その願いさえ 21
~はじめのつぶやき~
まじめだぞ~。なんと続きの更新だ!!
BGM:KEMURIKUSA~ナノ
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何かあれば関わりになりたくないものの、何があるか気になり人だかりができる。
それを見つけるのが一番手っ取り早い。
通りの裏でもあり、それほど多くはないがちらほらと様子を窺っている姿に新平はためらわずに駆け寄った。
「こんのっ!」
「この小童が!!」
明らかな身長差にどちらもてこずっている。小回りのきくセイと、長身故に大振りになってしまい、まとわりついては離れてしまうから、決定的な一打が取れずにいた。
本当に腕がないならとうにセイに打ち据えられていただろうから、不器用なだけでそれなりの腕はあるのだろう。
それだけのことを、駆け付けたほんの数瞬で判断し、刀を抜いた。
セイが身をひねり男の背後に回り込み、男がそれにつられて後ろへ振り向こうとしたわき腹に新平の峰打ちが入る。
一瞬、収縮を止めた肺を気力で動かすには体が思う様に動きはしない。
「……ぐ……ぁっ!」
男と同じように何が起きたのか、理解するのが遅れたセイは、眼を見開いて動きを止める。
「えっ?!」
「……まったく」
抜いていた刀を地面に突き立てて、かろうじて倒れるのを避けた男に新平は手早く懐から取り出した縄をかける。
「え?え?郷原さん?どうしたんですか?」
のほほんとそんな疑問を口にしたセイにこたえるよりも先にひとまず刀を収める。
男の腰から鞘を引き抜いて、刀を収めて駆けつけてきた隊士の姿を見て男と刀を引き渡す。
駆けつけてきた隊士たちに無事だったことや、一人で行くなと叱られながらセイも抜いていた刀をいつの間にか収めていた。
「あの、郷原さん」
互いに肩を叩きながら新平に近づいてきたセイを見て、珍しくも新平は腹に力が入る。
「ふざけるな!あんたに何かあったらどうなるかわからないなら表に出るな!!」
びくっと目を丸くしたのはセイだけでなく、ほかの隊士たちも怒るどころか声を荒げることもなかった新平に驚く。
「おい、郷原。落ち着け」
「まあ、神谷もこの程度ならって思ったんだろう」
肩を叩かれても新平は無性に腹が立ってその手を振り払う。
後始末を彼らに任せて戻る、とだけ呟いた新平はその場を離れた。
その場を離れてすぐ、べったりと汗をかいていることに気づく。
あれだけ必死に走り回ればそうれはそうだろう。
己がそれだけ走り回ったことも無性に腹が立つ。
―― 何をしてるんだ、俺は……
馴染んで、目立ちすぎずほどよく身を潜めているはずが、この様は何事だ。
すっかり一番隊の者として無意識に動いているではないか。
自分自身にも腹を立てながら、屯所に向かい、早々に組部屋に戻るときにはさすがに、不愛想な様ではなく先に戻っていた隊士たちに軽く頷いて見せた。
すでに知らせは飛んでいたらしく、セイたちが無事だということも伝わっていたらしい。
手拭いと着替えを手にして、井戸端に向かうと、手早く着物を脱いで頭から水をかぶった。
「俺もまだまだだな……」
顔を流れていく水に全力で頭を振りながら思わず口から出てしまう。
―― 本当に、何をやってるんだ。まったく……
新選組を見張り、会津藩の動きを探る。あくまでそこまでの任務でしかないのだ。風向きに手を出すことはよほどのことでなければないはず。
隊士としての在り方は、少なくとも嫌いではない。納得がいかないものでもない。
しいて言えば些か、時代錯誤にも思えるようなことがあるくらいだ。
武士としてそこまで矜持を掲げて厳しくすべきものなのかは、意見が分かれるところだが、新平はそこまでしなくても、と思わなくもない。
其れこそが臨機応変というもので、柔らかさも時には必要だと思う。
だからこそ、藩の仕事と、隊士としていることに少しの矛盾もなくいられる。
そんな新平だから、総司とセイの様子に無性に腹を立ててしまった。
武士としてあるべき、守るべきものとは別に、互いが唯一の者と認め合っているのにこの覚悟のなさは何なのだ。
「珍しいな」
「……っ!」
低い声に手にしていた桶を振り上げて身をひねる。
三番隊の斎藤が腕組みをして空を見上げていた。
斎藤は、いかにもな武士であり、総司が懇意にしているから一番隊と三番隊は比較的仲がいい。というより、仲の悪い組同士というのも特段ないのだが……。
濡れた体に桶を持つ、という姿にため息をついた新平は桶を置いて手拭いに手を伸ばす。
「お見苦しい姿で失礼いたします」
「いや。よほど市中を駆け回ったらしいからな。水をかぶりたくもなるだろう」
手早く、といっても今更過ぎる。体を拭いて、長着に腕を通す。
その様子を見るでもなく、斎藤はその場にただ待っているようだった。
「……何か」
「珍しくお前が声を荒げたと聞いてな。滅多にないこと故、顔を見に来ただけだ」
「さして……、男の顔など見ても面白くもないかと思いますが、斎藤先生も奇特な方ですね」
帯を締めて、長着姿で井戸の周りを片付けながら苦笑いを浮かべて新平はそう口にした。
耳が早いというべきか、斎藤はどうやらセイを気に入っているらしいので余計に早耳なのかわからないが、ようやく普段の顔を取り戻した新平は斎藤に近づいた。