誇りの色 7

〜はじめの一言〜
やっぱりはねっかえりのセイちゃんですよねぇ

BGM:
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翌日から監察の報告をもとに、各隊は捕り物に追われた。
当然、セイも一番隊として出動が続く。

「皆さん!よく回りを確認してくださいね!」

ぶつぶつと小さくこぼしながらセイは、捕り物に向かった先の店の中を細かく見て歩いていた。店の女中たちはセイが一番先に店の外に出して、店の表で待機していた八番隊に引き渡した。

「後は任せな」
「お願いします!藤堂先生」

藤堂に向かって引き渡した人数を確認したセイは、頭を下げると店の中に駆け戻る。他の一番隊の者達は、不逞浪士の二人を追いかけて裏通りへと走り出ていた。

店に戻ったセイは、店の中を丹念に調べて歩くのだ。まだ、どこかに潜んでいないか、不逞浪士たちとの繋がりを残していないか、繋がりがあるのは店の主なのか、店の者達も同類なのか。

この時代、店に何かがあれば、店に働く者達、また親族も同類とみなされて処罰の対象になるのが当たり前であった。ただし、新撰組はその手の取り締ま りはほとんどが町方に委ねている。先程の女中たちも、町方へ引き渡されて、調べをうけたのち、繋がりがないとわかった者達は無罪放免となるのだ。

二人ほど店に残っていた隊士達に指示をして、セイは怪しいとみなされる資料はすべて運ぶようjに言った。立ち回りでは腕が立つとはいえ、力が弱いセイは、こうして内向きの作業へと回ることが多く、今ではその目の良さから取りまとめるようになっている。

「これと、これもお願いします」

ごっそりと書類の束を預けると、セイは奥に続く、控えの間へと足を踏み出した。年季の入った、大きな茶箱が並んでいるために、薄暗い部屋へと入ったセイは、その向こう側で半分ほど開いた障子から総司の姿を見かけた。

「沖田先生!」

振り返った総司の顔色がはっと変わり、セイに向かってすぐそばにあった煙草入れを投げつけた。
総司が何かを自分に向かって投げつけてきたのをみて、セイは反射的に身を引いて刀で身を庇った。

「な」

驚いたセイが口を開く前に、控えの間のセイとは反対側から襖を勢いよく開いた総司が、刀を構えながらそっと足を踏み出す。

きしっと畳がきしんだ。

「!」

茶箱の間からきらりと光るものが飛び出してきて、その刀を総司が打ち払った。
だん、と重い音がして、飛び出してきた浪士の抜いた刀が天井に突き刺さる。慌てて、駆け寄ろうとしたセイに総司が一喝した。

「何をしてるんです!あなたの仕事でしょう!!」

店の中を確かめるのは確かにセイの仕事だ。一瞬の気の緩みが命取りになる。

「申し訳ありません!」

懐から捕縛縄を取り出したセイは、控えの間の障子を大きく開け放って、光を入れると、用心しながら総司の元へと駆け寄った。
総司の柄で殴打された浪士を縛り上げるセイをじろりと睨みながら、総司は再び裏手の方へと視線を向けた。

庭先の木戸を走り抜けて、山口が駆け込んでくる。

「沖田先生!捕まえました」

ほっと息をついた総司は、セイを振り返るともうすでに捕まえた隊士を引き渡していた。顔を上げたセイが総司と目があって、頭を下げた。

「申し訳ありませんでした!沖田先生。引き続き、家の中をあたります!」
「わかりました。取り押さえた皆も戻って来るでしょうから皆さんの手を借りて確認をしていきましょう」
「承知しました」

頷いたセイは、戻った者達と捜索しやすいように、あちこちの部屋を開け放っていく。

 

 

 

屯所に戻った一番隊は、皆、身支度を片付けて、捕り物の後始末を行った。ようやく一段落して、土方への報告から戻った総司がセイの姿を見つけて声をかけた。

「神谷さん」
「はい」

皆の分も鉢巻きや手甲を集めて、洗いに行こうとしていたセイは足を止めた。総司に叱られるよりも先に、頭を下げる。

「今日は申し訳ありませんでした。沖田先生」
「気を抜いたら命取りだってわかってますよね?」
「はい。申し訳ありませんでした」

ぺこりと頭を下げたセイの頭にぽん、と総司は大きな手を乗せた。あの一瞬、総司の側からは光が入っていたので、影がわずかに動いた気がしたのだ。咄嗟に総司が投げつけなければ、セイは、横合いから突き刺されていたかもしれない。

「とにかく、気を付けてください」

くしゃっと前髪をかきまわしたその手首越しに見えた顔はいつもの笑みを浮かべていてセイもつられて笑顔になる。

「はい。沖田先生、あの時、何を投げられたんですか?あの後、相手を捕まえてからあちこち、部屋を開けて歩いていて、戻った時には上を下にひっくり返した状態だったんですよね。だから、なんだったんだろうって……」
「ああ。あれは煙草盆ですよ。咄嗟に近くにあって、取っ手もあったし投げやすかったんです」

セイに向かってなげつけたものの正体を聞いて、セイはあんぐりと口を開けた。何か四角い、手ごろな代物だとは思ったが、光が差し込んでいた側なので、セイからは何か黒くて重たい箱を投げつけたように見えたのだ。

「先生……。先生だって危ないじゃないですか。もし火が残っていたらどうするおつもりだったんですか?」

つい咎める口調になったセイに向かって総司がくすっと笑う。

「あのねぇ。あなたじゃあるまいし、あの時、ちゃんと火種は確かめて煙草盆も拾っておきましたよ」
「なんだ……。あ!いえ、そりゃそうですよね!はは、失礼しました」
「まったく……」

もう一つ、ふざける様にセイの頭をこつん、と叩いた総司はセイの抱えていたものに目をやるとにやり笑った。

「そんな神谷さんには一番隊の皆の分も出役の支度を片付けてもらうことにしましょう」
「ええぇ~!全部ですか?!」
「当たり前です。さあ、皆さん。皆さんの分の支度も神谷さんが片付けてくれますから」

ぱんぱん、と手を叩いて隊部屋に入っていく総司に、セイがぎょっとしている間もなく、隊士達が諸手を上げた。面倒な支度の片づけをセイに押し付けられると聞いて、皆がにやにやとした顔で次々に声をかけてくる。

「悪ぃなぁ、神谷」
「俺のは特別汗臭いからよろしく頼むわ」

ぐむむ、とへの字に口を引き結んだセイは、仕方なく叫んだ。

「わっかりましたぁ!!」

隊部屋からどっと笑い声があがって、捕り物の後だというのにその緊張の欠片もないほど、一番隊の隊部屋のあたりは賑やかになった。

– 続く –