無礼講の夜 1

〜はじめの一言〜
黒い先生というリクエストでしたので。とりあえず投票結果でエロい方から。

BGM:
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「おら、飲んでんのか?神谷」
「はいはい。いただいておりますよ」

くだを巻く原田に酒を注いだセイは仕方ないなぁという顔で空になった白鳥に酒を頼む。
宴会ではなくとも、原田と永倉、それに藤堂が揃った横にいて引きずられないはずがない。揃った三人組に通りすがりに拉致同然に連れてこられたセイは、一人素面で接待係と化していた。

「かーみやっ」
「はいはい。藤堂先生、少しお待ちくださいね。今、お酒頼みましたから」
「ちがうっ」

こちらも酔っ払いの藤堂がにこにことセイに絡んでくる。隣に座った藤堂がぐいーっと腕をつかんだ。間近でセイの顔を覗き込むと、にかっと口をあけた。

「あ!」
「はい?」
「食べさせて!」
「はぁ?」

あーん、と口をあけている藤堂に呆気にとられたセイは酔っ払い相手だと思って、渋々藤堂の膳の上から藤堂の口に南蛮漬けを放り込んだ。口に入れられた藤堂は嬉しそうにもぐもぐと口を動かしている。

「はぁ……。もう、明日非番じゃなかったら沖田先生に怒鳴られそう」

密かにつぶやいたセイは、こっそりと注がれた酒を膳の下で茶と取り換えた。とりあえず、連れてこられるときに通りすがりの隊士に原田達に連れて行か れると伝えてもらったのだが店までは成り行きなので難しい。とりあえず、門限までに帰れなくても、原田達に連れ去られたことだけは伝わっていれば、何とか なるはずだ。

「あーんだって?お前なぁ。総司、総司って、総司はそんなにいいのかよ?」
「いっ、いいとか悪いとかじゃありませんよ!自分の組長にそんな……」

酔っぱらった酒臭い息でセイに近づいた原田が絡み始める。ぽっと顔を染めたセイが言い淀むと絶好のネタとばかりに皆が食いついてきた。

「組長じゃなくたって一緒だろう~。お前、小姓だったときも総司一筋だっただろ?」
「一筋ってなんですか!そんなことありませんよ!」

わたわたと否定したセイをにやにやと三人で囲むとさらに畳みかける。こういう時の酔っ払いほどタチが悪いものはない。ましてやこの三人組である。

「ほぉ~?じゃあ、一筋じゃないってんだな?相手は誰でもいいのか?斉藤でも中村でも?」
「なっ!なんで兄上や中村が……っ」

立ち上がったセイが反論を言いかけたところに背後の襖があいて首根っこを掴まれた。危うくひっくり返りそうになったセイを軽々と片腕で押さえこんだ総司がそこに立っている。

「やっと見つけた。ここでしたか」

登場した総司に三人組がぽかんと口をあけた。確かに行きつけの何件かを歩けば彼らの行先などすぐにわかるだろう。セイが飲まされていないかと心配で追いかけてきたのだ。

「そーーーじぃ。よく来たね。飲んで飲んで」

にや~っと笑った藤堂が杯と酒を差し出してくる。掴んでいたセイを離して、自分の後ろに追いやると代わりに三人の前に進み出た。

「もう、原田さんも永倉さんも藤堂さんも、神谷さんを連れて行くなら私にだって声をかけてくれてもよかったじゃないですか」
「だははは。お前を呼ばなくても神谷を引っさらって来れば絶対来るだろ?」
「総ちゃん!俺と飲もうよ~」

藤堂がべったりと張り付くと慣れたもので、はいはい、といつもの笑顔で藤堂と笑いながらもう酒を手にしている。部屋の隅に追いやられていたセイは、ぽかんとその様子を眺めていた。

「……なんだ」

―― てっきり迎えに来てくださったのかと思ったのに……

拍子抜けしたセイは 部屋の隅の方へ転がっていたものを片付け始めた。三人組の羽織をたたみ、転がしたとっくりを集めて廊下の傍にまとめておく。

その間にも楽しげに盛り上がっていった男達はどっと笑い出した。

「神谷っ!お前もこっちにこいよ~」
「あっ、原田さん。駄目ですよ。コドモにはわかりませんてば」

口の端からすでに酒をこぼしながら半分転がりそうになった藤堂と総司に子供扱いされたセイがかちん、としてその輪に近づいた。

「なんですか!子供って」

言い返したセイを片手で追い払うようにして総司が四つに這ってセイの方へと近づきかけた藤堂を引き戻す。そのわきから永倉が杯から酒をこぼしながらも総司の頭を押さえた。

「わからないわけねぇだろ!お前と違って、神谷はあんないい女囲ってんだからよう」
「永倉さんみたいに違いの分かるいい大人とは違いますってばぁ」
「だぁっはっは。まぁな、まあな!」

へらへらと永倉にも酒を注いでいる総司を見て口をへの字にしたセイが食って掛かった。

「なんなんですか!私だってわかります!大人ですから!!」

せっかく話を逸らしていたのに、負けん気の強さから食いついてきたセイに、内心舌打ちをする。総司が止めるよりも先に原田がセイの首を脇に抱えた。

「そうだよな!お前も大人だよな~。あんないい女がいるもんなー。で?お前、どうなんだよ?」
「は?」

どうなんだと言われても、話の輪から外れて片づけをしていたセイには馬鹿に盛り上がってるなと思っても中身までは聞いていなかったのだ。きょとんとしたセイに、向かってぐりぐりと原田が頭のてっぺんに拳を当てた。

「だぁからさ。若いんだからあれだろ?元気いっぱいなんだろ?」
「原田さん!」

さすがに話の流れがまずいと思った総司が止めに入ったが、相手が悪い。これがほかの人ならまだしも、この三人相手ではそうもいかなかった。

「元気いっぱいすぎてもよぅ、女にはよくないんだぞ?」
「はい?」
「飯といっしょだっての。初めちょろちょろ中ぱっぱってな!あっはっは」

目を白黒させているセイには全く何の話かわからなかったが、曖昧に頷いた。決して勘が悪いわけではなかったが、セイにとっては未知の世界である。

「原田さんってば!子供には刺激が強すぎますよ!」
「お前もかてぇなぁ。小花と切れてからお前も遊んでねぇだろ?少しは神谷に引き回されてくればいいんだよ」

あっさりと一蹴された総司をよそに、原田と永倉がセイに向かってあれこれと吹き込み始めた。さすがにそこまでくればセイも話の中身に気づかないわけではないが、そこで素で反応するわけにもいかない。さも知ったかぶった顔で、あれこれと言い返し始めた。

「お里さんは優しいですから!だいたい、いつも皆さんみたいにそういう目的だけじゃ女の人には駄目なんですよ!」
「なんだぁ?いっぱしの口きくじゃねぇか」

面白がった原田に慌てた総司が割って入る。これ以上むきになったらセイが何を言い出すかしれたものではないのと、酔っぱらった原田相手ではどこまで話が進むかわかったものではない。

「神谷さん、もうよしなさい。相手は酔っ払いなんですから」

首根っこを再び掴まれたセイがぐいっと部屋の隅へと押しやられると、藤堂が総司の足にへばりついた。

「総司ぃ」
「はい?」
「そんなに神谷の事が心配?大事なの?わかった!!へーちゃんが一肌脱いであげるっ!!」

何をどう思ったのか、がばっと上半身を脱いだ藤堂がにやっと笑うと総司とセイの腕を掴んでぐいぐいと廊下へと連れ出していった。

 

 

– 続く –