白き梅綻ぶ 12

〜はじめの一言〜
ザっ奪還!!ありゃ、もう少しと言いつつ終わりませんでした。

BGM:AqureTimes  Velonica
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濱口は両親、牧野は馴染みの小夏、蔵之介はタエを、他に藤堂の隊の篠崎という隊士が許嫁を人質にとられていた。
奪還に動いたのは監察部隊と井上の六番隊である。井上の隊は組長である井上の人柄もあり実直で、腕も程良くまとまった者たちが多く適任といえた。

濱口に関しては、同日まで実家に居座っていた者たちがすべて突然引き上げて行ったために、監察の隊士と井上の隊から半分が向かった時には、濱口の両親と、若い娘がいた。

「新撰組の伊藤と申します。濱口殿のご両親でいらっしゃいますね?どこにもお怪我などはござらぬか」
「ござらぬ。敵方は昼前に皆、号令をかけたように一人の男が迎えに現われて去っていった。その男が、志のためとはいえ、迷惑をかけたと詫びて去って行った」
「そうですか。そちらの娘御は御息女でいらっしゃるか?」
「いや、こちらの娘御は篠崎殿というお方の許嫁だそうだ。ひどく頭の切れる男たちよ。いくつもの場所に人質を押さえたのでは見張りも、手間もかかる。また あまりに下の無頼共では何をするかわからぬ。一切の危害を加えずにわしらを押さえ込むためにこちらの娘御もここで共に人質として軟禁されておりました」

濱口の父親はしっかりした口調で伊藤以下の隊士達を出迎えた。そして状況と男達の人相を事細かに語り、見聞きしたことを漏らさずに告げた。

「このような次第になり、浪人の身とはいえ、誠に面目ない。息子は皆様方へご迷惑をかけたのだろう。もしそれが、許されぬ裏切りを働いたのであれば、武士として潔く己のけじめをつけよ、とお伝えくだされ」
「畏まりました」

伊藤達は、筋の通った父親の対応に感服し、皆礼儀正しく、頭を下げた。
もはや家の中にも障りはないということで、引き上げることになったが、篠崎の許嫁であるお幸をどうしたものかという話になった。
お幸の両親はとうになく、伯父夫婦の元に身をよせていたお幸は許嫁である篠崎が新撰組に身を投じたことで伯父夫婦との折り合いが悪くなっていた。
そこに目をつけたのか、お幸はもはや伯父夫婦の元へ戻ることも難しかった。

「篠崎様にご迷惑をお掛けするくらいならば、もう私など……」

濱口の両親に状況を説明されていたのもあり、お幸は突然男に連れ去られてこの家に連れてこられた後、もう生きてはいかれぬと泣き暮らすばかりであった。

そのお幸に、濱口の母が優しく言い聞かせた。

「そなた、私達は構わぬから落ち着くまではこの家においでなさい」
「濱口殿の母上様」
「聞けば、本当のご両親はもうおらぬ上に、身を寄せていた伯父夫婦ともそりがあわぬのであれば、戻っても居辛かろう?我が家はもう息子のことは諦めておるが、そなたが篠崎殿と暮らせるようになるまでは、この年寄り夫婦の慰みに、好きなだけいてくださればよい」

思わぬことに、お幸をこのまま預かるといいだした濱口の母が伊藤達に手をついて頭を下げた。

「重ね重ね、息子共々ご迷惑をおかけして申し訳もございませぬ。いずれお詫びに参上いたしますが、この娘御には何の罪もございませぬ。せめてのお詫びに、私共でこのまま預からせてくださいまし」

そういわれては、確かにお幸を郷里まで送っていくことも難しい上に、落ち着くまでであっても、京にいればすぐに状況は知れる。
頷いた伊藤は、すべては落ち着いてから改めてということにして、念のために警護の隊士を二人置いて、屯所に戻った。

土方へは次々と監察の隊士から報告があげられていたために、あえてその動きを悟らせないためにも、井上の隊からは報告には向かわなかった。

そして、山崎を筆頭にタエと小夏の探索に向かっていた者達はわずかの差で、宿屋にいたタエと男と捕えることはできなかった。しかし、仲間が立ち寄ってすぐに泊まりもせずに宿を引き払った男達がいたことを聞きこんだ監察の隊士から、一人武家の女を連れていたことが分かった。

「彼等は、初め一人の男が宿をとり、後で仲間が来るからと言ってわかりやすいように通りに面した部屋をとったそうです。それから仲間らしき男達が三 人ほど現われて、しばらくしてから仲間が追いついたと言って急に宿を引き払ったそうです。その時、仲間の男達が一人の武家女を連れていたと」
「それだな。どこに行ったか追えるか?」
「追いますよ。新撰組、監察の名にかけて絶対に見つけて見せます!!」

そう言うと、濱口の両親の家から戻った者達も加わって、監察方のほとんどがその足取りを追いはじめた。

 

監察の調べ通り、宿屋を引き払った男達は、一度町屋に戻っていた。共に戻ったタエは再び奥の部屋に入るように言われた。

「私達はこちらに居りますので」

そう言って、タエを追いやると男達はしばらくぶりに四人かたまってひそひそと話を始めた。

「他の者達は十分に扇動しておいた。夕刻になれば屯所に向かうだろう」
「そうか。もうあちらは奴らに任せよう。少しでも被害が大きくなればよし。だが、奴らの腕では平隊士相手に何人か斬りつけられればいい方だろう」
「そうだな。ここは五人ほど、まともな奴らに守らせる。俺達は、屯所の近くにいて、奴が出てくるのを待つ」
「出てくるか?」
「くるさ。局長の近藤がいない今、自分が暴れるよりも新撰組の体面を保つ方に出る。それが土方歳三という男だ」

四人の中でも互いが対等に見えた中にあって、一人すべての計画を引っ張ってきた男が言った。そのためにここまで大きな仕掛けをしてきたのだと。

「追手はそう時間をおかずにすぐにここに辿りつくだろう。その前に我々は急がねば」

その背後から台所の方の裏口を叩く音がした。別な男が一人そちらに向かうと、二人ほど男が現れた。先ほど言っていた男達のうちの二人らしい。

「すまぬな。ここの警護を頼みたい」
「うむ」

互いに、名も知らぬ。ただ、もともとこの家にいた男達の方がこの計画を仕切っていることだけは分かっている。

「他の者はどうした?」
「これから来る。まとまって来ると人目に立つからな」
「そうか。俺達はすぐ出るが、奥の部屋に人質がいる。決して危害は加えるな」
「分かっている」

そういうと、四人の男達は玄関に向かった。二人の男達に後を任せると、四人はそのまま町屋を出る。屯所近くの茶屋に向かう途中で、残りの男達らしき三人とすれ違ったが、お互いちらっと視線を送っただけで何かを会話することなく行き過ぎた。

これで、もし追手が来たとしても、自分達の存在には気づかれずに済むだろう。彼等は人質の警護であり、自分達の身代わりでもある。

屯所近くの茶屋に入った四人は、店の者に頼んで白粥と梅干し、それに茶を頼んだ。

「覚悟はできている」
「新撰組、副長土方歳三」
「奴の命は今宵限りだ」

それぞれが口にすると、皆、自分の刀の手入れを始めた。

 

監察の意地にかけても探し出すとばかりに、不審なものが出入りする店や家を探った彼等は一件の町屋に辿りついた。すぐに井上の隊に連絡がとられて、六番隊全員が町屋に出張ってきた。

「山崎さん、どんなもんじゃ?」
「井上先生、どうやら五人ほどいるようです」
「うむ、店屋ならまだしも普通の町屋じゃのぅ。裏にも半分まわさにゃなるまい。京の町は家と家の間に抜け道があるからのぅ」

山崎と井上の話に、井上の隊の半分が裏に回った。案内に監察の隊士達も共に向かう。家と家の間の抜け道も漏らさぬように、出入り口を固める。

「よし。じゃあ、ワシからいくか」

井上が自ら刀を抜いて先頭を切ることなど、滅多にあるものではない。その姿に皆が続いた。

「もうし、どなたかおらんかのう?」
「何用だ?」

井上が玄関を開けて奥に向かって声を張り上げると、一人の浪士が奥から出てきた。その男に向かって刀を向けると、井上が言った。

「新撰組だ。人質を返してもらいに来た。覚悟できとるじゃろう?」

一歩、井上が草履のまま上にあがったのが合図になって、奥に向かって隊士達が雪崩込んだ。井上は対峙した男の後を追って、廊下を走り込んだ。
追われながら男は腰の脇差を引き抜いた瞬間。

「遅い」

男は脇差を掴んだところで意識が途絶えた。井上の大刀がまっすぐに男の心の臓に向けて突き刺さる。
一太刀で男を始末すると、刀を振って、他の隊士達が残りの四人と戦っているが、まったく格が違う。
すぐに手足を切り裂かれ、捕縛されていった。

 

 

– 続く –