甘味三種 <拍手文 103-1>

〜はじめの一言〜
甘ったれ総ちゃんが本当に構ってほしかったのは・・・
BGM:
– + – + – + – + – + – + – + – + – + –

「うう、神谷さ~ん」

地を這うような声が聞こえて、セイは副長室から廊下へと顔を出した。そこに、お腹を押さえて屈みこんだ姿の総司があった。

「沖田先生?!どうされたんですか?」
「お、お腹が痛いんです~」

驚いたセイの後ろからその声を聞きつけて土方も顔を覗かせた。

「何したんだ、総司」

額に汗をかいて顔色の悪い総司をみた土方も立ち上がって廊下へと出てくる。
セイと共に総司に手を貸して、副長室へととりあえず引き入れた。言われるまでもなく、すぐにセイが布団を引っ張りだしてきて、横になる場所を作った。

「何か、悪いものでも召し上がったんですか?心当たりは?」
「ううう……」

腹を抱えて蹲る総司に、セイが急いで自分の行李から腹の薬を探し出す。心配になった土方は総司の背中を抱えた。

「おい、本当にどうしたんだ?!」
「団子……」
「……は?」

総司の呟きにぴたっと、土方とセイが動きを止めた。 それには気づかずに総司が続ける。

「お団子を買ってきたんですけど、なかなか機会がなくてそろそろまずいなぁって思って、残りの5本を食べたら、気持ちが悪くなって、お腹が空いてる のかなって思って、それから饅頭を食べたんですよ。そしたら口がさっぱりしたくなって水菓子でもないかなぁって思ったんですけど、蜜柑を食べ始めたら止ま らなくなっちゃって、酸っぱいばっかりじゃいけないなぁって柿を食べてたらお腹が痛くなってきたんです」

ふるふると震える二人には全く気が付かない総司は、ぶつぶつとこぼした。布団の上で腹を抱えて丸くなった総司が恨めしそうに土方を見上げる。

「もう、お二人が悪いんですよ?土方さんも神谷さんも近頃忙しい、忙しいって構ってくれないから一緒に食べようと思って取っておいたのに、皆、古くなっちゃって」

恨みがましい視線を向けてきた総司に向かって土方ががつん、と拳を落とした。

「痛ったぁいっ!!土方さん、ひどいっ!こんなにお腹が痛くて苦しんでるのに!!」
「苦しまなくてもいいようにしてやるぞ!この野郎!!」

痛む腹を斬りそうな土方にセイが飛びついた。

「副長っ!!ここで人殺しだけはやめてください!!後始末が大変です!!」
「お、そうか」

セイの言葉にはたと土方が手を下ろした。腹の痛みを堪えてぱっと部屋の隅の方へと逃げた総司が、がう、と噛みつく。

「こらこらこらこらこらぁ!そこで神谷さんもなんてこと言うんですか!!」
「え、だって、私、そんなの掃除したくないですもん」
「俺も、後始末が面倒なのはなぁ」

妙にそこだけは意気投合した二人に、総司がいよいよ拗ねはじめた。

「土方さんも神谷さんも冷たいっ!!」

部屋の隅で腹を抱えて丸まりながらいじける総司に、セイが白湯を汲んで薬と供に差し出した。

「はい、沖田先生」

半べそをかいた顔の総司は渡された薬を飲むとその苦さに顔を顰めた。くすっと笑ったセイがぽいっと総司の口に金平糖を放り込んだ。

「ご褒美です。先生、落ち着くまで少し横になってらしてください」
「……神谷さん、優しい」

うる、と呟いた総司に後ろにいた土方は、けっ、と言いながらつい今しがた冷たいって言ったじゃねぇか、と呟いた。

腹の痛みに苦しんでいた総司はセイに飲まされた薬が効いたのか、やがてすうすうと寝息を立て始めた。
天下泰平な寝姿に土方のこめかみがぴくぴくと震える。そんな総司を置いて、セイは副長室から出て行った。どこに行ったのか、しばらくしてから賄の方へと姿を消していたセイが戻ってくると、早速、土方が言い付けた。

「神谷。もういいだろう。とっとと、そいつを放り出してこい」
「駄目です」
「あぁ?!お前、俺の……?!」

言うことが聞けないのか、と言いかけた土方の前にしなびかけた蜜柑が差し出された。ぬっと目の前に突き出されたそれに土方が目を白黒させる。

「な、なんだ」
「甘いものが好きじゃない副長と一緒に食べようとして先生が買ってこられていた蜜柑です」
「お、おう」

ずいっとさらに、色が変わってあちこち黒くなりかけた柿が目の前に出てくる。

「そして、これが局長と食べようとして買ってこられていた柿です」

どちらかというと、丸いより三角に近い形の柿がてんこになっている。駕籠に山盛りの柿を持ってきたセイは、小刀を一緒に持ってきていて、その柿を手に取るとくるくると器用にも剥き始めた。

「おい?」
「あ、みんな固いですから食べられませんよ」
「ん?そういうが、お前。みんな黒くなりかけじゃねぇか」
「たぶん、蜜柑と一緒に買われたんだったら、渋柿だったんだと思います。それでも蜜柑や林檎と一緒に置いておくと、熟して甘くなるんですけどねぇ」

次々と剥いていくセイの手が徐々に黒っぽくなる。それをみて、セイがああ、やっぱり、と呟いた。

「きっと、沖田先生のことですから違いが判らなくて買われたのではなく、この柿が熟して甘くなるころには少し副長や局長もお忙しさに一段落つくと思ったんじゃないですか?」

そういいながら次々と柿を剥いたセイは、懐から太めの凧糸を取り出した。柿のへたに一つ一つ凧糸をしばりつけていく。
それをみて、ようやく土方はセイが何をしようとしているのか気が付いた。

「干し柿か」
「ええ。せっかくですし」

そういうと、ずらりと数珠につなぎ合わせて、その柿を副長室の前の軒先につるしに行く。

「おまっ、何も、ここに吊るさなくても」
「でも、沖田先生の気持ちですから」
「気持ちって……」

剥いた柿の皮を駕籠に押し込みながらセイは少しだけ拗ねたような何とも言えない顔で呟いた。

「きっと、副長や、局長に構ってほしくなったんじゃないですか?お仕事はお仕事ですけど、お忙しいお二人がきっと心配だったんですよ」

セイの言葉を聞いて、土方はふかかかーと眠っている男の方を振り返った。大の男が構ってほしくて、やけ食いをするのもどうかと思うが、それでも総司ならあり得そうだった。
しかも、近藤や土方がいそがしいということは、総司も忙しかったはずなのだが、自分自身の激務には頓着しないらしい。

「沖田先生が目を覚まされたら、少し一休みしてご一緒にお茶でも召し上がってくださいね」

言うだけ言うとセイは副長室から出て行こうとする。総司をそのままにしてどこに行くのかと聞いた土方に、セイは抱えた籠を見せた。

「おい、お前、これ、置いていくのか?」
「だって、これの始末もありますし、急いで小餅とあんこを買ってきます」

意味が分からない土方に、すみません、とセイは頭を下げて出て行った。

 

– 続く –