々にちょいちょ…