その願いさえ 25
~はじめのつぶやき~
続き物はやっぱり続けて書いていかないとだめですねー。間が開きすぎるとなんだか思う様にいかず。
ひとまず終わりですが、いつかもう一度手直ししたい・・・(懺悔
長らくお待たせいたしました。
BGM:悲しみのバンパネラ
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新平と斎藤が酒を飲んでいる頃、総司はまだ座敷にいた。
膝の上で握りしめた手を見つめたまま動けずにいる。
―― 言われなくても……
いつからだろう。
本当は、だいぶ前からずっとわかっていた。
そうなのだと。
ずっと、願うのは人の願いだけだったはずなのに。
「あの人はずっと、私の願いを知っていて……それを叶えるために傍にいてくれようとしているんです」
それがいつか、セイの一番の幸せではなくなる時が来るかもしれない。
もっと、セイには幸せがあるんじゃないかと思ってしまうのは、自分だけが幸せに思えてしまうからだ。
今では誰よりも信頼して、何かを考えるときは必ず打つ手の中に入れてしまう。
信頼できる部下だからだと自分に言い訳をするのももう限界なのだろう。
いつか。
いつか、自分が何を置いてもセイを傍に置こうとする日が来るかもしれない。
その時、自分は自分を赦せるだろうか。
セイの意志など関係ない。ただ、ただ、自分のものとして傍に置いて、片時も……。
「そんな私をあの人がどう見るかなんて……」
そんな恐ろしいことができるだろうか。
侮蔑の目。
堕ちたと。
それがお前なのかと。
そんなことを自分自身にさせるわけにはいかない。
新平に突き付けられた事実を自分の胸の中で押し開き、己自身で認めるのはとても辛い作業だった。
総司は手にしていた杯を置いて、新平が残していった膳の上に手を伸ばす。
無心に、残るものを口に運び、がむしゃらに腹に入れる。
端からこぼれた汁を手の甲でぬぐい、頬一杯に口に入れていくうちに、虚ろだった目に力が戻りだす。
膳を空にした総司は、箸をおいてから思い切り自分の顔を叩いた。
斎藤と酒を飲んだ後、新平は井戸端に向かって頭から水をかぶった。
顔を洗って、汗をぬぐって着物を取り換える。
隊部屋に戻ると、総司が戻ってきていた。
「あ!郷原さん。さっきのお店の払いですけど、はい!」
「えっ」
にこにこと近づいてきた総司は新平の手を掴むと手のひらの上に銀粒を握らせる。
「部下に支払わせたなんて、仮にも一番隊組長の面子が立ちませんからね!」
どうだ!と笑った総司は、いつも以上に明るく隊士たちの元に戻っていく。
それを廊下から見ていた斎藤が、ちらりと新平を見てそれみたことか、と首を竦めた。
「……は」
呆気にとられていた新平は小さく息を吐くと、手のひらの金を懐に入れる。
着物の始末をつけて、廊下に出たところでセイとばったり行き会う。
土方の部屋から戻ってきたところだ。
「あっ、郷原さん!あの……」
「神谷さん」
詫びなのか何なのか。
口を開きかけたセイに、片手をあげた。
「待った。言い訳も詫びも結構です。正直、どうせまた同じことを繰り返すだろうとも思ってますので」
「そんな……っ」
「とはいえ」
ここまでだと上げた手のひらをそのままに、きっちりと線を引くように宣言する。
「私には私の筋の通仕方がありますので、せいぜい突っ走ろうとする神谷さんの邪魔をすることにしますよ」
「じゃ、邪魔?!」
「そうでもしないと神谷さんはまだしも、あちらはもっと……」
「えっ?えっ?」
言うだけ言って、気が済んだ。……わけではないが、ひとまず事はなるようにしかならない。
その点でいえば、新平の腹は決まっている。
総司に比べればはるかに。
だからこそ、その願いをできる限り叶えることなど造作もないはずだ。
いつか、この姿でいなくなる日が来たとしても。
—おわり