狼 中編

〜はじめの一言〜
格好良くない~。しかも長い~。
だって……セイちゃんだったら悔しいと思うんだもん

BGM:origa rise
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……―― ざわり。

毛を逆なでるような気配。地団太を踏みたいくらい腹が立つ。

ああ、悔しい!!

灯りを邪魔にならないように道のわきの方へそっと置いた。押し殺した声に合わせて、ざざっ、と足音が響く。

「おい、どこだ?」
「その辺にいただろう」

月明かりの下で目の慣れたセイには、滲みでるように現れた十人ほどの人影がよく見える。それでも、夜陰に息を潜めたセイは動かない。

まだだ。

懐に隠していた手ぬぐいの間に小さな鈴が二つ。一つ目を手の中に握り締めて、懐から手を引き抜くと、自分とは反対側の気配を辿る。見知った気配は五つ。

怪しい人影の向こうにいる一番嫌いな気配に向けて思いきり鈴を投げつけた。

シャリーン

「どこだ!!」
「そこか!!」

一斉に抜刀した者たちがそちら向けて走り出した。

本来なら、灯りを持って一人屯所へむかってあるくセイを襲う。そこに現れるはずの彼らがやむなく刀を抜いた。
そこに、背後からいくつか火のついた小さな塊が投げられた。その場が一瞬で明るくなる。

投げられたのは、ぼろ布の塊に油をしみこませたもの。火事にならないような場所を選んで立ち止ったのもわざとである。投げた人影は再び暗闇に身を潜めたのか、そこには見えない。

「お前ら!!」
「新撰組か?!」

一斉に抜刀した五人。土方を筆頭に総司、斎藤、原田、永倉の五人である。おそらく藤堂はセイの代わりに近藤の護衛に回ったのだろう。

「なんだか予定外だなあ?」
「まあな。もうちっと、俺達、格好よく登場するはず?」

呑気なセリフは原田と永倉である。にやり、と口の端を釣り上げた土方が刀を引っさげて歩みだした。

「なんにせよ、俺達の今日の目的だ。しっかりやれよ」
「へぇへぇ」

「じゃ。いきまっか」

軽口を叩いていた男たちが、抜刀した刀を構えた。狼たちが、久々の獲物に舌なめずりをする。

 

流派よりは実践派の土方は、自分に向かってくる相手に対して、上段に振りかぶって斬りつけた。上段から振りかぶるのは、よほど自分の腕に覚えがなければできない。または相手の腕を自分以下だと判断できたか。
キン、と受けられてそのまま組み合った。

「土方さん!遊んでる場合ですか!」

総司は土方に向けてそんな声を投げながら、腰を落として抜き払った大刀が相手の刀を握ったままの片腕を斬り飛ばした。そのまま横から斬りかかる男の足を切り裂く。

落ち着き払った動きで斎藤は相手を読んでいる。手堅く相手の力量を判断しながらさばいていく。
しかし、原田と永倉はそんなことはお構いなしだ。横薙ぎに次々斬り倒していく。
戦闘不能にするという考えはない。

次から次へと向かってくる者たちを薙ぎ払うように、切り倒していく。

恐ろしい早業で、狼たちが襲いかかった敵を殲滅した。息のあるものは捕縛縄で縛りあげる。

「なーんか手ごたえなくねぇ?」
「まあ、こんなもんだろ?」

原田と永倉が縛り上げた男達をひとまとめに括りあげる。

「手ごたえがないのは確かだな」

ぼそり、と斎藤も呟いた。もともと、標的になっていた者の力量からすれば十分だろうが、それにしてもここに局長である近藤がいれば、やはり物足りなかったかも知れない。

それぞれが刀を拭い、あたりを窺うと刀を納めた。捕まえた男たちは原田と永倉、斎藤が連れていくことになっている。土方と総司を残して、男たちが立ち去ろうとした。

足もとに投げられた火もかなり小さくなり、間もなく消えようとしている。先にたった3人は懐から提灯を取り出して灯りを灯した。

決して気を抜いていたわけではない。
が、残った気配は本来その場にいるはずの者のものだと皆が思いこんでいた。その隙を狙って、気配を消していた二つの影が土方に向けて走りこんだ。
しゃーん、と再び鈴がなった。

凄腕の剣客だろう、淀みなく走りこんだ男は、ためらいもなく土方の背中に向けて、抜き打ちに斬りつけた。
鈴の音で、走り込んできた気配より先に反応できた。土方の少し前を歩きだしていた総司と、さらに先を行く斎藤達が振り返って、鍔口に手がかかった。

かろうじて自分の刀を抜き払った土方が腰をおとして、一撃を避けた。そこに、自分の気配を襲撃者の気配に乗せて走りこんだ小さな影が下段から鮮やかに斬りあげた。

 

– 続き –