狼 初編

〜はじめの一言〜
ちょーかっこいい戦闘シーンが書きたくなりました。
そんな腕はないのですが(汗

BGM:origa rise
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幹部会の後、副長室から遅れて出てきた数人。

「たまにはこういうのもいいよなー」

明るい声の主は原田である。その後ろから永倉が出てくる。

「ま、稽古不足の解消ってのでどうよ?」
「皆好きだよねー」

後ろから藤堂が声を上げる。いつもの三人がぞろぞろと隊士部屋へ向かう。
障子のあいたままの部屋からはまだ誰かがいる気配。

しばらく間をおいて、斎藤が出てきた。相も変らぬ無表情ですたすたと三人を追い抜いていく。

「斎藤~、今日は飲みに行かないの~?」

藤堂が斎藤の後姿に声をかける。
軽くひらりと片手を上げただけで、そのまま歩み去った。

 

幹部会が終わった後、セイは局長室に呼び出された。
今日の近藤の供をしろというのだ。

「はぁ……。なんでわざわざ……」
「座敷にあがるってのに無骨な男どもばっかりってわけに行かねえんだよ。今日は」

土方がわざわざ嫌そうに説明を始めた。どうやら日ごろの労いという名目でどこぞのお偉方との宴席に局長である近藤が呼ばれたらしい。
それだけでも土方にとっては不愉快なことなのに、さらに不愉快なのは揶揄されたことだ。

『鬼と呼ばれる新撰組には花のような隊士がいるようですな』

そう言われて、供として連れていく羽目になったらしい。

「せいぜい着飾っていけ」
「トシ、そういうなよ。すまんな、神谷君」
「いえ、わかりました。お供させていただきます」

そういうと、支度をすべくセイは動き始めた。近藤の衣服も格の高い座敷にあがり、お偉方と同席するならば侮られるような姿ではならない。隊服以外で整えたほうがいいだろう。

「はぁ……」
「溜息ですか?」

ひょい、と総司が覗き込んでいた。近藤は、副長室での用談中である。

「あ、沖田先生」
「今日は局長のお供だそうですね」
「はあ。副長には着飾っていけって言われちゃいましたよ」

セイがそう答えると、珍しく総司が眉をひそめて、よけいなことを……とつぶやいた。
不思議そうにその顔を見ると、慌てて何もなかったように微笑んだ。

「先生?」
「ああ、いえ。何でもないんです。たまには神谷さんも少し羽を伸ばすくらいの気持ちで行ってきたらどうですか?」
「そんなわけにはまいりませんよ。局長のお供ですから」
「まあ、そうなんですけど……ほら、たまには息抜きも大事ですからね。少しくらいお酒も飲んでもいいんじゃないですか?」

「……はあ。そうですか」

羽を伸ばすくらいしてもいいといえば、もっと嬉しそうな顔をするかと思ったが、総司の予想を裏切ってセイはなんだか、考えこむように生返事を返すと、再び支度に戻った。
それ以上は、総司も何も言わずに去って行った。

「なんだかなぁ……」

再び、溜息とともにそうつぶやくと、セイは自分の着物もなるべく良いものを選んで整えた。

 

宴席は、至極つまらないもので、せっかく呼んでいる女たちも粒ぞろいであるし、料理も見事なものだが、どんよりとした気分でセイは、料理をつついていた。
下品なお偉方は、ひたすらしつこくセイの体に手をまわし、酌をしろの一緒に酒を飲めの絡んでくるし、近藤がさりげなく庇ってくれていても気が晴れない。

そうこうするうちに、宴席もお開きになり、近藤がそのまま泊まっていくことになった。

「神谷君、今日は私はこのまま泊まっていくが、君は帰りなさい。どうも調子が良くなさそうだ」
「すみません」

いつもならば、そんなことはないといって食い下がるセイが、本当にすまなそうに頭を下げると素直に帰って行った。近藤はその姿を見送ってから、一度だけ店の外に出た。賑やかな通りを歩み去っていく姿を確認すると、女たちの案内で店に戻った。

 

とぼとぼと屯所に向かって歩きながら、セイはわざわざいつもより遠回りな道を選んだ。
人通りが減ってきて、灯りも乏しくなってきたところでセイは、突然立ち止まった。ふっと火を消して、じっとあたりの気配に耳を澄ませる。

 

―― 悔しいなぁ……

屯所を出る前に、斎藤に声をかけられた。

「神谷か。今日は局長の供らしいな」
「兄上」
「局長がご一緒だからな。少しは飲んできたらどうだ」
「兄上もですか……」
「ん?」

再びはぁ、と溜息をついてセイは頭を下げた。斎藤から離れたセイは、どんどん落ち込み始めていた。

頼りないのかなぁ……。未熟なのは分かっているから、仕方がないのだけれど。

 

– 続き –