恋情 4

〜はじめのお詫び〜
土方さんファンの皆様。。平にご容赦くださいませ(滝汗

BGM:abingdon boys school HOWLING

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外出と外泊を伝え、着物の乱れを直したセイを抱えたまま屯所からでたものの、どうしていいかわからずお里のところへ向った。
元天神という彼女なら力を貸してくれるかもしれない。

お里は、急に現れた総司に驚いた。突然、セイを抱えた総司が現れたのだ。

「沖田センセ、どうなさりました?」

驚くお里に、耳打ちだけしてまずはセイを寝かせてもらうよう頼んだ。
正坊は手習いというので、急いで八木家に迎えを頼むと、苦渋を滲ませて何が起きたのかを手短に語った。
お里の顔を見ることさえできずに、下を向いたまま話終えた総司が目の前で握り締められた手をみてはっと顔を上げた。

目に一杯の涙を溜めたお里が、膝立ちになると思い切りその手を総司の頬に打ち下ろした。

ぱあん、と響く音を避けもせずに、総司は甘んじてそれを受け止めた。

「なん……で、おセイちゃんを……なんで守ってくれおへんどしたん?!」

ぱたぱたと涙がこぼれるのもかまわず、振り上げた拳をお里が総司の胸に叩きつけた。

「帰って!!帰っとくれやす!!もう二度とこの家の敷居はまたがんといて!!」

返す言葉もなく、無言のまま総司はお里の家を後にした。
お里だとて、総司が悪いわけではないことは十分にわかっていた。それでも、そんな目に合い、あまつさえその場に想い人である総司が現れたのだ。
セイの心を思えば、その痛みをぶつける以外に方法がなかった。

ガッ、と通りの板塀に拳を打ち付けて、総司はやるせない思いに歯噛みした。なぜ、どうして、いくつもの言葉が駆け巡り、形を成さないまま、荒れ狂う胸のうちを擦りぬけて行く。

もっと早く隊を辞めさせておけば。
自分がついていれば。
自分の元にさえ置いておけば。

どれもこれも、過ぎてしまった今ではどうにもできない。

重い足取りのまま、自分自身を引きずるようにしてお里の家から離れた。

丸一日眠り続けたセイが目を覚ましたのは、翌日の午後になってからだった。

「……ん」

丸々1日が過ぎて、小さな声と共に、セイが目を開けた。心配そうにお里が覗き込む。

「あれぇ……お里さんだ……」

寝ぼけているのか、ぼんやりとした声でセイがあたりに目を走らせる。

「おセイちゃん?大丈夫?」
「え?なに?私なんでここにいるんだっけ?」
「おセイちゃん?!」

体を起こしたセイは、不思議そうにお里を見て首を傾げた。

確かに、意識のないうちに運ばれたとはいえ、この反応はなんだろう。

「私、お馬だっけ?」

あれぇ?と繰り返すセイに、震えながらも、何かを覚えているかとたずねた。

「えぇ?何って何?私、屯所にいたよねぇ?副長が出かけたから遊びにきたんだっけ?」

――――――!!!

覚えていない!?!

「お……セイちゃん、今日何日やったっけ…?」
「やだなー、お里さん」

笑いながら答えるセイの記憶は、その身を襲った出来事がすっぱりと抜け落ちていた。
途方に暮れたお里は、ちょっと買い物にでてくるといって、南部医師の元をへ駆けつけた。松本に話が伝わることは避けたかったものの、 こればかりは自分が何とかできるような状況ではない。

固く、固く、松本へも言わないことを約束させて、事情を語ると、すぐに南部はお里の家に向ってくれた。

「南部先生?」
「働きすぎですよ、神谷さん。松本法眼に知れたら殴り飛ばされてしまいますよ?」

にこにこと笑顔で南部は、過労で倒れてお里の家に担ぎ込まれていたのだと告げた。疑いもせずに診察を受けたセイは、薬を与えられて再び眠りに落ちた。

「南部先生……」
「お嫌かもしれませんが、沖田先生を呼んでください」

慌しい説明の中でも、総司が事情を知っていて、お里が怒りをぶつけたことを理解していた。しかし、この場合、新撰組の幹部でもある彼がいないことにはどうしようもない。

南部にそういわれて、渋々、屯所に使いを立てた。程なく、総司が現れた。その顔には疲労と苦悩が強く浮かんでいる。

「人間は消し去りたい記憶をその意志で記憶から排除することができます」

セイは、思い出したくない記憶をすっぽりとそのまま、自分で封じ込めたのだと告げた。ただし、こういうものは、いつ何が切欠で思い出すかもわからない。今は、抜けた記憶を言いくるめられても、何処に綻びができて思い出すかもしれない。

その状態のセイを、これからどうしますか?と南部は問いかけた。

記憶が戻らないままでも、受け止めきれる範囲で事実を告げて、それ以上思い出すことがない様にするのか、爆弾を抱えたまま隊に戻すのか、それとも辞めさせるのか。

難しい決断は総司に託された。

「沖田先生…。この前はうちが悪うございました。でも…でも…おセイちゃんを守れるのは沖田先生しかいないんどす」

泣きながら訴えるお里の搾り出すような声がその場のやりきれない思いを如実に表している。
しばらくして、手段はさておき、どうすべきか心を定めた総司が口を開いた。

「どう言っても、記憶のない神谷さんが素直に隊を抜けてくれるとも思えません。そのまま隊に戻すこともできません。……私が」

―― 私が神谷さんを引き取ります。

それを聞いていた南部が、セイが物忘れの病だということにすればいい、と言い出した。

記憶が途切れていくような病があるらしい。本人の自覚はないが、どんどん物忘れがひどくなっていくならば、隊務はこなせない。それを理由に離隊させて総司が引き取ったららどうだと。

松本には自分が話します、といい、南部が請け負ってくれた。

それから、総司が休息所を用意し、近藤や土方を説得してセイを離隊させるまで、セイは南部に与えられる薬で、眠ったままの日が多くなった。

– 続く –