甘味三種 3<拍手文 103-3>

〜はじめの一言〜
甘ったれ総ちゃんが本当に構ってほしかったのは・・・
BGM:
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「むぐっ?!」

柔らかな紙にくるまれたものを取り出した総司に、それを口に押し込まれて、セイが危うくむせて吐き出しそうになる。きなこの味と風味が口に広がって、次に甘さが広がった。
無愛想に総司が残りの紙に包まれたそれをセイの手に押し付けた。

「あんこ玉です。土方さんとどうぞ」
「?!」

目を白黒させながら口を動かしているセイに、拗ねた顔の総司が足元の庭石を蹴った。

「京じゃあんまり見かけないですよね。あんこ玉の中に金平糖が入っていればあたり、ていう……。お願いして作ってもらったんですよ。……最近、神谷さん、忙しくてなかなか一緒に甘味処巡りもできないし、おやつを食べる暇もないだろうと思って」

―― これなら、忙しくても摘まんで食べられるし

口元を押さえたセイは、目を丸くして総司を見た。ようやく口の中からあんこがなくなると、やっと口を開いた。

「先生がわざわざ?」

―― だって、局長や副長が忙しいから拗ねてたんじゃなかったんですか

うっかりとそんなことを言いそうになって思わず飲み込む。それを理解した総司がますますバツの悪そうな顔になってそっぽを向いた。

「……近藤先生や土方さんは昔からあんなでしたから。でも……神谷さんはそうじゃないので。忙しいのもわかりますけど、少しでも休んでほしいし……」

だから、せめてと思って作ってもらった。
いつ渡せるかわからないから、常に懐にいれて潰さない様に気を配っていたのに。

歯切れ悪くそう告げた総司に、ばふっとセイが後ろから抱きついた。

「わわっ!神谷さん?」
「先生、ごめんなさい」

ぎゅっと総司の体にくっついて、総司の匂いにすごく久しぶりな気がする。

「てっきり、先生が構ってほしかったのは局長と副長なのかと思って、悔しくて……。なかなか甘味めぐりにも行けなくて、淋しいと思ってるのは私だけなのかと思ったんです」

腹に回されたセイの手をぽんぽん、と上から総司が叩いた。

「私もごめんなさい。大人げなくて」

背後でセイが一生懸命首を振る。それがくすぐったくて、セイの華奢な体をぐるりと身を捻って引っ張った。

「じゃあ、これで仲直りしてくれますか?」
「ハイ」

にこっと笑ったセイの顔を見て、総司も嬉しそうに笑った。そして、セイの前に手を差し出す。

「沖田先生??」
「土方さんと食べちゃった分も合わせてお汁粉、五杯は作ってくださいね」
「はぁっ?!」
「それに一杯は確実に一緒に食べてもらわないとね」

その数を聞いて、セイは一気にげんなりした顔になる。
たった今の感動はどこへという顔で、セイは総司から離れるとすたすたと幹部棟へと戻り始めた。慌てて、そのあとを総司が追う。

「あれっ?!ちょっと神谷さん、聞いてます?」
「聞いてません。そんな大人げない人の話なんか」
「何を言ってるんです?ゴメンナサイをしたらちゃんとやり直しするんですよ?!ねぇってば」

言い募る総司の話を耳に栓をして聞かないふりをしたセイがすたすたと歩いて行き、何事かと二人の姿を眺める隊士達の間を通り過ぎる。
すぱーんっと勢いよく副長室の障子が開いた。

「副長!もう、何とかしてください!沖田先生が汁粉を作れってうるさいんです」
「土方さん?!神谷さんに何とか言ってくださいよ!私は勝手に食べちゃった分も作ってって言ってるだけなのに!!」

土方が振り返る間もなく、近づいてくる嵐に土方のこめかみはぴくぴくとしていた。そんな土方に気づきもせず、ぎゃあぎゃあと言い合いを続けながら再び戻ってきた二人に、土方の握っていた筆がふるふると震えた。

「うるさいんだよ!!お前らはいったいいくつの子供なんだ!?え?!いーかげんにしろ!!」

ぐるんっ、と振り返った土方の、すべての障子が吹き飛ぶような怒声に、総司とセイが一瞬ぴたりと止まる。

「土方さん、もしかして仲間に入れてほしかったんですね?」
「……」
「そんなのいつでも仲間にいれてあげますよう。だから神谷さん、土方さんの分も追加でお願いします」

土方の怒鳴り声も全く届かないのか、にっこりと笑う総司にセイが頭を抱えた。何を言っても無駄だと思った土方は、ぐったりと疲れ切った片手を振って、セイを賄に追いやる。
総司の嬉しそうな顔に送り出されたセイが腹を立てながら副長室を後にした。

「もう、なんで私が!」

ぶつぶつと、今度は大鍋一杯に汁粉を作り始めたセイに、賄の小者がそっと耳打ちした。

「私らがなんぼいうても、どんな甘味をご用意しても沖田先生、絶対に食べなかったんですよ?何でか聞いたら、『神谷さんのじゃないから』って。それならお店のもんでも買ってきましょうか、って言っても『神谷さんが食べられないから』って言い張って」

それをきいたセイがぽっと赤くなるのをみて、また小者達が笑いだす。大なべ一杯の汁粉をかき回しながらセイは、薄ら頬を染めて思う。

―― はたして総司は喜んでくれるだろうか

汁粉とあんこ玉と悋気。
総司にとっての甘味三種をセイがどのように受け取ったのかはわからないが、この後しばらくの間、総司は副長室に出入り禁止になってしまった。

– 終わり –