甘味三種 2<拍手文 103-2>

〜はじめの一言〜
甘ったれ総ちゃんが本当に構ってほしかったのは・・・
BGM:
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「なんなんだ?総司といい、神谷といい……」

残された土方は一人悪者にされたような、何とも居心地の悪い気分で呟いた。
総司が眠っている間に、あんこと小餅を買ってきたセイは、賄の片隅で小鍋を相手にし始める。

「神谷さん、汁粉ですか?」

小者がセイの背後から鍋を覗き込んでくる。ぜんざいにするより、こちらの方が温かいし、腹にも優しいだろう。そう思ったセイが小なべの中をかき回している。

「少しさらさらにしてみたんですけど……」

小皿にとって、味見に差し出すと、小者がずずっとすすった。ぺろりと口の周りを舐めた小者がうーん、と呟いた。

「こら……、沖田先生には薄すぎますやろ」
「ええ?!なんで沖田先生のだってわかるんですか?!」

驚いたセイに対して、微妙な笑みが小者達の間に広がる。わからないわけがないだろう!と賄にいた者達全員の心の声が聞こえるようだった。
少し拗ねた顔のセイが小鍋にあんこと砂糖を様子を見ながら足しいれる。

「だって……。沖田先生が局長や副長に構ってもらえないって拗ねてるんですもん」
「はあ?だからって何も神谷はんが……」
「だから!先生がお可哀想なのと……、私はその中には入ってなかったので、少し悔しかったんです!」

そういうと、頃合いになったあんこの中に火鉢の上に置いた網で軽く温めておいた小餅を椀の中に放り込んだ。そこに汁粉をいれると、小皿に小さな梅干しを二粒のせる。

「ん?一つは沖田先生のだとして、もう一つは神谷さんのですか?」

盆の上に載ったもう一つの汁粉に小者が興味深々で問いかけてくる。セイは首を振って、盆と共にお茶の道具を納めた入れ物ごと抱え上げた。

「もう一つは素直じゃない人の分です」

すたすたと副長室へとセイが向かう、その背後から賄の小者達の大爆笑が追いかけてきた。彼らから言わせれば、セイも素直ではない一人だろうというところだ。
副長室へセイが戻ると、がたがたとした気配に総司が目を覚ました。

「うう~ん」
「沖田先生。お目覚めですか?お腹の具合はどうですか?」
「あれっ。ほんとだ。もうすっかり治まってますよ。これなら厠にいってひと踏ん張りすれば快調です!」

そういうと、セイが用意していた汁粉にも気づかずに、総司はすっくと立ち上がると厠に向かって走り出て行った。
後には、用意してきた汁粉を前に呆然とするセイと、それを憐れにというか、同情的に眺めていた土方は、くるっと振り返ったセイの視線とぶつかった。

「あ、その……」
「どうぞ。副長。これならば召し上がれますよね」

そういって差し出された汁粉を断れるはずがない。土方は寒々した気配を前に汁粉に手をばした。セイと共に、汁粉をすすり終えて、仕舞いに梅干を口に していた土方は、目の前のからになった二つの椀をみてあの男がどれほど騒ぐのかを想像してしまった。げんなりしてくるが、今更なにを、である。

「お前、これ、いいのか?」
「いいんです。二人分しかもともと作ってませんし!」
「……俺は知らんぞ」
「何がです?もともと沖田先生は局長と副長に構っていただきたかったわけですし?」

責任は取ってもらう、という悪そうな顔をしたセイに土方は天井を仰いだ。ととと、と駆けてくる足音がして、庭から上がった総司がからりと障子をあけた。

「すごいですよー。神谷さんの薬、効きますねぇ。もう……、あれっ?」
「…………」

足元の盆の上に視線が落ちると総司がぴたりと固まった。そそくさと盆の上に梅干の小皿と茶を戻した土方がくるりと背を向ける。
セイは落ち着き払って、盆を片付け始めた。

「じゃ、副長。おさげしますね」
「……お、おう」
「……これ、お汁粉……?」
「…………」

総司が突っ立っている傍でさっと盆を手にしたセイが立ち上がった。総司の脇を通り過ぎようとしたセイの持った、盆の上から総司が椀を取り上げた。まじまじと底に薄らのこった汁粉のかすを見ている。

「神谷さん……」

総司の手から椀を取り上げると、すたすたとセイは副長室を後にした。当然、納得のいかない総司はセイの顔を見て噛みついた。

「じゃ。失礼しまーす」
「ちょっと待って!!」

そのあとを追いかけて総司があたふたと副長室を出ていく。二人の嵐がとりあえずは、部屋から去ったことでひとまず自分への被害は回避したらしいことにほっとした。

「何なんだ。あいつらは……」

深いため息が開け放たれた部屋の中に静かに聞こえる。

「ちょっと!神谷さん?!」
「はぁ、なんでしょう。沖田先生。すっかり体調も良くなられたようで何よりです」

総司が抗議の声を上げながらついてくるところへ、セイは木で鼻をくくったようなそっけない返事を返す。賄い方に器を返すと、再び幹部棟へ戻ろうとするセイを総司が引き留めた。

「納得できません」
「何がでございましょう」
「お汁粉です。土方さんと二人で食べたでしょう?!しかも神谷さんが作った奴を!!」

不機嫌な顔の総司に、いつもなら驚くなり、怯えるなりするセイだが、今はしらじらとした目で見返している。

「だからどうしたっていうんですか?今日は局長にお願いしておきますので、夕餉の膳は局長室で、局長と副長と共に召し上がれるように手配しておきますね」

それでは、と言って去ろうとするセイの腕をとると、裏庭の方へとセイを引っ張って総司が強引に歩き出した。

「沖田先生!待ってください、腕が痛いです!!」

セイの抗議を無視して、ずんずんと歩くと庭木の奥の石灯籠の影にセイを引っ張っていく。

「もう!!なんなんですか?!こんなところまで」

ぶすっとしてようやく腕を解放されたセイが、文句を言っていると総司が懐から何かを取り出した。

– 続く –