誇りの色 25

~はじめの一言~
セイちゃんって天然にもほどがあると言うか、ある意味マイペースなのか?

BGM:
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「あの」
「寝ろ」
「いえ、あの」
「いいから寝ろ。朝餉は済んだのだろう?ならば、夜になればまた捕り物の支度がある。そのためにも今は寝ろ」

何かを猛烈な勢いで考え出した斉藤の悪い癖とでもいうべきか。
有無を言わさずセイの話しかけた事を遮って、今宵の手配りを考え始めた。

周りはある程度には雑然としていて、そこそこの広さもある蔵の真ん中に火鉢と、座布団を間に挟んで斉藤と寝るの寝ないのという問答も滑稽な姿である。
意味の分からぬ者が見れば、おせっかいな誤解でも焼きそうな光景でもある。

蔵の中の物を守るためにもぴったりと隙間なく作られてはいるが、二階があって天井も高い分、いくら火鉢の火が入っていたとしても少しも温まりはしない。
山口達が鉄瓶も置いて行ってはくれているが、それは小さい方の火鉢にかかっている。

離れた場所に置いてあったのは寝ているときにも寒くない様にと置いてあるものだ。

「……なんだ?」

鉄瓶から茶碗に湯を注いで差し出したセイに、我に返った斉藤はセイが何かを言いたそうな顔をしていることにようやく気付く。

「奴らが隠れ家に戻っていないとおっしゃっていましたが……」
「他に潜んでいる場所はないのか、ということか?」
「はい」

立ち回り先は監察の者達が当たっている。立ち寄りそうな店も妓も当たっているはずだ。

「もしよろしかったら、おしえていただけますでしょうか。もし、よろしければなんですが」
「ふむ……」

何か心当たりがあるのか気になる物言いをするセイに、斉藤は立ち寄りそうな店や、妓についていくつかセイに教えた。
その中にセイが見かけた店はない。もしあの時の店にいるとしたら、と思ったセイは、再び叱られるかもしれないと思いつつ口を開いた。

「斉藤先生」

あの時のセイは彼らがそれほどの使い手だとは思っていなかった。今思えば、だからこそ、つけていけたのだろう。

「実は、もっと前に、使いに出た途中であの二人を見かけたんです。そのときに、先ほど斉藤先生がおっしゃった店とは違う店に二人はあがってました。その時は、二刻ではすまなかったので、馴染みなのかなと思っていたのですが」

それにはさすがの斉藤も目をむいた。あれだけの使い手であり、今、隊が全力を挙げて追いかけている相手の手掛かりを他ならない知っていたのに黙っていたのかと思うと思わず怒鳴りそうになる。

「何……。お前はっ」

―― そんなことをなんで今まで黙っていたんだ!

「申し訳ありません!」

身を乗り出した斉藤に、セイは手をついて頭を下げた。ちっと舌打ちをして立ち上がった斉藤は、蔵を飛び出そうとして足を止める。

こんな話を斉藤からの又聞きで聞いたならば総司がどんな風に怒るか、想像するのも面倒になる。それに、自分にはまだまだ考えることがあると、斉藤は思った。

「その話……。いや、俺は今なにも聞かなかった。これからお前の組長を連れてくる。そこでお前が自分で報告しろ」
「えっ、でも」

急いで蔵を出た斉藤は、舌打ちしたい気分で足音も高く隊士棟へと向かった。廊下に上がると、隣の一番隊の隊部屋を勢いよくあける。

こちらも三番隊同様に、布団が敷かれていて、ほとんどの者達はいびきをかきはじめていた頃だが、総司は起きていた。いきなり開かれた障子に驚いた総司が半身を起こす。

「斉藤さん?」
「起きろ。自分の部下の面倒くらい自分でちゃんと見るんだな」

中に踏み込むことなく斉藤は、しらじらと飛び起きた総司をじろりと睨みつける。ぴしゃりとそう言い捨てると、その声に驚いた隊士達が次々と目を覚ます中、驚く総司をおいて斉藤は身を翻した。

その様子に、セイに何かあったのかと思った総司は、はっと飛び起きると、庭下駄も履かずに蔵へと駆けつけた。

「神谷さん?!」
「はいっ」
「?!」

内戸を引き開けるのももどかしく、蔵に踏み込んだ総司は、寝ろと言ったまま斉藤が急ぎ足で蔵を出て行ってしまったため、布団を広げようかと立ち上がった瞬間のセイをみた。

「え……、と、あれ?」

セイに何事かあったのかと思っていた総司は、布団を手に振り返ったセイをみて、かりかりと頭を掻いた。斉藤の様子を思い出しながら、慌てた自分が急に恥ずかしくなる。

かたや、突然飛び込んできた総司に驚いたセイだったが、初めて顔を見せにきてくれたことにほっとして、布団から手を離すと総司に向かって座布団を差し出した。

「沖田先生。どうぞ」
「あ、ああ。ありがとうございます」

つい、普段通りのやり取りの勢いで腰を下ろした総司は、座ってセイを向かい合うと、そうじゃなくて、と我に返る。

「斉藤さんが部下の面倒を見ろって急に隊部屋に来たので……、神谷さんに何かあったのかと思ったんですよ」
「そうでしたか。ご心配おかけして申し訳ありません」
「……いいんですよ。それより、ここは随分冷えると思いますが、大丈夫ですか」

顔を会わせる資格もないと言っていたくせに、結局気になって飛び込んできてしまった自分を誤魔化すように総司は、小さく咳払いして、セイの顔を見ない様に早口で言った。
薄ら、顔色が変わっていることもよくよく見ていれば気づきそうなものだが、そこは野暮天女王だけあって全く気付く様子もない。

それよりもセイは先程の妓の事を総司にどう伝えればいいのか、胸の内で葛藤を繰り返していた。

言うべきなのは間違いないが、言えばまた怒られるだろう。久しぶりに見た総司の顔を吸い寄せられるように見ていたセイは心を決めた。

―― ええい。今更一つ怒られても二つ怒られても一緒だ!

「沖田先生。今宵も見張りが出て待機になると伺いましたが、奴らが戻ってこないと?」
「ああ。見送りになるでしょうね。あのまま姿を消したのか、または斉藤さんが負わせた傷が思いのほか深かったのか」
「それなんですが、お叱りは覚悟の上で申し上げます。実は、以前、使いに出た際に、あの二人を見かけて後をつけたんです」
「神谷さん!あなたは!!」

顔色の変わった総司に向かって、セイは二人の後をつけて行き、上がった店から出てくるのを待ったことまで話した。厳しい顔で話を聞き終えた総司は、じっとセイの顔を見ていたが、しばらくして深いため息をついて腕を組んだ。

 

 

– 続く –