四海波 2
~はじめのお詫び〜
ついに!!夫婦になれるか?!シリーズw
BGM:AI Story
– + – + – + – + – + – + – + – + – + –
結局その後、総司は斎藤をみつけたものの、あっさりとなるようになったな、と言われて総司は何も言えずに黙りこんだ。 巡察の合間に、何度か松本の元を訪れたが京にはいるようだが、なかなか会うことが叶わなかった。
何度目かの訪問の後、ふと思いついてお里のもとを訪ねた。
彼女なら何か知っているかも知れない。
「ごめんください!」
「沖田せんせ?」
珍しい人の訪問に、お里が玄関先に出てきた。セイがいれば中にあげてもらうこともあったが、今はさすがに玄関先での対応だった。
「神谷さんについて何かご存じないですか?その……急に隊を辞めてしまったものですから……」
お里にはどこまで伝わっているかわからないだけに、一応、どこまで知っていても困らないような問いかけにした。
お里は呆れた顔で、情けない顔で立っている総司を見上げる。新撰組随一の人斬りと言われ、セイに対しても時には冷酷と言えるような態度をとることの男が、藁をもすがる風情でお里のもとを訪れる日が来るとは思っていなかった。
「おセイちゃんが隊を辞めはったのは知ってます。けど、うちから、今どうしてはるかをお知らせするわけにはいきまへん。堪忍しておくれやす」
「お里さんは、神谷さんからきいたんですか?今、どうしているかご存じなんですか?!」
はぁ、とはっきりと溜息が聞こえた。今度は、先ほどの申し訳なさそうな様子とは異なって、お里がかなりきつい口調になる。
明らかに総司の声音には、セイがいなくなったことへの心配より、不安のほうが強いと感じられたからだ。
「沖田センセ?センセはおセイちゃんを信じられへんの?そないなことでおセイちゃんを守れますのん?おセイちゃんは、なんも言えなくてもわかってくれはるって信じて頑張ってはるのに?」
「頑張るって何をですか」
気押されながらも、その口から紡がれる言葉は聞き逃せない。
はっと、口元を押さえたお里は危うく口にしそうになった言葉を飲み込んだ。そして、ぐいっと総司を押し出すと、格子戸をぴしゃっと閉める。
「お里さん!」
「うちは何も言えまへん!!でも……信じて……待っとくれやす」
お里が背中を向けてそれだけを言うと、パッと家の中に戻って行った。
一人残された総司は、格子戸に向かって苦しげに呟く。
「何もわからないまま、ただ待つなんて……」
―― でも、これがきっとこれからずっと続くのかもしれない。
二人で生きていくことはこういうことがたくさんあるのだろう。
いつも思っていた。
毎日、死にゆくかもしれない夫を送り出す妻の立場を考えると、自分はそんなことはできないと思っていた。とても耐えられないと。
そして、セイをそんな立場に立たせることもできないとずっと思っていた。でも。
想いを確かめればもっと傍に置きたくなる。片時も離せなくなる。
それは己の道をも歪めてしまうことで、そんなことをあの人が許すはずもないと思っていた。
それでも、二人で生きる道を探そうと言った。それはこういうことも含むということは分かっていたのに、実際に何も知らされないまま引き離されると、すぐに動揺してしまう。
「情けないな、私は……」
ひたすら、待つしかない辛い時間が始まった。
巡察にでても市中で見かけはしないかと目を配り、屯所でセイの離隊を惜しむ声が上がれば自然とその話に耳を傾けてしまう。
誰からも知らされぬまま過ごす日々ほど、辛いものはない。
―― 考えるのは得手じゃないんですよね。
時間がたつと、必ずセイから連絡があるという気持ちはいくらか総司を落ち着かせていた。しかし、それと同じくらいの不安もあった。セイがどう思っていようと、松本が自分などセイにはふさわしくないと思ったら、セイに拒否することはできないだろう。
どこか、もっとよい縁にと思われているのかも知れない。
悩み疲れて、ぼーっとしていることの多くなった組長を一番隊の隊士達はじっと見守っていた。そして、その様は日々、誰かの手によって副長室に報告として上げられていく。
「今日のところはこんな感じです」
「おう。山口、面倒をかけてすまないな」
日々の報告を聞いていた土方が茶をすすりながら、山口を労った。
苦笑いを浮かべた山口が、いやいやと手を上げる。
「俺達はずっと神谷を見守ってきたんです。沖田先生との忍ぶ恋が本物になるならいくらだって助力を惜しみませんよ。今の沖田先生にはちょっと可哀想ですけど」
「甘やかすんじゃねえよ。総司にとっては正念場なんだぞ」
「わかってます!俺達は全員、それを願ってますから!!」
再び茶をすすりながら、土方は不器用な恋人達の行方を思って、ひっそりと笑みを浮かべた。
– 続く –