羨望と願望 中編

~はじめの一言~
一番隊の皆さんのほかに三番隊の皆さんも少し参加されたいそうです。
BGM:Habib Koité and Bamada Din Din Wo
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「お、沖田先生!そろそろ起きてください」
「う……ん……神谷さん、もう少し……」

無意識なのか甘えるようにセイの膝に腕を回した総司にセイが頬を赤らめた。板戸に張り付いていた男たちは慌てて自分の床に這い戻っていく。

床の中に戻った男たちの脳裏には先ほどのセイが屈みこんだ姿が浮かんでいて、その相手は総司ではなく、それぞれの姿になっている。
脳裏で優しくセイが頭を撫でて、そっと耳元に囁く……。

我慢の限界が来る直前。

 

幹部棟から土方が現れた。膝枕で寝ている総司とセイに気がつくと、うっと怯んだように立ち止った。

「おまっ!!てめぇ、総司!こんなところで何してやがる!!」

土方の声にがばっと起き上がった総司と、慌てて総司を膝の上から落としたセイが飛び上がるようにして座り直した。

「あっ、土方さん」
「総司~~!!」
「だって、眠くなっちゃったんですよぅ」

土方が通りすがりに総司の頭にげんこつを落とした。

「神谷っ、お前も女じゃねぇんだから膝枕なんかしてんじゃねぇ」
「そ、そう言いますけど、副長だってやらせたことあるじゃないですか!!」

それを聞いた隊士部屋の男たちががばっとはね起きた。一番先に丸山が障子まで辿り着いて、勢いよく障子を開けた。

「か、神谷っ!!お前、頼んだら俺にも膝枕してくれんのか?!」
「はぁ?!そんなのするわけないじゃないですか!!」
「副長と沖田先生はよくて俺達じゃだめなのか!」

セイは飛び出してきた隊士達に詰め寄られた。次々と膝枕をねだる男達に、土方が鳥肌をたてて怒鳴った。

「おめぇらいい加減にしろ!!」
「何言ってるんですか!!副長は神谷に膝枕させたんですよね?!」

小川が今度は土方に詰め寄った。小川の言葉に頷きながらにじり寄ってくる皆の勢いに押されて土方が、言葉に詰まる。総司がとりあえず、割って入ると総司まで小川に噛みつかれた。

面倒になった土方が、お前ら全員今すぐ寝ろ!と叫んで、全員を部屋に押し込んだ。

押し込まれた隊部屋の中で、じっとりと総司に向かって羨望の視線が向けられている。身の危険を感じるのか、総司の向こう側にいるセイは身を竦めて頭の方まで布団にくるまっていた。

「……神谷~」

地の底から聞こえるような低い声があちこちから上がる。むくっと起き上がった総司は、ひょいっと掛け布団ごとセイを抱え上げた。

「ちょ、沖田先生っ」

「あ~……神谷~、沖田先生~」

布団の中で動くと、そのまま落ちそうになって、セイは慌てて総司にしがみついた。後に残されたのは布団の中でもがきまわるゾンビの群れ同然の一番隊の隊士達だった。
総司は憮然としたまま、隣の三番隊の部屋に向かった。 斎藤が寝ている場所の傍がちょうど開いていたので、そこにセイを下ろした。

ところが。

実は、セイがほんのわずかの間、配属されていた三番隊の隊部屋は一番隊の隣にあるために、その部屋の中も一番隊と同様だった。土方のどなり声を聞いた隊士達が慌ててそれぞれの床に潜り込んだところだったのだ。

「神谷~……。俺達も膝枕してほしいなぁ~」

くぐもった声が布団の中から次々とわきあがって、パッと恐怖の顔を浮かべたセイが起き上がると、一番隊の部屋に戻るべく隊部屋から出ようとしていた総司が無言で再びセイを抱え上げた。

「あ~……。沖田先生~ずるいです~」

わらわらと三番隊の隊部屋も一番隊同様に布団の中のゾンビ集団と化していく。仕方なく、総司は幹部棟にむかって近藤の部屋にセイを押しこんだ。

「ちょっと、沖田先生!局長のお部屋なんか駄目ですって」

セイが叫ぶと、隣の副長室から土方が飛び込んできた。

「な、何してんだ、お前ら」
「なにいってるんですよ!土方さんのせいじゃないですか!」

憮然として総司が言い返した。土方があれだけ騒がなければ、おかしなことにはならなかったのだ。
セイのために、局長室に布団を敷くと、自分はさっさと隣の部屋に入って、土方の床にもぐりこむ。呆気にとられた土方が慌てて襖を閉めて、自分の布団に入りこんだ総司に仁王立ちした。

「何やってんだ!ガキじゃあるまいし!」
「いいじゃないですか。神谷さんと一緒に寝るわけにもいかないんだから、一晩くらいここに置いてください」
「……~っ!ったくっ」

総司に背を向けて土方が床にはいる。背中合わせの総司に向かっていつもの台詞を言いそうになって、口を開きかけた瞬間、先手を打たれた。

「衆道じゃありませんからね!土方さんが変に騒ぐから隊部屋が騒がしくて眠れなくなったんですから!」
「う、うるせぇ。黙って寝ろ」

局長室では、隣の部屋の声を聞きながらセイが横になっていた。
いつの間にか、心地よい疲れだけがセイを包み込んでいて、横になるとすぐに眠りに入った。

 

 

翌日、起床の前に起きだしたセイは、床を畳んで局長室の中を整えると、静かに局長室を出た。幹部棟側の井戸に向い、冷たい水で顔を洗う。

「はぁ……」

これだけ朝が早いとさすがに涼しくなってくる。
静かに皆を起こさないよう、隊部屋に忍び込むと、そっと荷物をとってきて着替える。ぱたぱたといつも通りの朝の支度を始めた。

朝餉を終える頃、外泊していた者たちが次々と戻ってくる。その後、稽古になるはずが、セイは一番隊の全員が隊部屋にかたまっているのを見たセイが若干、身を引いた。

 

– 続く –