誇りの色 3

〜はじめの一言〜
意外とちゃっかりしてるというか・・・。

BGM:
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新しい編成が組まれていても、通常の巡察は行われる。永倉の隊が巡察に出て行った後、一番隊は稽古に向かった。山口や相田、そしてセイも含めて編成に組み込まれた何人かはいつも以上に稽古に身を入れていた。

稽古を終えた隊士達は、各々汗を拭って隊部屋へと戻っていく。

「神谷さん」
「はいっ」

道場から出るところで呼び止められたセイは、くるっと総司を振り返った。首筋を汗が伝って、それを襟元で押さえる。

「貴女は斉藤さんと一緒に組むことになりましたが」
「はい。精一杯、足を引っ張らない様に務めさせていただきます」

きらきらと目を輝かせたセイに、口を開きかけた総司は何かを言いかけて口をつぐんだ。足を引っ張らない様にという前に先に言われてしまったので、それ以上は何も言えなくなる。

「……気を付けて」
「はい!」

また叱られるのではなく、ただ声をかけられただけだとわかって、ほっと笑顔で頷いた。セイは浮かれていたのではないと認めてもらえたことが嬉しかった。そのセイを総司はすっと追い抜いて隊部屋へと戻っていく。

総司の心中など少しも知らないセイは、道場の片づけを済ませてから隊部屋へと戻った。

 

同じ頃、出先から戻ったところで副長室を訪れた斉藤は諸々の報告を済ませた後、部屋を出る寸前で、ああ、と呼び止められた。

「そういや、斉藤。お前はこの夕方、当番だったな」
「はぁ」
「お前にはあの小僧のお守りを頼むようで申し訳ないが、あれは、生意気で腕もまだまだだが、目端が利くことだけは確かだ。面倒をかけるがよろしく頼む」
「承知しました」

他意のない配慮なのだろうが、真顔で頷いた斉藤は、密かに胸を張ったのは当然である。
すたすたと隊士棟へ戻る斉藤の目の前に着替えを終えたセイが顔を覗かせた。

「斉藤先生!」
「む」
「お時間の前に隊部屋に伺えばよろしいですか?」

やる気に満ちたセイがはちきれんばかりの笑顔を向けてくると、さすがにうっとくる。どきどきした内心を隠して、口元を片手で覆って、顔を伏せた斉藤にきょとん、とした顔でセイが覗き込んでくる。

「兄上?お体の具合でも?」
「い、いや。大事ない。刻限に合わせて支度をしているように」
「はい!」

頷いたセイから視線をそらして斉藤はそそくさと隊部屋へ戻っていった。
斉藤や総司の胸の内とは裏腹に、セイだけは呑気に認められたことでうきうきとしていた。そんなセイを総司は無表情で眺めながらふいと部屋を出て行った。

他の隊士達と時間まであれこれと片づけを済ませていたセイは、時間の少し前に三番隊の隊部屋へと足を向けた。

「斉藤先生」

こちらも支度を済ませていた斉藤が刀を手に立ち上がった。斉藤の後ろについて大階段のほうへとむかったセイに斉藤は少しずつ、組長らしくせいぜい威厳を持って話し始めた。

「神谷。この編成では、やはり相手方も油断するのか、始まってすぐにあちこちで情報を掴んで戻っている」
「はい」
「それだけに、時間は短いが気を引き締めてかかれ」

頷くセイを連れて、斉藤は屯所を出た。夕日に輝く市中を歩き出した斉藤は、隣を歩くセイに話しかけた。

「近頃、うまい店は見つけたか?」
「え?」
「うまい店ならアンタか沖田さんに聞くのが早い。花街の話なら原田さんか永倉さんだな」

確かにそうだと頷いたセイはうーんと唸ってから、指を折って数え始めた。

「蕎麦なら、上州屋さんのお蕎麦がおいしいって沖田先生がおっしゃってて、生姜の搾り汁を少しかけたのがほんとにおいしんです。それから、おうどん は天満屋さんですかねぇ。関西風のお出汁がすっごくおいしいです。それと、少し裏通りなんですけど、一力屋さんていう定食屋さんがひどくおいしいんです よ。なのにやすいんです。その代り、何食って数が限られているので早めにいかないとなくなっちゃうんですよね」

胸の内では総司の感想が必ず入っていそうで、少なからずむっとはしたがセイが話すことを聞いているのはいつも心地よかった。
すらすらと並べ立てたセイに苦笑いを浮かべながら重ねて問いかける。

「その中でお前が一番好きな店はどこなんだ?」
「私ですか?んー……」

その中でとは言われたが、この場合は斉藤の好みを考えるべきだと思ったセイは、ふむと考えてから口を開いた。

「馳走屋さんはいかがでしょう?」
「ふむ?それは知らんな」

人の集まる店はほとんどが頭に入っているものだが、聞きなれない店の名前に斉藤はセイの方へと顔を向けた。夕日を浴びて朱色に染まるセイの顔がひどく可愛らしい。

「数珠屋町通り近くなので、ちょっと屯所からは歩くんですけど、いい店なんです。兄上だったらお酒を召し上がるので、きっと気に入っていただけると思うんですけど」
「ほう」

馳走屋というのは、数珠屋町通り近くにある店で、これは藤堂に教えてもらった店だ。やすくて、気兼ねなく小上がりで酒を飲むこともでき、気ままに出てくる小鉢が上手いらしい。酒飲みにはたまらない店だが、甘味好きの総司は、一番にはあげていなかった。

『確かにおいしいんですけどねぇ。味が濃いというか、お茶が欲しくなるというか』

総司も酒は飲むのだが、酒よりは飯、茶に行くらしい。
だから初めにあげた中には入っていなかったが、セイは美味い店だと思っていた。

「ならば今度連れて行ってもらおうか」
「はい!いつなりと」

そういって歩く歩調が少しだけ遅くなりはじめていた。セイが遅くなれば自然と斉藤も遅くなる。そぞろ歩きにしても、随分遅くなったセイの肩を斉藤がぐっと引き寄せた。

「そんな風にあからさまにするな」

声を落として密かに囁いた斉藤はセイを軽く引きずる様に歩いていく。

先程から二人の後ろを歩く者の気配が気になって徐々にゆっくりになったのだ。歩く歩調は遅いが、その足癖を聞いていると、刀を相当使うのは聞いているとわかる。きき足を出すときに癖があるのだ。

言葉少なに語らっているが、指示語ばかりではっきりとは語らないところも何か曰くがありそうで気になってしまったセイは、ついつい、話とそちらに意識を向けることで足取りが遅くなった。

「すみません……。つい」
「まあ、そんなに俺と出歩く店を増やすために飲み歩くなよ。お前は誘われやすいだろうからな」
「な……っ!さい」

妙に間が詰まってきたセイ達を相手も気にし初めたらしいところだったので、わざと斉藤は少し声を大きくした。衆道の二人連れだと思わせるような口ぶりに反論しそうになったセイの肩を再びぐっと掴んだ。

– 続く –