秋空に紅葉 6

〜はじめの一言〜
旅に行きたいなぁ

BGM:
– + – + – + – + – + – + – + – + – + –

どくん。どくん。

どちらの鼓動かわからないが、とても速い心臓の音が伝わって来る。
緊張しているのはどちらも同じで、抱き寄せたものの、腕の中で緊張しているセイを感じて、なんだか総司はおかしくなった。

「……ぷ」

唐突にくくく、と笑い出した総司にセイが驚いて顔を上げた。

「先生?」
「だ、だって、神谷さん。顔真っ赤ですよ。紅葉みたいに」

そういわれるとますますかああ、っとセイの頬が赤くなる。それを指摘されたことが恥ずかしくて、俯いたセイは思い切り腕を突っ張って総司の体を突き放した。

「知りません!」
「あはは。ごめんなさい」
「もういいですっ!」

ぱっと総司を振り払ったセイはくるりと背を向けて総司から離れた。赤くなったことも、抱き寄せられたこともそれを知られたことも、初めての出来事に本当に慣れなくて、どうしていいかわからなくなったセイは、不覚にも目にいっぱいの涙を浮かべて両手を頬に当てた。

少しでも赤くなった頬がもとに戻る様にとギュッと強く押さえたセイを背後から総司が両腕で抱きしめた。

「……ごめんなさい。こうして一緒にいられることが嬉しくて、貴女が可愛らしくて……。どうしていいかわからなくなったんです」

耳元でそう囁いた総司は、セイの首筋に頬を寄せた。
愛しくて、抱きしめたくて、それをセイに伝えることが躊躇われたのは、この娘を手に入れてしまったからこその想い。

ぐすっとすすり上げたセイが回された腕に手を添えた。

「何も……。私だって、いつものように先生のお傍にいられればそれだけで十分なんです。本当に、夢みたいで……」
「夢になんてしたくないです」

ぎゅっとセイを抱きしめる腕に力がこもる。もう一度解き放たれた想いは封じ込められはしない。

―― こんな風に焦りまで覚えるなんて……

大きく息を吸い込んだ総司は、ゆっくりとセイに回していた腕を解くと、セイの肩に手を添えて向きを変えさせる。

「焦って駄目になんてしたくないんです。だから、私達なりに、ゆっくり歩いていきましょう?」
「先生……」

大事に、大事に想っているのだという総司の想いが伝わってきて胸のなかがほかほかと温まってくる。潤んだ目を向けたセイの鼻先をぺろりと総司が舐めた。

「っ!」
「だけど、このくらいは勘弁してくださいね?」
「……う」

―― 駄目ですか?

子供のような目を向けられると嫌とは言えなくなる。小さくセイが俯きがちに頷いたところを、ふわりとすくい上げる様にセイの頬に添えられた手が上向かせた。

「あ……」

呟きごと吐息が奪い去られる。

眩暈がしそうな感覚に、セイが目を伏せると、ゆっくりと離れた総司が耳元で囁く。

「……すみません。どうしても我慢ができなくて」

俯いてしまったセイをまるで子供のように抱き上げるとぐるっとその場で一回りする。

「ひゃぁぁっ!ちょっ、沖田先生!」

悲鳴を上げたセイがいつものように顔を上げたところで、セイを下ろすと、にこっと笑った。

「さ、そろそろ帰りましょうか」
「……はい」

傍に置いていた饅頭の包みに手を伸ばすと、総司は片手でそれをぶら下げて、片手はセイの手を握る。ゆっくりと歩き出した総司について、セイは歩き出した。

このつないだ手から、お互いの想いが流れて、手のひらのあたりで混ざり合う。

屯所に向かって歩く間に、通りすがりの人々にその手を見られているような気がしてきて、気恥ずかしい。

「あ~?総司?……と、神谷じゃねぇの?」

背後から聞こえた声に飛び上がった二人は慌てて手を離した。振り返るとこれから酒を飲みに行くところだった原田達三人組が肩を並べていた。

あわあわと手を振り回したセイが、作り笑いを浮かべる。

「原田先生!永倉先生に、藤堂先生も!!こっ、これから飲みにいかれるんですかっ?!」
「なんだよ、何慌ててるんだよ?総司に何か叱られでもしたの?」

セイの様子に顔を曇らせた藤堂が一歩前に出てきて、セイの前髪をくしゃくしゃと撫でた。笑いながら原田と永倉が一歩遅れて近づいてくる。

「総司に説教ぶたれるなんていつものことだよなぁ?神谷」
「ちょっと!原田先生、どうして私が沖田先生に叱られたってことになってるんですか!」
「なんだ、ちげぇの?」

くいっと隣に立っている総司を原田が目線で示すと、ついさっきまであんなに機嫌がよさそうだった総司が、ひどく不機嫌そうにしている。わけがわからないセイをよそに、藤堂がセイの肩に手を乗せて引き寄せた。

「総司ぃ。厳しいのもいいけどさぁ。たまには神谷に優しくしてやんなよ」
「……別に、厳しくしているつもりはありませんけど」

ぷいっと背を向けてしまった総司はすたすたと一人で歩き出してしまった。残った面々が呆気にとられて顔を見合わせている。

「え?俺、なんかまずいこと言った?」

慌てた藤堂が原田と永倉の顔を見比べていると、のんびりした口調で永倉が口を開いた。

「神谷」
「は、はいっ」
「拗ねた上司の機嫌を直させるのもお前の仕事だろ?」

にやっと笑った永倉に頷くと、ぱっと弾かれたようにセイが走り出した。一町程度先のあたりで総司に追いついたセイが、何事か総司に話しかけている姿が見える。

「なんだ、総司の奴。子供じゃあるまいし、あんなんで悋気起こすかぁ?」
「えっ?!俺、総司に悋気起こされてたの?」

なんで?なんで俺?と両隣に首を振る藤堂の肩を両脇からがしっと掴んだ原田と永倉が軽々と藤堂を釣り上げた。

「まあまあ。お前はわかんねぇならいいんだよ」
「そうそう。危うく馬に蹴られそうになっただけさ。さ、飲みにいくぞー!」
「なんで~?!」

叫んだ藤堂の声だけが秋空に響いた。

 

– 終わり –