Bの総司

〜はじめの一言〜
拍手Bの総ちゃんでございます。

BGM:サントラ Amazing Grace
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「沖田センセ!」

屯所のどこにいてもからかわれるので、外出しようと門に向かうと、ちょうどそこにいつもよく行く甘味処の娘、ハナが現れたところだった。

「おハナさん?どうされました?」

屯所に行きつけの店の者が現れるなど、総司には珍しい。原田達のようにツケで飲み食いしているわけではないので、驚きながらも愛想よく応じると、門の所にいた隊士たちが、一斉に好奇心満々で近づいてくる。

「これ、先日汚してしまったお着物です。申し訳ありませんでした」

そう言われて、包を受け取ると、確かに総司の着物である。そういえばと、わざわざ届けに来てくれた理由に思い当たって、総司は頷いた。

「わざわざすみません。お手数をおかけしました。こちらから引き取りに行ったのに」
「いえ。もうお店には来て下さらないかと思って……」

恥じらうように俯いた娘に、はて、と総司が頭を掻いていると、原田と永倉が総司の首根っこを押さえ込んだ。

「よう、総司。この前、往来の店先でお前が抱きついてた娘か?!」
「行きつけの甘味の娘だったよな!」

数日前、一人で甘味処に出かけた総司は、店先で給仕していたおハナが転びかかるのを抱きとめたのだ。その時に、運んでいる最中だった葛切りとぜんざいが総司の着物にかかってしまった。
それを慌てて拭こうとしたおハナが今度は総司に抱きついたように見えたのだろう。

はっと、総司は両脇の原田と永倉の顔を見た。

「お二人とも、あることないことしゃべりましたね〜〜〜!!!!」
「俺達は見たことを忠実に、屯所の皆様にお知らせしただけじゃねえか」
「原田さん!!」

ぱっと総司から離れて駆け出す二人を総司が怒鳴った。びくっとその声に驚いたおハナに、慌てて総司は礼を言った。

「あの、わざわざありがとうございました。気にしないでください。お店にはまた伺いますから。それじゃ!」

そう言って、あっさりと屯所内に戻っていく総司をみて、おハナが深いため息をついた。そして、門番の隊士がそれを憐れみをもって見送った。

 

 

「か、神谷さん!誤解ですからね!!」

慌てて戻った総司は、セイの姿を見つけるとその肩を掴んで叫んだ。つい先ほどまで、にっこりと怖い顔で笑っていたセイが、あまりの勢いに、眉間の皺も忘れて呆気にとられた顔を向けた。

「原田さんや永倉さんたちが何を言ったか知りませんけど、あの人は甘味処の娘さんで、倒れかかったところを助けただけですから!!ほら、その時の着物をきれいにして持ってきてくださっただけですから!!」

「……私は何も言ってませんけど?」

ぼそりとセイがつぶやいた。横を向いて、さらにぼそぼそとセイが続けた。

「私なんかと甘味処に行くより、可愛い娘さんがいるお店の方がいいですよね」
「違いますってば!!この前はたまたま神谷さんが外出だったから仕方なく一人で行ったんですってば!!」

―― 信じてくださいよ〜〜

脇に着物の包を抱えたまま、必死でセイに弁解する総司に、少し機嫌を直したのか、セイが肩に置かれた手に自分の手を伸ばした瞬間。

総司の脇に抱えられていた包みが半分ほどけて中身がこぼれた。

 

はらり。

 

そこからこぼれたのは総司の下帯。

ばちーーん。

「先生の嘘つきっ!!」
「嘘じゃありませんよ〜〜〜!!!」

 

……その日の総司の頬に残ったあざをみて、斉藤が呆れた顔で、背後から現れた。

「いくら着物がどろどろなったからといって、風呂まで借りてくるからそういうことになるんだろう」
「さ、斉藤さん?……だって、どうしてもってお店のご主人がいうんですもん〜。それに風呂に入ってる間に着替えを用意してくれて、みんな洗われてしまったし……」

―― そりゃあ、アンタを娘の婿にと狙ってるからだろうが!!

内心では怒鳴りつけていたが、わざわざそんなことを教えてやる義理もない。

遠巻きに見ている隊士達を追い払いながら、こういうときこそセイを飲みに誘うべし!と心に決めた斉藤は、さっさとその場を立ち去った。

 

結局、おいしい思いをしたのは、斉藤一……?

 

– 終 –