紅葉の伝言 8

〜はじめのお詫び〜
尻に敷かれるねぇ。あれ?!っまだ終わんなかった・・・

BGM:土屋アンナ 暴食系男子

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方向的には宇治のほうへ向かって行くと、寺やどこかの寮などがぽつぽつと点在するようになってくる。
木立の中を分け入るように進むと、かつては寺の持ち物だった紅葉屋敷にたどり着いた。

木戸を開けて中に入ると、庭の表のほうで人の気配がする。どうやら掃き清められたばかりらしい庭に踏み込んでいくと、セイが落ち葉を掃き集めていた。

髪はいつものように総髪風に結い上げているが、着ているものは濃い朱色の紅葉をあしらったもので、庭先から山にかけて染め上げる紅葉の中にまぎれてしまいそうだった。

「セイ」

総司は咄嗟に呼びかけた。振り返ったセイはふわりと微笑んだ。

「すごいですよね。この紅葉。まるで赤い敷物をひいたみたいでしょう?」

足もとに広がる赤を指してセイがくるりと回った。かさりと音を立てながら総司が歩みを進める。

「貴女も紅葉に埋もれそうですね」
「ああ。この着物。ふふ、浮之助さんから頂きました。お芳さんに作ったんだけど、お前の方が似合うって言ってましたけど、たぶん……」

余計な誤解を生んだ詫びのつもりなのだろう。セイをお芳に預けた後、まったく姿を見せなかった浮之助が今朝がた現われてこの着物をセイに渡したのだ。
お芳に手伝ってもらってセイが着替えると、ここに連れてこられた。

「よく、似合ってます。悔しいですけど」
「総司様ったら……また続き、するんですか?」

セイの目の前にきた総司が照れくさそうに、頭をかいた。くすっと笑ったセイは、手にしていた庭用の熊手をぱっと離して、足元に掃き集めた落ち葉をばさっと総司の頭の上のあたりに撒いた。

「うわっ」

総司の視界が一瞬、真っ赤に染まって目の前にいたセイの姿が見えなくなった。

「セイ?!」

焦った総司の背中からセイがぎゅっと抱きついた。総司の広い背中にぺたりと体を寄せて、セイの手が総司の体に回される。その手に総司は自分の手を重ねた。

「ごめんなさい。私は貴女に謝ってばかりのようだ」
「そんなこと……」
「文、読みました」

顔を見せないようにしているのに、セイは自分の頬が赤くなるのを感じた。きっと、総司もそうに違いないと思いながら。

「ええと、その……、悋気を起こすなといわれても、こればかりはしょうがないです。その、貴女が……、私の妻でも」

仰ぎ見た総司の耳が赤くなっている。セイがどれほど男を引きつけるかも総司には十分に分かっているだけに、浮之助とてあの人がと思いはしても、セイを自分だけのものにしておきたくてそう思ってしまうのは仕方がない。
沖田の妻であるということだけで守れるとは思っていないからだ。

「……でも、貴女のことは信じてますから……以後、気をつけます……」

その言葉を聞いて、総司の手のうちからセイの手がふっと消えた。総司の背中に抱きついていたセイが、離れたのだ。振り返った総司を見ながら、セイが後ろにゆっくりと下がっていく。

「総司様?そんなのじゃ駄目です」
「セイ?」
「じゃあ、もっと他の方からも文や、いろんなものを頂いてこようかな」
「セ、セイ?!」

追いかける総司から逃げるようにセイは庭の木の陰に回り込んだ。

「こんなことになるくらいなら、もっともっと困らせます!」

笑いながらセイは身を翻した。しかし、いつもの袴姿ではないのですぐに総司に掴まって腕の中に抱きかかえられた。情けない顔で総司は、セイの髪に顔を埋めた。

「セイ……。それは困ります」
「もっと困らせます」

後ろから抱きすくめるように回された総司の腕に力がこもる。それでも、セイはくすくすと笑いながら続けた。

「もっともっと困っていただくことにします」
「セイ~……面白がってますね?」
「もちろんです。だって……ずるいもの」

―― 私だって、余所で女子に優しくしているところを見ただけでむかむかするのに

少しだけ拗ねたセイの声に、総司の熱い声が耳に届く。

「そんなに可笑しいですか?真剣に恋する者が……」
「総司様こそ……!」

今度こそ、本当に拗ねたセイが総司の腕から逃れた。少しだけ寂しそうな顔で、セイは総司を振り返った。

「中に、はいりませんか。お茶をいれますから」

無言で頷いた総司とともに、セイは屋敷の中に入った。この屋敷は、新門一家が京都でどこぞの寺のものだった屋敷を買い取ったもので、辰五郎が時折ひっそりと訪れるらしい。
屋敷の一室に総司をつれてくると、セイはお茶を入れてきます、と言って部屋を出て行った。

総司は懐に手を入れると、浮之助からの文とセイからの文を手にした。

浮之助の文の追伸に書かれていたこと。

『俺の方がお前より清三郎を分かっているぞ』

こんなことを書かれて、悋気を起こすなという方が無理なのだ。くしゃっと浮之助の文を握りしめて、目についた火鉢に放り込んだ。部屋の中に置かれていた行燈の元に行き、火をつけようとして引出しをあけた。火打ちで火をおこすと、紙燭に火を移して、丸めた文を燃やした。
その後、火の始末をして引出しをしまいかけて、そこにあったものに気がついた。小さな紙が挟まれている。

『沖田へ
俺には不要だがお前にはいるのかもな。くれてやるから持って帰れ』

物が何かを理解した総司は苦虫をこれでもかと噛み潰したような顔になった。取り合えず、見なかったことにして元通りに引き出しごとしまった。

浮之助の仕業に、何と言えばいいのかわからずにいた所に、セイがお茶を持って現れた。もうすぐ夕餉の時刻になるために迷ったものの甘味は置いてきた。

「この屋敷、好きに使っていいと言われましたけど、もう非番もおわっちゃいましたよね」

お茶を入れるのに長くかかると思っていたら、気持ちを切り替えてきたのかセイが普通に話しだした。
そうだ、と総司は思った。こうして今まであれからセイが普通に話してくるから自分もついそのままになっていたのだ。

「セイ。貴女と話がしたいんです」

向かい合った総司は、セイに話を切り出した。
セイは、頷いて総司の前に座った。そして、総司ではなくセイが先に口を開く。

「総司様、あの一件から総司様は私が隊にいるのを嫌がられてますよね?どうしてですか?」

総司は見抜かれていたことにぐさり、と心の奥底を刺された気がした。
確かにあの一件以来、いくらセイが今まで隊士として勤めてきただけあるとしても、どれほど腕が立つと思っていても、隊にいることは嫌だった。

「貴女が怪我したり危険な目にあうことが分かっていて隊にいて平気なわけありませんよ」

総司がそういうと、セイは困ったような顔で溜息をついた。

「総司様、やっぱり分かってない」

そういうと、セイは他のことに話を振った。今日は、覚悟をして総司からすべてを引き出すつもりだった。

 

 

 

 

– 続く –