記憶鮮明 2 

〜はじめの一言〜
いかんですね。この面子って長引かない方がおかしいんでないかい?

BGM:Superfly タマシイレボリューション
– + – + – + – + – + – + – + – + – + –

「申し訳ありません!でも、でも、あの!警護する方が女院様ならば、是非私もお連れいただけないでしょうか!私は細かいお世話が得意ですし、先生方のお世話もできますし!」
「ふざけるな!盗み聞きした揚句に何でお前の……」

こめかみどころか頭から湯気を出しそうな勢いの土方にセイは上げかけた顔をがばっと伏せた。見つかってしまったのならどうで叱られる。駄目で元々とばかりに同行を願い出たものの、さらに土方の怒りに火をつけてしまったかに思われた。

「副長?」

途中で言葉を切った土方に斎藤が声をかけた。じっと何かを考え込んでしまった土方はしばらく黙りこんだ後に不気味な笑顔で頷いた。

「よし。許可してやる」
「「「はぁ?」」」

思わぬ土方の答えに、三人の声が同時に上がった。

「なんだ?不満か?」
「とんでもありません」
「「当たり前じゃないですか(です!)」」

セイを除く二人はとんでもないとばかりに反論したが、何を思いついたのか土方は人の悪い満面の笑顔で二人の申し出を却下した。

「いいや。お前らにはこいつに盗み聞きさせていた責任を取ってもらう」

総司と斎藤は、この顔の土方が怒り狂っているとき以上に凶悪だということを十分わかっている。それだけに、セイのように単純に喜ぶどころか何を企んでいるのかというほうが恐ろしくなる。

二人の心配をよそに、セイは嬉しくて土方に礼を言って頭を下げた。どうしようもないとわかっていてもこれは参ったと、総司は斎藤の顔をちらりと見る。

「いいんですか?斎藤さん」

密かに囁いた総司に困惑を隠せない斎藤は曖昧に頷いた。

「仕方がないだろう。神谷がいることに気づいていたのだが止めなかった俺も悪かったのだからな」

大変な仕事になったと、二人はそれぞれにため息をついた。話はこれまでと言われて、それぞれが隊部屋へと戻ると、総司はセイを目の前に座らせてじっとセイの顔を見る。

「いいですか?神谷さん」
「はいっ!」

元気いっぱい、喜色満面に頷くセイを見ているとどうにも心配を通り越してため息しか出てこない。これまでにも、盗み聞きの罰として蔵込めになったこともあるくせに、いまだにこの悪い癖が治っていないのだからどうしようもないと思う。
特命となれば、何が起こるか分からず、警護する相手によっても臨機応変な態度が必要になる。高位の方々ともなれば余計にそうなるが、セイでは心もとないのだ。

「……はぁ~」

深いため息をついた総司は、セイの顔から視線をそらすとぽつりと言った。

「盗み聞きも、副長への申し出も次はありませんよ?」
「わかってます!」
「わかっているならなんで繰り返すんです……」

元気いっぱいに答えていたセイは総司のどんよりとした姿にようやく気付いて、あれ?と笑顔をひっこめた。斉藤と総司の特命の手助けができるのかと嬉しくて仕方がなかったのだが、どうも総司の姿を見ていると様子がおかしい。

「あの……」
「本当に次はありませんからね。それからあくまで特命ですからわかっていると思いますが、口外無用です」

これ以上何を言っても無駄だと思ったのか、総司はそれだけ言うとセイを残して斎藤の姿を探しに行った。

中庭の木の上にいた斎藤を見つけると、その木の下に寄り掛かった総司は辺りに誰もいないことを確かめてから聞こえるかどうかの声で斎藤へと呼びかけた。

「本当にどうしたんですか?斎藤さん。貴方ならうまく土方さんを宥めて神谷さんを同行させないことくらい簡単だったでしょうに」
「……」

確かにそれはその通りで、斎藤は問いかけに応えない代わりに、こん、と枝を軽く蹴った。
ばさっと頭上から木の葉が降ってきて、総司はその仕打ちに目を閉じた。ひとしきり落ちてくる葉が収まると、あーあ、と言ってばさばさと頭から葉を振り落とす。

「斎藤さんってば、神谷さんに甘いんだから」

ぴき。

―― 他の誰に言われても、お前にだけは言われたくないわ!!

今度は木の葉の代わりに小枝が総司の頭を狙って落ちてきた。
土方や総司には話していないが、実は厄介な裏がある。全く危険がないかと言えば、斎藤と総司を指名してくるだけの事が確かにあるのだ。

「いっ!斎藤さ~ん」

総司の頭に小枝がぱちぱちと当たった所を見ると、身軽に総司の隣に降りてきた斎藤は平然と総司の横を通り過ぎた。

「アンタにだけは言われたくない」
「えぇ~。もう斎藤さんってば~」
「うるさいっ!」

総司を置き去りにしながら、斎藤は自分自身に困惑していた。
特命であり、そして要人警護という失敗できない任務だというのに、セイと一緒に仕事なのだとどこかで喜んでいる自分に呆れてしまう。

「いかんな。久しぶりの特命だからか……?」

密かな斎藤の自問自答には正解などないのはわかっていたが、思わず口をついて呟いてしまった。仕事熱心な斎藤といえど、お年頃であり恋に悩む男子である。

置き去りにされた総司は、斎藤が離れて行ったのを確認すると、真顔で指を折りはじめた。

「ひーふー……。うん。たぶん大丈夫でしょう」

セイの面倒をみるようになって長い総司にとってはセイのお馬も憂慮事項の一つである。もはや慣れっこになって、平然と日数を数えた総司は、セイのお馬にぶつからないことを確認するとほっと胸をなでおろした。

―― まさか、泊まりの仕事でしかも斎藤さんも一緒なんてどう考えても危なくて仕方がないですからね

今日、今すぐの出発ではないにしてもまず第一の憂慮事項は確認しておきたい。
段々、組長でありながらセイに対しては兄でもあり、父のような気がしてきて、ますます総司はがっくりと肩を落とした。

斉藤がセイを好いているのはわかっているし、宣言もされた。自分はそれで構わないと言ったはずなのに、このところ自分の気持ちがわからなくなる。

三者三様の想いを抱えた仕事に向かうことにそれぞれが頭を抱えていた。

– 続く –