風の行く先 13

〜はじめのひとこと〜
拍手お礼画面にてタイムアタック連載中のお話です。

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屯所に駆け戻った総司が隊士達の注目を浴びながら隊士棟を抜けて幹部棟へと向かっていると、途中で藤堂が待ち構えていた。
結局のところ、斉藤からはろくな話を聞き出すことができなくて、周りの隊士達にあたり散らしていた。そこにざわざわと隊士達のどよめきが聞こえて、その声をかき分けるように総司が現れた。

「ちょっと待ってよ」
「藤堂さん、後にしてもらってもいいですか?」
「嫌だね」

ぎりと睨みつけた藤堂に、へらりといつもの笑顔が戻った総司が首を傾けた。

「私、何か藤堂さんを怒らせるようなことしました?」
「そうだね。したと思うよ」
「じゃあ、何かしたなら謝りますから、ちょっと後にしてもらってもいいですか?」

先を急ごうと一歩踏み出した総司の胸元を藤堂がぱっと掴んで投げの姿勢に構えた。瞬間のことで、つい応じてしまった総司は、胸元から背負って投げ飛ばそうとした藤堂の足元を払いのける。

隊士棟の廊下でいきなり組長二人が取っ組み合いになったので、様子を伺っていた隊士達が一斉に隊部屋から飛び出してきた。それぞれの隊士達が互いに睨み合う。

「ああ。皆さん。大丈夫ですよ。私が藤堂さんを怒らせちゃったみたいなので」

藤堂を床の上に倒した総司は、床の上に腕をついた藤堂に手を差し出して周りににっこりと笑った。

「くそうっ!!」

拳で床を殴りつけた藤堂が、がばっと起き上がると総司に組み付く。勢いでそのまま濡れ縁の方へと突き倒された総司に藤堂が怒鳴った。

「総司!!総司ィぃぃ!!」
「は、はいぃ?!」

周囲の隊士達が固唾をのんで見守っていると、ぴたりと藤堂が動きを止めた。
押さえこまれた総司も思わず待ってしまう。

「あのぅ……?」
「ちょっと来てくれる?!」

大声で怒鳴りつけると、憤然と立ち上がって藤堂は総司の襟首を捕まえるとずるずると総司を引きずって行った。
隊士達だけでなく、原田や永倉達も離れてその様子を伺っていたが、二人が屯所から出ていくのを見て、互いに視線を交わし合う。

近くの河原まで総司を引っ張り出した藤堂は、河原で総司と向かい合うと足元に視線を向けて屈みこんだ。

「藤堂さん?」
「総司。神谷が女の子だって知ってるね?」
「……っ!」

藤堂の問いに、総司が固まった。顔を上げた藤堂はその顔を見てやっぱりそうかと、どうしようもない腹立ちにもう一度怒鳴った。

「知ってて、わざと辞めさせたんだね?!」
「……そうです」

藤堂の目を正面から受け止めた総司は、藤堂の問いかけに頷いた。前屈をするように自分の膝に手を当てた藤堂は低い声で言った。

「俺、神谷が女の子だって知ってたよ」
「そのようですね」
「驚かないんだ?」
「だって……、知っているから今藤堂さんが怒ってるんでしょう?」

どこまでもまっすぐに藤堂を見て答える総司の顔にはいつもの笑みではなく、覚悟が見えた。

強引にセイを除隊に持ち込んだとはいえ、発覚した時の責めは自分ひとりが負う覚悟ですべてを進めてきたのだ。藤堂から責められる事が意外だったとはいえ、揺らぐことはない。

「俺……、俺さぁ。神谷のことが好きだよ」
「ええ……」

ずるずるとしゃがみ込んだ藤堂に、総司もその向かいに膝をついた。

誰に責められたとしても仕方がない。

いくらセイが総司を慕っているとしても、あくまで総司一人の独断でセイを除隊まで持っていき、断りようのない状況を作った。もちろん、断られることになったとしても、仕事をなくしたセイの面倒は生涯見続けるつもりはあったが、そんなことは瑣末なことだ。

「別に、俺は俺のことを好きになってくれとかお嫁さんにほしいなんて思ったことないよ。ただ、総司のことが大事で、一所懸命に頑張ってる神谷を見てると元気が出るんだ」

足元を見つめて、藤堂は最後に見た打ちひしがれたセイの姿ではなく、思い切り笑ったセイの顔を思い出していた。

「……ええ。そうですね。私も……です」
「だったらさ。もう、例え、神谷のためだったとしても、二度とあんな顔させないでよ。あんな辛そうな顔、ろくにご飯も食べないで、ろくに眠ることもできないような悲しい思いをさせないでよ」

しゃがみ込んだ藤堂と総司の目が合う。

どうか笑顔で。
どうか幸せで。

同じ願いを抱えた二人の想いが重なる。
どこか寂しげにも見える表情に苦い笑みが浮かんだ。

「我侭なのは十分わかってるんです」

―― それでも、もう今までのままにはできなかったんです

総司の真剣な顔をみて藤堂は頷いた。何度も、何度も頷いて、何かを自分に納得させたらしい。顔を上げたときには、いつもの笑みが浮かんでいた。

「うん。わかったよ。俺、総司のことも神谷のことも大好きだからさ」
「藤堂さん……。ごめんなさい」
「いいんだよ。俺に謝ることなんかないよ。近藤さん達のところへいくところだったんだろ?行こう。俺も一緒に行くよ」

先に立ち上がった藤堂は、総司に向かって手を差し出した。

 

– 続く –