戦士の休息
~はじめのつぶやき~
スポットもの。なんて前は言いませんでしたね(笑)
特に落ちもなく、盛り上がりもないんですが、青空ってこんな感じだよなぁっていう一コマです。
BGM:キッスは目にして
– + – + – + – + – + –
「沖田先生」
「はい?」
「いいお天気ですねぇ」
「そうですねぇ」
のんびりした声にのんびりと答える。
抜けるような青空と風がなくなれば少し暑く感じるくらいの日差しと。
幹部棟の部屋もこの天気に土方の部屋でさえ障子をあけ放っている。
並びの部屋はすべて片側に障子を寄せてしまっているから、柱だけの場所に長々と廊下まで寝そべる総司は目を閉じたままだ。
「少しお腹が空いてきました。神谷さん」
「そうですねぇ。お昼まであと少しですねぇ」
今日は稽古もなければ巡察もない。穏やかな一日だ。
膝の上に総司の頭を乗せていたセイは総司の顔を覗き込む。
「先生。そろそろ……」
「うーん、もう少し駄目ですか?」
「先ほどもそうおっしゃいましたよ」
足が疲れたということはない。
むしろ、何もせずにこの時間をそっととっておきたいくらいだった。
なのに、そろそろというのも変な話である。
―― だって先生。とってもお天気がいいじゃありませんか
文箱に入れてとっておきたいような。
そんな空を見上げていたら、このままずっとこうしていたいと思ってしまうのだ。
「……本当にいいましたっけ?」
「ええ。本当に」
まだもう少し。
このままでいてほしいと思っているのと裏腹な返事をすると、ふ、と膝の上の感覚が軽くなる。
わかっているのだろうに、黙って頭を上げた総司を少しだけ恨めしく思いながらセイは座布団を畳んで、総司の枕代わりに差し入れた。
セイの膝よりは少し深く沈みこんで、総司は目を開ける。
「ああ……もったいない」
「先生?」
「ねぇ、神谷さん」
不思議そうに総司を覗き込んだセイを見上げて、総司は腕をあげた。
自分の手の向こうに見慣れた天井。
そのはずが総司の目には手のひらごと透けて、青空を感じる。
節くれだった武骨な手にセイの手がそっと重なった。
「もう少しならお休みになっていて構いませんよ。その間に先生のお着物を片付けてしまいますから」
自分は仕事をするからと言いながらも、セイの手は離れる気配がない。
目を細めた総司は、セイの手を引いた。
「後で、一緒に片づけますからもう少しゆっくりしましょうよ」
「先生。それも、さっきからずっとおっしゃっていますよ?」
小さく笑いながらセイは総司の傍に近づいて、同じように空を見上げた。
「いいお天気ですねぇ」
「神谷さん。ずっとそればかりじゃないですか」
「そうでしたっけ。でも……、すごくいいお天気で、ようやく梅雨もあけてこれから暑くなるんだろうなぁ、とか」
とんとん、と総司の隣を叩かれて、薄っすらと赤くなりながら横になる。
「ほら。こうして見上げた方がより、空模様を感じられるでしょう?」
「そ、そうですね」
並んで横になっているだけでなく、総司は片腕をセイに貸しており、セイはどぎまぎしながらも、くつろいでいる総司の隣にいられる嬉しさでいっぱいになる。
総司の顔などまともにみられないのだが、空を見ているのだと言えばいいのは助かる。
そして、眩しさに目を閉じているうちに、まだ昼前にも関わらずうつらうつらと瞼が重くなってしまう。
・ ・ ・
「誰か……!!!」
そろそろ昼餉の時間だと、部屋を出てきた土方はそこにある光景にぎくり、と足を止めた。
ずっと書き物をしていて、外の日差しがまぶしいと出てきた土方には、隊士たちがひそひそとのぞき見している光景はあまりにと言えばあまりに、目に悪い。
物陰からニヤニヤとその光景を堪能していた隊士たちは慌てて渡り廊下を隊部屋のほうへと逃げていく。
ぶるぶると拳を握り締めた土方の絶叫が響いた。
「……くぉら!てめぇら!!何してやがる!!」
びくっと飛び起きた総司とセイがその後どうなったのか。
それはしばらくの間、外に出た隊士たちの語り草になるだけはあったらしい。
—おわり