その願いさえ 20

〜はじめのつぶやき〜
お久しぶりです。はい。まだ続いてたんだった~(←お前が言うな)
なんか大型連休らしいじゃないですか。初日じゃないですか。
ということで上げてみました。
BGM:KEMURIKUSA~ナノ
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新選組が襲われるのは、それほど少ないわけではない。
言ってみればよくあることともいえる。

だが、今日は気が焦る。こういう時は何かがある。

―― 局長の供についているというのに

万が一にも近藤の身に何かあるとは思わない。思わないとはいえ、何があるかわからないのが世の常だ。
あれだけの手練れがそろっていても。

走る先で黒い人の塊を見つけて、新平は走る足を緩めた。

「沖田先生!」

駕籠とそれに付き添った一番隊の人数が少ない。駆け寄った郷原を見つけた総司は腰に手を添えていて鯉口を切っているように見えた。

「郷原さん……!」
「ご無事でしたか!途中で林さんに出くわしまして」
「そうでしたか」

返り血を浴びたものがいるのか、黒い隊服で一見わからないが微かに血の匂いがする。総司だけでなく、駕籠を守る者たちも皆、普段の愉快な様子とはかけ離れていた。

「沖田先生……?」
「まだ……」

ぐいと顎の下をぬぐった総司の様子に新平は腰のものに手を添えた。皆、駆けるようにして道を急いできたから息が上がっている。

残りの隊士が後始末に残っているにしては少ない。

そう思っていると、駕籠の小窓が動いた。

「総司!」

俺はいい、と声をかけた近藤を振り返った総司は唇を噛みしめる。その様子に新平は思わず総司の肩に手を伸ばした。組長の肩を掴むなど普段ならあり得ないのに、こういう時は無意識が体を動かしていく。

「……は、侮ったわけではないんですが、とにかく人数が多くて、局長はお加減が……」

近藤は出がけから持病の胃痛が出ていたらしく、脂汗を流すほどの有様だったが、刀を握ろうとした。
だが、総司とそれをわかっていたセイ、山口、相田のいつもの顔ぶれは近藤を駕籠に押し込んで、わざわざ隊を二分したのだ。これが常なら、総司は間違いなく自分が先に立っていて、山口や相田たちを近藤の傍につけていただろう。

それができないほど、近藤の具合は悪く、総司は傍を離れるに離れられなかったのだと推測できる。その間に、セイが走り出し、頷いた山口と相田がそれを追う。

「神谷さん!!」
「先生はそのまま!!」

その声は小柄な姿が消えるよりも早く離れて行った。

駕籠から離れたところで名乗りを上げたセイに続いて山口と相田も、先を争う様に名乗りを上げて相手を引き寄せに向かう。彼らなら大丈夫だろうと思いながらも、近藤を一刻も早く連れて戻るためにここまで来たのだろう。

「くそ……っ」

総司ほどではないにせよ、セイも、総司の両脇を固める山口と相田も名乗りを上げれば、打ち取って名を上げようという者はいるだろう。
駕籠を狙っていたとはいえ、それだけの人数がいるとなればなおさらだ。

その場からとにかく離れることを優先した。

どのくらい離れたのかは、わからないがそれほど遠くはないはず。
総司相手にも関わらず、盛大な舌打ちをして郷原は走り出した。数が多くても、追い込まれても、一番隊なら大丈夫だと思いたい。

背後に、総司の声を聞いた気がしたが、かまうものかと走って、走って、前田屋敷の近くまで近づいたところで、倒れている人影に足を止めた。

うめく者たちの少し先に山口と相田の姿が見える。

「山口さん!相田さん!」
「新平か!」

二人とも息は上がっているが、目立つ傷はない。
駆け寄って、周りを見回しながら無事を確かめる。

その間に、周りに散っていた隊士たちもばらばらと集まってきた。

「皆さん、無事で?」
「ああ。お前、よくわかったな」
「ええ。ちょうど屯所に向かう林さんと行き会ったんですよ!それで、沖田先生たちとも……。これで全員ですか?」

見回して顔ぶれを確認していく中にセイの姿がない。
隊士たちも互いの顔を見て、確認していくなかで、誰が、どこに、と首を回す。

「……ち、神谷さんは?どちらに?!」
「あ、いや、俺は見てないぞ」

確か向こうに、と誰かの声を聞いて躊躇わずに新平は走り出した。

セイだから、ということは一切ないが、中身が女だとわかっていて心配しないわけがない。いくら腕が立つとわかっていても男でも女でも何があるかわからないのが剣を握る者でもある。

周囲を見回しながら人影はないかと走る背中に嫌な汗が流れた。

―― だから!沖田先生も神谷も!腹を据えろというのだ!!

大事なら大事だと。
守るのなら守ると。

思うだけなら誰にでもできる。
だが、それをやり切るのは至難の業だ。

新平は、それだけ心に思う相手がいない分、武士として、この藩命を胸に刻んでいる。

命がけとはそういうことだ。

どんどん、腹立ちのほうが心配に勝るのではと思う頃、遠巻きに何かを見ている町人の姿が見えた。