暗闇に堕ちて~喜「怒」哀楽 4

〜はじめのつぶやき〜
すいません。ものすごく暗い先生です。警告ですぞ。

BGM:また君に恋してる
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隊部屋に総司がいない間に、セイは荷物を取りに来たらしい。相田と山口にしばらく土方の手伝いをしろと言われたといって出て行ったと責めるような顔で言われた。

「そう、ですか」
「沖田先生……」
「いいんじゃないですか。あの人もこのところおかしかったですし」

自分には関係がないという口調でさらっと言った総司に、いつもは温和で通している相田がぶちっと切れた。

「沖田先生!冗談じゃありませんよ。いきなりおかしくなったのは沖田先生の方じゃないですか!そんなの傍で見て立って丸わかりですよ!俺たちだって。沖田先生がいいんだったらいいんです!でも!勝手に自分で完結して神谷を振り回して傷つけるのは勘弁してください!!」

拳を震わせた相田はそう怒鳴りつけると、何度も生唾を飲み込む。明らかに幹部批判となるのは覚悟の上で、どうしても我慢ができなかったのだ。

「出過ぎたことを申し訳ありませんでしたっ!!」

噛みつく様にそういって、くるっと背を向けた相田に驚いたのは、総司だけではなく隊士達も同じだったが、皆、そうだと同じように感じていただけに、誰も総司には声をかけずに離れて行った。

―― 馬鹿だ……私は

そのまま隊部屋に戻る気にもなれずに総司は幹部等に続く渡り廊下へと足を向けた。

―― 斉藤さんが、どれほど神谷さんを想っていたのか知らないわけじゃない。だから、斉藤さんならいいと思っていたのに、この体たらくはなんだろう……

セイを目の前にすると、自分でもどうしようもないくらい心が暴れて、無性になじりたくなる。離れてしまえば、それがどんなに身勝手なのか、十分にわかっていて、こんなにも悔やむのに、セイの顔をみると……。

「どうしたいんだ……。私は」

その呟きがセイに届けばいいのに。
そんな総司の願いは、届かないまま何日も日を置くことになる。

副長室にいても、今までなら総司と顔を合わせることは少なくなかったのに、今回は全く顔を合わせることはなかった。
意図して総司の方が逃げていたともいえる。顔を合わせれば、セイを傷つけてしまうことが怖かったからだ。

そんな総司の前にセイが姿を見せた。

「沖田先生」
「なんですか」
「これから、お時間をいただけないでしょうか」

総司の隊務の隙間を知って、わざわざセイがやってきたことはすぐに分かった。たった三日、会わなかっただけでもセイの顔を見た瞬間、どくんと心臓が大きく鳴る。

その顔は、最後に見たときよりも少しやつれて、疲れた顔をしていた。

「私は……」

忙しい、と言いかけて背を向けようとした総司の目の前に回り込んだセイが、食いついてくる。

「副長に確認してお時間をいただいてきました。外出の許可もいただいています」

いつもは優しい声が緊張のせいか、ひどく固い。
はぁ、と大きくため息をつくと総司は黙ってセイの傍をすり抜けて隊部屋へと向かう。無視されたと身を固くしているセイに総司が振り返った。

「出かけるんでしょう」

はっと振り返ったセイは、背を向けた総司が隊部屋に支度をするために向かったのだと気づくと、嬉しさに緩む唇を噛みしめて急いで後を追った。

総司が支度をして隊部屋から出てくるのを少し離れた場所で待っていたセイは、久しぶりに二人で歩くことにそれだけでひどく緊張する。何か、話さなければという思いが空回りして、何も言葉が出てこない。

「あの……」
「人にやり取りを聞かれたくないんでしょう?私も、あなたに冷たいとかあれこれ言われるのにうんざりしているのでちょうどよかった」

表にでたはいいが、どこに行くかまでは全く考えていなかったセイは、ああ、と少しだけ落胆しながらも、セイがどうしても困って風呂や着替えのために、総司に連れられていく茶屋に向かうことにした。

幾度も足を向けているので、店の方でも案内だけで、奥の離れの部屋をあけてくれる。わざわざ呼ばない限り、この部屋には店の者も来ないように言ってあるのだ。

茶の用意も部屋の中に置かれていて、ひとまず茶でも入れようとしたセイの手を止めるような冷たい声が響いた。

「話なら早く済ませてください」

それだけで言葉が出てこなくなりそうな冷やかさに胸が苦しくなる。セイが顔をゆがめているのを見ていると、久しくおとなしくしていた黒い獣がむくりと目を覚ました。

「あの……。先日から先生が不快にしてらっしゃるのは、私が何かしてしまったからだと思うのですが、それを教えていただけないでしょうか。誤解があるならいくらでもお話しますので、どうか」

―― どうか、お傍に置いてください。駄目だといわないでください

畳に額をこすり付けるように手をついたセイの襟元が覗いて、消えかかった朱色の跡がうっすらと見えた。

「行ったはずです。女子のあなたが嫌いになったんです」
「そんな!だって、今まではそんなことおっしゃらなかったのに!急にどうしてですか?!」
「どうして?」

庭先に目をやりながら、座ることもせずに立っていた総司は、大股でセイに歩み寄った。片膝をついて、セイの顎を掴むと無理やり上向かせる。

「……そんなにわけが知りたいなら教えてあげましょうか」
「はい。……きゃぁっ!」

むしろ優しいくらいの声音で囁いた総司は、セイの顎を掴んだ手とは反対の手で、セイの着物の襟をつかむと一息に肩先まで押し開いた。

強い力で掴まれた上に、さらしが見えるくらい思い切り着物を引かれて、セイの羽織の紐が千切れる。露わになった白い肌には、余計に薄くなっていても朱色の跡が目につく。それを優しく指先で撫で上げた。

「ひ……ぁ……」
「こんなところに、堂々と、はしたない跡を残すくらい、斉藤さんに可愛がってもらったんですか?」
「なにを……」

いきなり素肌をさらされて、赤くなったセイが逃げようとするのを掴んだ手が許してはくれない。セイの顔を覗き込む総司の目が怖くて、手を動かすこともできないままセイは身をひねろうとして掴まれた顎の痛さに顔をしかめた。

「ああ。まさかと思いますが、あなたは自分でも気づいていないんですか?」
「沖田先生、何の話ですか?!斉藤先生は何も……!」

何もしていない、と言いかけたセイは、首筋に感じた生暖かい滑る感触に凍りついた。

「こんなところに吸われた跡をはっきりとつけられていたのに、それに気づかないほど夢中になっていたんですかねぇ?」

からかうような総司の言葉が耳に届くのに、セイは驚きのあまり、目線さえ動かせなかった。

– 続く –