先生の大事なもの 1
こやつも貢物です。この辺書きまくってた頃は、毎晩のように、何か1本、しかもお互いが何かリクエストしたりして書きまくってました。どっちも早いんで(先生じゃないです!)かたや、絵が20分くらいでできてきたり、かたや30分くらいで1本かき上げてみたり。
「総司!てんめぇ~~」
「どうしました?原田さん」
どどど、と駆けてくる足音と共に原田が駆け込んできた。一番隊の隊部屋ではちょうど皆で茶を飲んでいたところである。
「手前ぇ!おまさによけーなこと言いやがって!」
「は?」
「とぼけんな!お前、俺がこの前屯所に置くために新しい春画本買ったのをばらしやがって!おまさにこってり嫌味言われたじゃねぇかよ」
ずずっと茶をすすった総司は、ああ、と呟いた。
確かに、この前、皆で飲みに出かけた後、酔っぱらった原田を家まで送り届けた際に、うっかりとそんなことを言ってしまった気がする。
家から出勤してきたばかりの原田は怒り狂っていたが、総司はけろりとして答えた。
「そのくらいいいじゃないですか。だいたい本当の事なんだし」
「本当の事だろうが、なんだろうがそんなことは言わないのが男同士ってもんだろうが!」
「そんなこと言われたって知りませんよ。原田さんちの家庭問題じゃありませんか」
確かに、そうではあるが総司の一言がなければ昨夜も楽しい語らいになるはずだったが、一転してしばらくは閨も別にしたいと言われる始末だ。平謝りをして何とか許してもらったのは朝方近くである。
仁王立ちになった原田の怒りの形相は鬼気迫るものがあり、結局朝餉ももらえずに出てきた空腹も相まって、総司憎しという状態だった。
「お前~!覚えてろよ!」
どすどすと足音も高く、一番隊の隊部屋から出て行った原田は、賄いに朝餉を掛け合うために向かった。
その姿を見送った総司は隊士達と一緒にけらけらと笑った。
「全く原田さんときたら、仕方ないですねぇ。私に文句を言う前にそもそも買わなきゃいいじゃないですか」
「いやぁ。そこは沖田先生、うっかり買ってしまうのが男ってもんですよ。しかも原田隊長の隊は、組長がお好きだから皆も買ってきますしね」
「困ったもんですねぇ」
はっはっは、と朗らかな笑いに包まれたが、この日はこれだけでは済まなかった。
「沖田さん」
「あ、斉藤さん」
渋面の斉藤に廊下で声をかけられた総司はくるっと振り返った。外出から戻ったばかりの斉藤は何やら屈託があるらしく、いつもは嫌いだという総司に自分から丁寧に話しかけている。
「雪弥からなにやらよくわからん文が来て、問いただしたんだが……」
「あっ!雪弥さん、お元気ですか?」
にこにこにこ。
満面の笑顔で答えた総司に、ひくっと斉藤のこめかみが震えた。
「何やら面妖な話でな。俺はひとっこともそんなことを言った覚えはないんだが、なぜか俺が雪弥に会っていないから寂しがっているという話を聞いたという。しかも、なぜかアンタからな」
「それについてはですね。先日、偶然町で雪弥さんにお目にかかったんですよ。斉藤さんは元気かと尋ねられましたので、ちょうど斉藤さんが雪弥さんに随分会っていないっていってましたよって……」
ひくくっ。斉藤の頬がひきつって、妖気漂うという風情になる。
「何かまずかったですか?」
その話を聞いた雪弥が浮かれて、斉藤に文をだし、不審に思った斉藤が出向いたところで、雪弥の旦那が登場し、あわやの修羅場である。
誤解だということを何とか説明し、雪弥と旦那の仲を仲裁し、疲れ切って帰ってきたのだ。
―― 何がまずかっただ!まずいに決まってるだろうが!!
「以後、一切俺に関することを口にするのはやめにしてもらいたい!!」
「やだなぁ。あながち嘘でもないのに、そんなに怒らなくても」
ぽりぽりと頬を掻いて、全く悪気のない総司に、くるっと背を向けた斉藤は、震える拳を握りしめるのが精一杯で、私闘を禁止されていることをひどく悔やんだ。
ひょこひょこと幹部棟の廊下を歩いていた総司は、ちょうど副長室から出てきた永倉と藤堂に出くわした。
二人とも総司の顔を見た瞬間から、眉間に皺が寄っている。
「ちょっと~、総司!土方さんに言うなんてひどいよ」
「全くだ。お前、なんだよ」
「ちょ、ちょっと何の話ですか?」
ぎりぎりと詰め寄られた総司は慌てて、諸手をあげながら後ろに下がった。
先日、原田を家に送った酒席は隊士達も何人か参加していた。その際、一人、いつもからかいの種になる隊士がいて、その時も永倉や藤堂にさんざんにからかわれ、最後は下帯一つで芸を披露する羽目になっていた。
それを、総司が話のタネとばかりに土方に面白おかしく聞かせたのだった。
「もう!土方さんにがっちり絞られたじゃん!」
「おう!おかげで懲罰食らっちまっただろ!」
二人そろって、二日の謹慎である。といっても、幹部としての面目がないといって、伍長に仕事を引き継いだら幹部棟の小部屋でそれぞれ、密かに謹慎ということで、隊士達には特命で外出したことにしておくらしい。
「あれ?そんなことになっちゃったんですか?」
土方さんも真面目だからなぁと呟いた総司に藤堂と永倉がそろって叫んだ。
「「総司!!」」
「あ、はは。すいません……」
苦笑いを浮かべてへらへらと笑う総司には全く、反省の色が見えずに永倉も藤堂も怒るだけ無駄な気がして、どっと空しさに肩を落とした。
数日後。
合同稽古の後、井戸端で汗を流していた総司の背後で、たまたま顔を合わせた斉藤達が、むっとした顔で総司の後姿を見ていた。
「最近……。俺、時々無性に総司をいじめたくなるんだよね」
ぼそりと呟いた藤堂に、ちらっと視線を向けた原田や永倉が黙って頷いた。
一番離れたところにいた斉藤が、珍しくきりりと顔を向けて間に割って入った。
「奇遇だな。俺もだ」
悪気ななければ何をしてもよいわけではない。
総司は身に染みてそれを知ることになる。