風の行く先 12

〜はじめのひとこと〜
拍手お礼画面にてタイムアタック連載中のお話です。

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「あっ!!」

ぱっとセイを抱きしめていた腕を離して、総司が大声で叫んだ。驚いたセイにごめんなさい、と言って総司が慌てて立ち上がった。

「えーと、最低限の物は揃えてあるんですけど、ほとんど何もないんです。後で神谷さんの荷物も運んできますね」
「え?あの?!」
「私は一度、屯所に戻ります。土方さんに神谷さんを除隊させてくれるように頼みこんだときに、必ず報告するって約束したんですよ」

あまりに話が急で、目を丸くしているセイに、必ずすぐに戻るから待っていてくれと言って、総司は急いで屯所へと引き返した。

 

セイが休暇に入った次の日の深夜、密かに総司は土方の元を訪れていた。

「なんだ?ようやくしゃべる気になったのか?」

機会を見つけては総司に何があったのか、話せと土方は詰め寄ってきた。頑なに話そうとしない総司に、このままなら総司の思い通りにはさせないと告げたその夜。

密かに副長室に現れた総司に、眠りかけていた土方は夜着のまま起き上がった。

「土方さん。お願いがあります」
「なんだ」
「神谷さんを除隊にしてください」

同じ話を繰り返す総司に土方は頭を振った。
どうしてもセイを除隊にしろとだけ言い続けている総司に土方はため息をついた。どうあっても理由を話そうとしない総司に土方は問いかけた。

「総司。お前、ここんとこ、暇を見つけては表に出てるよな」

土方の枕元に座った総司が畳についていた手がぴくっと動いた。それを見逃す土方ではない。見なかったふりをして、続ける。

「俺が何も知らないと思うのか?」
「……」

頭を下げていた総司がすうっと息を吸い込んだ音がする。

「お願いします」
「……総司」
「重ねてお願いします」

しばらく黙っていた土方は、総司の様子を見て何か思うことがあったらしい。
穏やかな声が総司の頭の上から降ってきた。

「いいだろう。協力してやる。だがな」

すがるような顔を上げた総司に、土方がゆっくりと笑った。

「話が着いたら必ず報告に来い。でなきゃ、許さねぇ。いいな?」
「ありがとう、土方さん」

―― 必ず。必ず報告に来ます

そういって総司は土方の部屋から出て行った。土方は総司が去った部屋の中でばふっと布団の上に大の字に転がった。

 

副長室で一斉に睨みつけられた土方は、ちっと舌打ちして斉藤を睨みつけた。

「斉藤。お前こそ何をどこまで知ってやがんだ?」

ばれかけた状況で自分だけが槍玉に上がるのは不満だと、話を振られた斉藤が今度は憮然とした顔で藤堂の肩においていた手を引いた。

「副長がご存じなことはおおよそ知っているかと思いますが?」
「お前なぁ……」
「斉藤さん?!何知ってるのさ」

藤堂が斉藤に噛みついた。
ずっと、総司のセイに対する態度には気になっていた。セイをどうするつもりなのかはわからなかったが、総司がセイを単に切り捨てるとは思えなかった。今までの二人を見てきただけに、そこには必ず理由があるはず。

どこまでもセイを不用意に慰めることもできず、何気ない様子でいることしかできなかった藤堂は、その不満をぶつけた。

「冗談じゃないよ!!神谷が何したっていうのさ。理由があるんでしょ?!」
「俺に怒っても仕方がない」

怒り心頭の藤堂を周りで見ていた原田と永倉が両脇から藤堂を押さえた。意味ありげな土方と斉藤の会話に原田と永倉も不機嫌そうにしている。

「なあ、なんか知ってるなら俺達にも知る権利はあんじゃねえ?土方さん」

永倉の言葉に土方が肩をすくめた。建前だけなら土方も知っていることがある。総司が屯所を開けている間に何をしていたのか、である。

「俺が知ってるのは総司が神谷を辞めさせたがっていたこと。それから総司がここしばらく外で動き回ってたくらいだ」
「それで俺達が納得すると思ってるの?!」

藤堂の声に徐々に隊士達が集まってくる。
しばらく黙っていたために、その場の存在感が薄くなっていた近藤が通る声でその場を収めた。

「静かに!これで解散だ。余計な詮索は無用。土方。来い」

近藤の一声で渋々と副長室に留まっていた者達は隊部屋へと戻っていく。局長室へと呼ばれた土方は珍しく真顔の近藤を前にした。

「歳。正直に話してくれ。もしかして……」
「まあ……。あれだ。俺ももっとややこしくない相手だったらもっと素直に祝ってやるところなんだけどな」
「本当なのか?」
「南部医師に確認した。折よく松本法眼がいてな。初めはあの狸、とぼけていたが、引き換えに認めるってことでようやく聞き出した」

ひそひそと話す二人の密談はそれから半時近くに及んだ。

 

 

近藤に追い出されたとしても藤堂の怒りは収まるどころかますます火がついた。薄々話の中身が見え始めてくれば来るほど腹が立った。

「斉藤さん?!知ってたんでしょ?」
「俺が知ってたのは、沖田さんが表で何をしてるかってことだけで……」
「だから!!総司が神谷のことを初めから手放す気なんかないってわかってたんだろ?!」

 

 

– 続く –