斉藤さんの夢遊び 2

〜はじめの一言〜
なな様の風花-KAZAHANA1周年のお祝いです。こ、こんなのいらないっていわれたらどうしよう。すいません。

BGM:
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夢の中でとてとてと廊下を歩いている。ただ、いつもよりもだいぶ目線が低い気がした。

―― 一番隊の隊部屋……

すぱん、と障子を開けた斉藤は、部屋の中でのやり取りを目にする。なぜか二人は斉藤には気づいていない。

『だって、沖田先生!ひどいんですよ!鬼副長ってば』
『まあまあ。あれで土方さんはかわいいところがあるんですってば』

疲れたセイが、ぶちぶちと愚痴を並べ立てているところだった。なぜか二人分しかない布団が並び、そこの一つに総司がばふん、と横になる。

『さ。神谷さんも文句ばっかり言ってないで早く休んだらどうです?』
『文句じゃありません!単なる!愚痴です!』

せめて、大変だったと漏らしたかっただけらしいセイが、むっとして枕元に座った。そこまで見ていた斉藤は、手をかけていた障子から離れるとてとてとと歩いて行き、横になっている総司の体の上にひょいっと飛び乗った。
今の斉藤はなぜだか、体が小さくなっていて、ほとんど三等身くらいの大きさだから、総司の胸の上あたりにちょこんと正座して乗っかっている。

「ぐ、ぐぇぇっ!!」
「こら」
「わっ!小さい斉藤さん!また来たんですか?!重いですってば!!」

体の小ささと重さは比例しないらしく、まるで道端の地蔵でも乗っかっているような重さである。

「ふっふっふ。ざまあみろ」
「ざまあみろじゃありませんよ!」
「ふん。愚痴と文句の区別もつかず、組下の者を労わってやることもできない男が何を言う」

斉藤が総司の顔に屈み込んでいくとどうやら重さが増すらしく、斉藤の下敷きになった総司が痛い~、重い~、と騒いでいる。ぎゅーっと思い切り体重をかけた後、体を起こした斉藤にセイが嬉しそうに笑った。

「兄上!兄上はわかってくださるんですね!」
「当たり前だ。お前のことなら何でもよくわかっている」

感動に暮れているセイに向かって頷きを返した斉藤は、自分の言いぐさに照れくさくなる。だが、そこは夢の中。
非常に都合よく、セイは両手を揉み絞るようにして涙ぐんだ。

「やっぱり、わかってくださるのは兄上だけです!」
「無論だ」

なぜか今は小さい斉藤といつもと変わらないセイとでは目線さえだいぶいつもと違うのだが、そこは構わずにまるで二人の世界とでも言わんばかりの空気である。下敷きにされて身動きできない総司から不満の声が上がった。

「ええ~?!ひどーい!神谷さん、ひどい!この前稽古の時に指に棘を差したのを取ってあげたのも、休暇明けの神谷さんが少しでも楽なようにと思って、土方さんの手伝いに行ってもらったのに!」
「どこがですか?!」

ぷん、とむくれたセイが叫んだ。ほんの少しでいいから総司に話を聞いてほしかっただけなのだ。

「沖田先生なんか嫌いです!兄上の方がずーっと好きです!」
「か、神谷さん?!」

すっかりむくれたセイが傍に近づくと、ひょいっと斉藤の体を抱き上げて膝の上に乗せた。大人が子供を膝の上に乗せているような姿は不満ではあるが、それでもセイにぴたりを抱きかかえられているところが堪らない。
なぜか、セイの膝の上では全く重くないらしく、小さい斉藤先生素敵、かわいい、とセイがぎゅうぎゅう抱きしめてくる。

「ちょっと神谷さん?!本気で怒りますよ!!この私を差し置いて、斉藤さんのところに行くつもりですか?!」
「ふーっふっふっふっふ。そこがアンタとは違うのだ」

斉藤が下りたために、がばっと起き上がった総司が立ち上がると足を踏み鳴らして不満を露わにする。勝ち誇った笑いで斉藤は総司を見上げた。
眉間に皺を寄せたセイが、抱えた斉藤をぎゅっと抱きしめる。

「だって、兄上はこんなに小さくてかわいいですもん!意地悪も言いませんし!」
「ち、小さければいいってもんじゃないじゃないですか!じゃあ、私も小さくなりますよ!」

そう叫ぶと、ぽん、と総司も斉藤と同じく三等身になる。すたた、とセイに駆け寄ると、膝の上の斉藤に降りろと言った。

「神谷さんのお膝は私のものです!斉藤さんは降りてください!」
「ふっふっふ。負け惜しみか、沖田さん。情けないな」

現実とはかけ離れた圧倒的優位に気をよくした斉藤はセイの方へと向き直り、その胸に顔を寄せた。

「ほら、こんなことだってできるんだぞ。羨ましいだろう」
「やだっ、兄上ったら!」

ぽっと顔を赤らめたが、とても嫌そうではないセイに総司がぎりぎりと歯を食いしばると、無理やり斉藤が乗っている膝の上に乗ろうとしてセイに抱きついてくる。

「嫌だっ!先生の変態!!」
「へっ、へんたいいいい?!」

セイに膝の上から叩き落された総司があまりの言われ様に涙ぐむ。現実のセイならば間違いなく言わないだろうが、夢の中のセイは斉藤にぴったりとくっついていて、総司に対して容赦がない。

「神谷。それではさすがに沖田さんがかわいそうだろう。せいぜい、ちょっと変態くらいにしておいてやれ」
「はい。兄上」

素直に頷いたセイに満足げな顔をした斉藤が頷いた。

 

 

「……神谷さんのいけずっ!!」

隣の一番隊では突如として大声の寝言にセイが飛び起きた。

「はいっ?はいっ?」

きょろきょろと周りを見渡すと、寝言に全く気付かずに鼾をかいて寝ている者、薄らを目を開けたものの、呼びつけられたのがセイだったので、構わずもう一度眠る者に分かれる。セイだけが大声で起こされた格好になり、ドキドキした心臓を抱えて布団の上に起き上がっていた。

「……何?いまの」

何が起こったのかわからなくて呆然としたセイがふと、下を見るとじっとセイを見ている総司の目と目が合って飛び上がった。

「ひえぇっ!なんですか、沖田先生!」
「神谷さん……、斉藤さん抱っこしてました」
「はぁっ?!」

むっつりと不機嫌そうな総司が片手をあげておいでおいで、とセイを呼ぶ。何が何だかわからないが、とにかく、総司の方へとにじり寄るとがしっと腕を掴まれた。

「え?……ひゃぁっ!」

総司の腕がセイの腕をつかんだと思った瞬間、ぐいっと思い切り引っ張られてセイは総司の布団に引っ張り込まれた。あまりのことに、驚きすぎて抵抗する間もなかったセイの腰に腕を回すと両腕で抱きしめる。

「神谷さん、斉藤さんにすりすりさせてました」
「な、な、な、なっ!!」

意味不明なことを並べ立てる総司が、今度はセイの胸のあたりに顔を寄せてすりすりしてくる。暴れようにも腕ごと総司に抱きすくめられているセイは、押しのけることも逃げることもできない。
満足したのか、顔を上げた総司がにたぁと笑った。

「神谷さん」
「なんですかっ?!」

今度はなんだと身構えているセイに向かってにっこりと総司が笑った。

「かわいい」

そう言うと、体勢をずらして自分の胸にセイの頭を押し付けた総司が両腕にセイを抱えるとうっとりと目を閉じた。すぐに健やかな寝息が聞こえてきて、かちんこちんに固まっていたセイはがっくりと逃げる気力もなく目を閉じた。

夜が明けたら、隊部屋の中が一騒ぎするのかと思うと、今だけは考えるのを放棄して寝てしまうのが一番だと思った。

 

– 終わり –