紅葉の伝言 9

〜はじめのお詫び〜
お待たせしました。なんか無駄に長くなったかな。反省・・・。

BGM:土屋アンナ 暴食系男子

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総司に屯所に戻るのは明日の朝でいいことを聞いて、二人はそのまま紅葉屋敷に泊まることにした。
いつも人がいるわけではないので、簡単な肴と酒くらいしか置いていない。セイは酒肴の用意をしてくると、総司の隣に座って酒を勧めた。

「総司様、本当は局長の心配だけでもいっぱいなのに、私の心配なんかしたくないと思ってます?」
「まさか!」

いたって普通の口調でセイが問いかける。総司が慌ててセイの方を向くのを落ち着いてセイが止めた。

「本当は私が家にいて、安全な部屋の中だけにいたら安心ですか?」
「そんなこと……」
「そんなこと、思ってるんですね?」

悲しげでも怒っている風でもなく、セイは、淡々と総司の話を聞いていた。

「総司様、やっぱりわかってない」

ぽつん、とセイが小さく総司には聞こえないように呟いた。それより、と総司が今度は問いかける

「セイ、貴女こそ、なんで浮之助さんのこと、黙ってたんです?言ってくれればあんなことにはならなかったのに」
「そんなこと、当り前じゃないですか。あんな戯言みたら総司様絶対怒ったでしょう?」
「あ、う、いやそんなことは……」
「絶対怒ってます」

セイが断言して、さすがに総司も違うとは言い切れなかった。
もう、と言いながら盃を重ねるセイは、いつもよりだいぶ飲みが早い。総司にもぐいぐいと酒を注ぎながら、自分もさくさくと飲んでいく。

「そりゃ、少しはそうかもしれないですけど!隊務じゃないんだから、秘密になんてしないでくださいよ」
「総司様、ご自分はよくても私は駄目なんですか?」
「どういうことです?」

段々、酔っ払い状態になり始めたセイは、びしっと総司を指さした。

「知らないと思ってますね?この前っ!暴漢に襲われかけた娘さんを助けて、親御さんからぜひ娘の婿にって言われてましたよね?!」
「げ、貴女なんでそれ知ってるんですよ!」
「それに!この前隊務だからって言って私が先に家に帰った日、本当は土方さんのお伴で祇園で店に上がってたし?!」
「あ、あれはっ、土方さんの警護でですね!その、花代も置かずに私が居座るのは申し訳ないからそうしましたけど、なにもしてませんよ!!」

セイが次々挙げてくることに、総司は慌てふためいて弁明した。すべてセイには内緒にしていたはずなのに、どこから漏れたのか、それ以外も次々と総司がセイには隠していたことを挙げて行く。

「おまささんのお腹、撫でさせてもらってたでしょう!原田先生がいない時に!」
「えぇっ?!だって、赤子が動いたっていうからっ、ってちょっと本当になんでそんなことまで知ってるんですか?」

怒りながらどんどん飲んでいくセイに、総司が止めにかかった。

「セイ、貴女飲み過ぎです」
「いーーんですっ」

言い返したものの、セイはあまりに急に飲み過ぎたために、ふーっと息を吐くと総司の膝の上に倒れ込んだ。総司は、ぽんぽん、とセイの体を抱えて、しばらくそうしていたが、ちょっと待っててくださいね、というと、続き部屋をあけて、押入れを見つけると布団を引いた。
そして、セイを抱え上げると床に寝かせた。

ぐたっと酔いがまわって横になったセイを見ながら総司はため息をついた。
刀をおいて、自分も袴だけ脱いで畳んで端に置くと、灯りを持ってきて薄く落としながら自分もセイの隣にごろりと横になった。

「これじゃあ、話も何もできないじゃないですか……」

苦笑いを浮かべてセイの頬を撫でる。と、つぅっとセイの閉じた瞼から涙が一筋流れた。
眉をひそめて総司がその涙を指先で拭おうとして伸ばした手をすっかり眠ったのかと思っていたセイが掴んだ。涙の流れた瞼が開いて、セイが総司を見る。そのまま体を起こすと総司の手を掴んだまま、総司を押し倒すした。

「セ……んむっ」

総司の体の脇に手をついて、セイが総司の体の上に半身を載せるようにして、上から口付けた。セイが柔らかな舌を総司の口中に滑り込ませる。啄ばむように絡められる舌に総司は、セイの体を引き寄せた。
ぱたっとセイの涙が総司の顔に落ちる。

唇を離したセイが、総司を見下ろして涙目のまま総司に言った。

「総司様は私を分かってないです」

くいっとセイが頭を振ると、伸びた髪がぱさりと揺れた。セイは、総司の耳元に熱い吐息をかけながらいつもなら自分がされるように、耳朶に舌を這わせ た。総司は片耳で感じた熱い息とぬるりと這わされた舌の感覚に思わず目を閉じた。ぞくぞくと体の奥から這い上ってくるような熱が、体の中心で疼く。
セイの片腕が総司の手を離して、着物の袷から胸元へと滑り込んだ。自分がされるように指の腹で乳首を円を描くようになぞると、総司が苦しげな息を吐いた。

「んっ……は、セイ、待って。ちゃん、と話して」

総司はセイの腕を掴んで自分の体から引き離した。
顔を上げたセイが、上気した頬のまま、総司を上から見下ろしている。

「総司様、ずるいです。私だって、いろんな話を聞いて胸が苦しくなるくらい悔しい時もあるのに。捕り物や巡察でも帰ってこられるまで、どれだけ心配してるかも知らないで!」
「ちょっと……あ、の……」
「総司様が子供がお好きだから、申し訳なくて……、それなのに総司様は気遣ってくださるけど、いつもどおりにされてるから、私も頑張ってそうしなきゃって思ってたのに!」
「ちょ、セイってば」

ぱたっと再び零れた涙が総司の顔に落ちる。セイが再び、何かを言おうとした総司の口を塞いだ。
いつもと全く逆転した立場に、総司は驚きながらも、自分達のすれ違いにようやく気づく。よかれと思っていたことが裏目にでていたことに呆れてしまった。

セイよりも大人な自分がちゃんと分かってやらなければいけなかった。
浮之助の追伸の意味がようやく分かった気がする。

総司はセイを抱き寄せた片腕で、セイの帯を解きはじめた。ばさりとセイの背中でほどけた帯の端が崩れる。それでもいつのセイの着物よりも帯揚げなど、小物が多い。総司の手が回るよりも先にセイが自らそれらをはずして、肩から着物を半分だけ滑り落とした。
脱ぎかけの着物と露わになった襦袢が艶めかしい。

「セイ……」

怒ったような目が、総司を見つめている。総司はセイの腰に回した腕に力をこめて、体を捻った。セイの体は再び床の上に戻された格好になった。今度はセイを総司が上から見下ろした。

「……いいんですか?」

これまで総司が抱き寄せるだけで怯えていた体を組み敷いたままで総司が聞いた。セイの腕がぐいっと総司の首に巻きついて、引き寄せる。
総司の耳元で、小さな声が答えた。

「体の内も外も傷だらけでみっともない私が、お嫌じゃないか思って……どうしていいのかわからなかったのに」

傷が残っていたうちは、こんな醜い傷を見られたくなかった。
ただでさえ、火傷の跡に、刀傷、稽古の時に付けた傷など、セイの体は傷だらけだ。見ればそれを総司が気にすることも分かっていたので、よけいに嫌だった。そうしているうちに、総司は溜息をついてセイを懐に抱えて眠るようになった。

眠りながら、総司が難しい顔をしているのを見て、よけいにどうしていいかわからなくなった。朝になれば、総司が普通どおりに接してくるのでセイもそ うするしかなかった。眠る間に、口に出せなくなった悲しみと総司に対する困惑で、ますますセイは眠る間にだけ泣くようになっていたのだ。

耳元でささやかれた言葉に、総司がため息をついてセイの腕から少しだけ離れて息がかかるくらいの距離でセイの顔を覗き込んだ。

「……じゃあ、嫌なのかどうか、試してみましょうか」

 

 

 

– 続く –