続々・湯気の向こうに 4
〜はじめのひとこと〜
あ~あ。(苦笑
BGM:
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残された総司は、後を追うこともせずに呆然と立ちすくんでいた。
自分が急にとった行動も、嫌と言われたことも、頭の中が真っ白になって何も考えられなかった。
体が冷え切った頃、のろのろと湯殿に戻って再び頭から湯をかぶって混乱した頭を少しでも流してしまえたら思う。
―― 私は……いったい何を……
どろどろと、いつまでも風呂にこもっていたかったがそうもいかない。
のろのろと風呂をでると、セイが置いていった着替えを手にする。夜には巡察があるためか、長着や浴衣ではなくいつものちゃんとした着替えが置かれていて、総司は深くため息をついた。
脱衣所から出ると、重い足を動かして隊部屋へと向かった。
「沖田先生」
「相田さん、すみません。今朝は遅くなりまして」
「いえ、副長から伺ってましたから。それにしても珍しいですね」
「ええ、まあ」
話しながらちらちらと隊部屋の中を見ると、セイの姿は見当たらなかった。その視線に気が付いたのかはわからないがついでのように相田が口にする。
「沖田先生の着替えはさっき神谷が洗い物だって持っていきましたよ」
「そうですか。ありがとうございます」
礼を言った総司は、そのあとなんだかんだとあちこちから声をかけられて、セイを追いかけることもままならないうちに、夕餉もすんでしまい、巡察の時間になった。
総司が気がかりのうちに大階段の前に向かうと、ほかの隊士達に紛れてセイがちゃんと集合場所に集まっている。
ほっとしたような、心配したことに関して苛立っているのか、自分でもわからないまま、巡察へと出発した。
帰営してからも、セイとは会話することもなく休んでしまい、会話する機会をつかめないまま、数日が過ぎた。
「神谷さん」
しばらくぶりに総司が正面からセイを捕まえた。ほかの隊士達の目もある場所のため、セイは俯きがちに振り返った。
「はい。沖田先生」
「この後時間がありますよね。少し話があります。後で付き合ってください」
「……わかりました」
さすがに、皆のいる前で正面から話しかけられてはセイも断るに断れない。
仕事の話かもしれないという思いで、セイは頷いた。
じゃああとで、と言って総司はセイの傍ら離れる。なけなしの知恵を絞って、この数日ずっと考えていた。
どうやってセイと話をするのかも。
なんとかうまくセイを誘うことに成功した総司は、残った用を片付けに副長室へと向かった。
「失礼します」
「総司か。なんだ」
「すみません。少し外出してきますので、今日は門限までには戻れないと思います。あ、神谷さんも一緒ですから」
「また甘味めぐりか?それはそれとして、お前、例の女とは話をしたのか」
興味もなさそうに頷いた後に、土方が振り返った。あの後気にはしていたが、総司の様子が張りつめていたので、土方も聞き出す機会をうかがっていたのだ。
休みを使って甘味巡りに行くという顔ではない総司に、怪訝な顔を向ける。
「……これから話してきます」
「甘味めぐりのついでにか?神谷を置いていけばいいだろうに」
「いいんです」
「ふん。戻ったら報告しろよ」
土方なりの心尽くしのつもりなのだろう。紙包みをぽいっと総司の前に放り出す。総司が手を伸ばすと、おそらく一両だろう。
ふ、と総司の顔が和らいだ。
「……わかりました」
「神谷さん」
セイに声をかけて、総司は外へと向かった。いつもなら仲良く元気いっぱいで表へと出ていくはずの二人のはずが、今日はどことなく互いに機嫌が悪そうで、見送った隊士達は皆首をひねっている。
「なあ。沖田先生も神谷もなんか機嫌悪そうだったなぁ?」
「あれじゃねぇの?ここんとこあんまり一緒に甘味めぐりに行けなかったからじゃねぇ?」
なるほど、と勝手に納得した皆は、また何事もなくそれぞれ戻って行った。
無言のままセイを伴って総司は歩いていく。時折、振り返ってセイがついてきていることを確認しては、再び歩き出す。
総司が振り返るたびにセイが立ち止まり、その数歩の距離がもどかしくなって、総司は手を伸ばすとセイの手を握って歩き出した。
「……!」
振り払いかけたが、その強い力にセイは引っ張られるように、離れた場所にある茶屋へと上がった。
二階の一番端の部屋へ通された二人は、向かい合って腰を下ろすと、黙り込んでいる間に店の者が酒肴の支度を運んできたが、沈黙が広がる部屋の雰囲気に、そそくさと出て行った。
はぁ、と深いため息をついた総司は目の前に運ばれてきた酒を杯に注いでぐいっと煽った。
「神谷さん!」
「……はい」
「すみませんっ」
頭を下げた総司にセイが顔を上げた。セイの方をなるべく見ないようにして、堰を切ったようにしゃべりだす。
「ずっと、ずっと考えていたんですが、私は貴女にひどいことをしたんじゃないかって。その……、男女のことには私も不慣れなので、例え ば女性が変わるのだとか、わからなくて……。これからのことも考えずに、身勝手な真似をしたんじゃないかと思えば思うほど、貴女に申し訳なくなってきて、 冷静になればなるほど……」
「ちょ、ちょっと待ってください」
「……はい」
急にまくしたてはじめた総司を前に、途中から徐々にセイの眉間に深い皺が生まれた。遮られて、しゅん、とうなだれた総司はセイに何を言われても仕方がないと大きな体を小さく丸めていた。
「あの……、あかすり大会が終わってから、日に日に、私を避けるようになったこと、ですか」
「ええ……。なんだか、直後はひどく浮かれていたんですけど、冷静になればなるほど、例えばその……あんなことをしてしまったら、赤子ができるかもしれないし、土方さんに聞いたら女性はその、肌とか変わってくるっていうし」
「副長に話したんですか?!」
「まっ、まさかっ!!!相手が貴女だなんて一言もいってはいませんよ!!ただ、その、ほかに女性に詳しい人もいなくて……」
確かに、そこで原田や永倉達に相談しなかったことは賢明といえる。
とはいえ、ずきずきとセイはこめかみが痛くなる気がした。
「それで……、申し訳ないからって私を避けていらっしゃったんですか」
– 続き –
るーさん こちらこそ、年単位のお願いをかなえてくださってありがとうございます。 …
わーい!喜んで頂いてめちゃくちゃ嬉しいです!いつもありがとうございます! 褒めら…
おはようございます。 コメントありがとうございます。こちらこそ、今、風にはまって…
風の新作うれしかったので、こちらにもお邪魔します^^ 風光るにハマってしまって1…
そりゃーお返事しますよ!もちろんじゃないですか。 そんなこんなで久々にちょいちょ…