妄想を砕いて
〜はじめの一言〜
男の嫉妬は……。
BGM:嵐 スパイラル
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「神谷さん?」
いつもセイが雑用を片付ける時に使っている小部屋を覗くと、案の定、洗濯物や繕いものに埋もれた姿が目に入る。
「はい、なんでしょう?沖田先生」
「貴女、休みじゃないんですか?」
呆れたように総司が眺める先には、さすがに平隊士の物はないものの、幹部連中の洗いあがった洗濯物が積んである。片っぱしから、ほつれを直したりして繕いものをしてるらしい。顔をあげて総司を見上げる姿は、当たり前だと言わんばかりである。
「だって、こういうときじゃないとできないんですもん」
「貴女の仕事じゃないでしょう」
「そうですけど……。できることはお手伝いしたいんですもん」
ぷぅっと頬を膨らませてセイが言い返した。
総司がセイの居場所を捜しあてたのは、いつもこの部屋を使っているということもあるが、隊士たちがちょろちょろとその姿を窺っていたからでもある。
女子の如く、繕いものをする姿を見たくて覗きにくるのだろう。
「だからって……、ほとんどの幹部の着物を繕っていたら休みなんて終わっちゃいますよ?」
「でも……」
本当はセイにしても、まさかこれだけのもの全部を繕うのは大変だ。とはいえ、総司のものだけというわけにいかず、他の洗濯物もやる羽目になったというのが正しい。
さすがにそれは言えないのでもぞもぞと言い淀む。
はぁ、と溜息をついた総司がその横にすとん、と座った。驚くセイの隣に平然と座ると、何をするわけでもなくぼーっと庭を眺めている。
「沖田先生?」
「気にしないでどうぞ?私も気にしませんから」
セイが繕いものをする横に、まるで夫婦のように隣でくつろいでいる。
くすっと笑って、セイは再び繕いものに精を出し始めた。それを覗きにきていた隊士たちが、溜息とともに、潮を引くように去って行った。
夜半、静かに部屋を出て道場に向かった総司が、ふと昼間の部屋の前で立ち止まった。
誰かが部屋の中にいる。どうやら、隊士の誰かがいるらしい。ふ、と微かに笑って、立ち去ろうとした。
「……か……みやっ……」
耳が、密かに呟かれた名前を捉えた。部屋の中で何をしているのかは、男同士、当然わかる。ただ、その対象とされているのがセイだということがわかると、総司の胸にかあっと怒りが浮かんだ。
さすがに、踏み込む様な真似はしないが、セイが普段よく使う部屋がこうして使われているのかと思うと、許しがたい気持ちが湧き上がる。
それからしばらく様子を見ていると、どうやらこの部屋は特にそういう目的に使われているらしいことがわかった。
そしてその対象は九割方はセイであることも。
再び、セイが自分の休みの間に、小部屋に籠って繕いものをしていると、同じように何も言わずに総司が現れて、今度はセイの膝の上にその頭を預けた。
「お、沖田先生?!」
「あ、気にしないでくださいね。どうぞ、仕事を続けて」
そういうと、膝の感触を楽しむようにうっとりと目を閉じた。まさかそんな行動に出られると思っていなかったセイは、どうしようか迷ったが、結局そのまま膝の上に総司の頭を乗せたまま、その日も足袋を中心に繕い物に精をだした。
その夜、暗い小部屋の中に静かに佇む姿がある。
その部屋を覗き込んだ平隊士達が、部屋の中を見るたびにびくっと、その姿に驚いて逃げ去っていく。
目を閉じて、うっすらと微笑を浮かべたまま佇む姿。
ただそれだけで、威圧される。
妄想の中にさえあの人を思うことなど許さない。
絶対に。
ようやく静かになった部屋の中で、眼を閉じた先にあるのは自分だけの。
– 終 –