静寂の庵 13

〜はじめの一言〜
リニューアルのついでにあちこち手直しをちょこちょこと。
BGM:ポルノグラフィティ 愛が呼ぶほうへ
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「藤堂さんが黙っていてくれるなら私は何も言うことはありません。何をどうするか、決めるのは神谷さんですから」
「へ……ぇ。でもさ、うちの隊に欲しいって言ったらどうする?」

挑戦的な目を向ける藤堂を真っ直ぐに見返した総司は、同じように淡々と答える。

「それは私が決めることじゃありません。土方さんや近藤さんがそうするといえば……」
「総司、平気なんだ?!」

目を見開いた藤堂がびっくりして問い直した。散々素直になれなかったくせに、認めたと思ったらこれかとがっかりしかけた。そこに、総司の横を向いた顔がみるみる崩れて、苦い顔になる。

「平気じゃありませんよ。でも……いいんです。その時はその時です。どうせ、私は剣術以外取り柄のない男ですから、自分にできることをするだけです」
「ぷっ」

どこかやけくそにでもなったような総司の物言いに、藤堂は吹き出すと身を捩って笑い出した。

「あっはっは。ごめん!!総司!!意地悪言っちゃったよね。ごめん!!」
「は……、はぁぁ?」

笑いながら藤堂はすっぱりと頭を下げた。いきなり詫びを言い出した藤堂に、総司が慌てる。
にっこりと顔を上げた藤堂の言い様は本当にその気質そのままに清々しい。

「本当に、俺は神谷のこと、大事だから頑張るけどさ。でも、神谷が幸せで笑っててくれるのが一番なんだよね。それが俺の隣じゃなくて、総司の隣でも土方さんの隣でも斉藤の隣でもさ」
「ちょっ、なんでそこに私とか土方さんとか斉藤さんが出てくるんですか!!」
「いや例えだけど、可能性があるとしたらこの辺でしょ?俺達の誰かがいつか神谷を女の子に戻す日が来るかもしれないし、こないかもしれないけど、それでも神谷が幸せで笑っててくれるのが俺はいいなぁ」
「それは……、私も同じですよ」

あまりにきっぱりと言われて、諦めにも似た思いがよぎる。自分達は、この想いだけに生きられはしないからこそ、願うのだ。
限りなく力を与えてくれる存在に。

「そんなこと言って、神谷に怪我させてたらしょうがないじゃん!次は俺が許さないよ?」

じろりと腕を組んだ藤堂が総司を睨んだ。しかし、こればかりは総司も簡単には頷けない。稽古は稽古で、それで怪我をするのも本人次第なのだ。

「見逃さないということは約束しますけど、怪我をさせない、は無理です」
「なんでさ?別にそこまで厳しくしなくたっていいじゃん」
「いいえ、神谷さんが武士であろうとする限り、それはできない相談です。私はあの人に合わない稽古をつけているわけではないですから」

せいぜいできることは、怪我をした後に無理をしていないか、見落とさないことだけだ。

そんな風に言い切る総司に、藤堂は口を開きかけて黙った。確かに、隊にいる限りは自分を守るためでもある。
しばらく考えてから、藤堂は納得したのか軽く顎を引いて頷いた。

「わかったよ。でも、やっぱり今回みたいな目には二度とあわせないで」

―― 本当に、たくさん泣いてたから

藤堂が南部のところに連れて行くまで隠れて泣いて、連れて行ってからも見舞いに行った時にはその欠片も見せないのに、誰もいなければ泣いているらしかった。
それにも総司はなかなか同意しなかった。

「そうは言ってもねぇ……。あの人、泣き虫ですから」
「うっわ、むかつく。自分が一番知ってるようなこと言うかなぁ」
「そりゃ、あの人が隊に来てからずっと私が面倒みてきましたもん」

お互い、まだまだ何かが始まったばかりだということは十分に分かった。にっと笑った総司を、藤堂が後ろからばしっと叩いた。

「絶対!!負けないから!」
「えぇ~?そんな勝ち負けですかぁ?」

苦笑いを浮かべた総司に、ぶつぶつと怒っている藤堂が歩きはじめた。その隣を総司が歩いて行く。

「総司ってさぁ。素直じゃないよねぇ」
「そんなことないですよ」
「じゃあ、どのへんが素直だってのさ?」

―― 閉じ込めておきたいなどと口から出たなんて言えませんよ。

ひたすら歩きながら総司を小突き倒している藤堂に笑いながら総司は答えない。聞いた藤堂も別に答えを待っているわけではない。
ただ、こんな時間が楽しかった。

屯所の近くまで来るとすでに捕り物の支度を整えた斎藤達が固まっていた。

「あ、斎藤さん」
「……もう組下の者たちが待ってるぞ」

「はいはい。すぐに支度します」
「ごめんごめん。すぐ行くよ」

くすくすと笑いながら走り込む二人に斎藤のこめかみに青筋が立った。

「アンタ達は!これから捕り物だってのに、何を浮かれてるんだ!」

斎藤に怒鳴られて、二人は笑いながら駆け込んでいく。その姿をみた隊士達も驚いて斎藤に駆け寄った。

「斎藤先生。沖田先生と藤堂先生はどうしたんでしょう?」
「ふん。さあな。花でも咲いたんだろう」
「はぁ?斎藤先生?この寒さに咲く花なんてありませんよ?」

聞き間違いかと問い掛けた隊士に、ふっと斎藤が笑った。

「咲いてるさ。……さあ、いくぞ!」

斎藤の声に三番隊の隊士達が集まり始める。いつものありふれた光景を見せる屯所に、雲間から光が差し込んだ。

―― 後で、俺も見舞いに行くか。

「まったく。ここはいつも変わらんな」

そういうと斎藤は組下の者たちを連れて歩きだした。
幹部棟の方からは、遅れて戻った組長二人に土方が雷を落としている。何があったのかはわからないものの、斎藤の口元にも笑みが浮かんでいた。

 

 

– 終 –