誇りの色 2

〜はじめの一言〜
斉藤先生ったらたなぼたらっきーですね。

BGM:
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組長と組む場合は二人、腕の立つ者同士の場合は三人で組む。それを三十ほど組を作り、巡察と巡察の合間にそれぞれ、持ち回りで市中を回ることになった。
巡察路とは違い、大通りから一本外れた道や、小路には小路なりに小さな店やそこに住む人々の暮らしがある。

時間も巡察とはずらすことになってはいるが、そんな小路を歩いていれば市中の人々の噂話もいろいろと耳に入ってくるのだ。

組み合わせが発表になった次の朝から、巡察の後、一番手は、永倉と二番隊の隊士が出て行き、少しだけ時間を空けると次の一組が出ていく。巡察は日に三度だが、その間に時間は短くとも、三隊ほどが出ていく。

総司と山口が二番手に出ていき、次は隊士同士の組み合わせが出て行った。

「ん~、この順番ってどういうのなんだろ」

一巡する組み合わせを番号でかきだされたものを見ながらセイは、腕を組んで呟いた。この組み合わせに関わりのない者達はもう広間からは出て行ったが、セイはもう一度自分の順番を確かめようと張り出された組み合わせの前に立っていた。

組み合わせの下に番号が書かれていて、その順番に回るのだということはわかっている。

「それにしても三十も、一番からっていうならわかるけど、こんな順番に意味あるのかな」

素直に一番から三十までが順に回るならまだわかるが、その順番はぐちゃぐちゃでセイは十一番だが、明日の夕方になっている。順番の通りなら明日の午前のはずなのに、それが夕方なのだ。他の人がいないと思って、唸っていたセイの背後からいきなり声が聞こえた。

「そんなもんあるに決まってるだろ」
「ひぇぇっ!」

飛び上がったセイの後ろには、眉間に皺を寄せた土方が立っていた。

「なにしてんですか!こんなところで!」

大きく驚かされた事もあって、文句のようにそう言いたてると、むぅっとした顔で土方が張り出された紙を眺めた。

「こんなもの、組み合わせ通りに並べても仕方がないだろう。はなからその順番になっていれば、気を抜くものも出てくるが、こうしてばらけた順番で組み合わせておけば、適度な緊張を維持できるだろう」

本当なら、他にも理由はあったがそんなものはわざわざ教えることもないと、言葉を切った土方に、しみじみと頷いたセイは、素直な感想を口にした。

「面倒くさくて適当に着けた訳じゃないんですね。意外とちゃんと考えられてるっていうか……。はー、なんだか久しぶりに感心しました。副長」
「……お前。俺をなんだと思ってる」
「え?いや、副長だと思ってますけど?」

きょとん、としたセイの顔にむかってこめかみをひくひくさせた土方がくわっと怒鳴りつけた。

「馬鹿野郎!」

ひゃっと首を竦めたセイは、散々に油を搾られながら、その後、夕餉が終わるまで土方にこき使われることになった。途中で総司のもとに報告に向かったセイは、わけを話すと、総司にはげらげらと爆笑され、精一杯働いてくるようにと隊部屋から送り出されてしまった。

 

セイが副長室で土方に叱りつけられながら働いている間に総司は総司で小さく書きとめた巡察の順番を確認していた。セイが斉藤と出ていく頃は、ちょうど夕方に差し掛かる辺りで、総司も体が空いている時間でもあった。

―― わ、私ってば、仕事なんですからね!そんな斉藤さんに任せておけば間違いなんて……

つい、気になって、ついていこうかとまで考えてしまった総司は、自分の考えに首を振った。我ながら情けないと思うが、気になるのは気になるのだ。まさか、この編成にセイが選ばれるとはもともと思っていなかった。

成長は認めても、これははえ抜きの腕の立つものばかりを選んだ特命のようなものなのだ。おそらく、セイの目端が利くところに土方が目をつけたのだろうが、組ませた相手が斉藤というところも土方らしい。

「まあ、斉藤さんだったらあの人の事もちゃんと押さえてくれるでしょうしねぇ」

こそこそと編成を懐にしまった総司は、落ち着かなくて、すっくと立ち上がると隣の三番隊の部屋を覗き込んだ。ちょうど、斉藤は暇を持て余しているのか、刀と羽織を手にどこかへ出かけるところだった。

「お出かけですか?斉藤さん」
「何か用か」
「いや……。飲みに行くならお供しようかな」

勝手についてこようとする総司を胡散臭そうな顔でちらりと見た斉藤はどこへ行くとも言わずに廊下を歩き出した。慌てて隊部屋から刀を掴んできた総司が斉藤に追いつくと、ぴたりと斉藤が足を止めた。

「用はなんだ」
「……いや。えっと、ですね」

右を向いたり左を向いたりして、ひどく落ち着かない総司に呆れたのか、再び斉藤は歩き出す。はっと気づいた総司は、急いで斉藤の後を追いかけた。

後ろを総司がついてくると知りながら、斉藤は完全にその存在を無視して歩いていく。
大階段の下まで降りた斉藤が、草履に足を乗せたところで途方に暮れた顔の総司をみて、はーっとため息をついた。くいっと顎を引いて、仕方がないと言う顔をした斉藤に、ぱっと顔を輝かせた総司はいそいそと自分の草履を手にすると斉藤と並んで歩き出した。

「……思った以上に効果があるようだな。副長の采配は」

どうせ話題はこれだろうと先に口を切った斉藤は袖口に手を入れて腕を組んだ。耳にした限りでは、今日一日でもいくつか話を聞き込み、少人数の出入りを見かけたという話もあるらしい。

「ああ。そうですね。監察方も頑張ってはくれていますけど、やっぱり人も限られていますし、あんな思いがけないような大通りから入ったところまで私たちが目を光らせているなんて思ってないでしょうから」

小さく頷いた斉藤は、真面目に考えていた。セイを連れて歩くと言うのは仕事でいえば存外難しいのだ。

何より、根っからの勘が鋭いと言うのか、揉め事やこの場合は不逞浪士を嗅ぎつける嗅覚が半端ない。それほど不審に思ったわけでもなく、何気なく話しかけた相手が、浪士を匿っていたり、懐に匕首を忍ばせた破落戸だったりすることなどよくある。

そのうえ、鉄砲玉のようにそうだと思った瞬間には弾かれたように走り出すので、それについていくだけでもなかなか難しいのだ。

「それでですね」
「それでなんだ」

じろりと総司の顔を見た斉藤に、うわーんと総司が甘えてかかった。

「わ~~っ!斉藤さんの意地悪っ。どうせわかってるくせに!」
「さてな」
「ひどい。斉藤さんたら」
「……なんならここから戻ってくれても俺は一向にかまわん」

ぴしゃりとそう言うと、総司が足を止めたのにも構わず歩いていく。しばらく歩いた先で斉藤が振り返った。

「仕事に私情は禁物だ。俺は俺の仕事をやる。余計な気を回すくらいなら、少しでも言って聞かせておくんだな」

くるっと背を向けて歩いていく斉藤を見送った総司は、がり、と頭を掻いた。

―― わかっては、いるんですけどねぇ……

– 続く –