櫻 2

〜はじめのつぶやき〜
とはいえ、最近お話を書く時間もなかったから、すっかり腕が落ちたと思うんですよ。
大丈夫かなぁ(汗

BGM:環-cycle-
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「……あなた方が、誰なのか知らないわけじゃありません。どうしてこんなことになったのかも」

斬られたときに散った血の跡をその顔から手拭いで拭う。
乾きかけたその跡はなかなか消えず、女は何度も顔を拭った。

「……でも」

ぎゅっと手拭いを握りしめた女は懐に手を入れて、傍に立っていた藤堂に貝を叩きつけた。

「どんな正義があっても!……誰が許しても!私は……、私だけは許さない!」
「……うん。それは、仕方ないよね」
「……斬らなくても」

道はあったはずなのに。

声に出さなかった女の言葉を藤堂は正確に聞き取り、そして、黙って血曇りの刀を振るって鞘に納めた。

「嫌かもしれないけど、一緒に行こう。家まで送るし、家がないなら……。だめだっ!」

ほんの一瞬、顔を拭っていた手拭いが男の欠けた刀を握った。

そのまま女は首に刀をあてた。

「……」

そんな。

むごい。

セイは黙って目を閉じた。何も言う言葉がないのは、男を斬った藤堂は間違っていないからだ。隊士として、やるべき仕事をしたまでだ。
そのことでどれほど責められようと、どれほど詰られようと、胸を痛めるようなことはないはずなのに。

藤堂は、その娘らしい横顔にいつかの娘をみた。

投げつけられた貝を拾って、隊士たちが武器のほかに男と、女の始末をしたのを見届けて、土方に報告した藤堂の様子を見て、土方が連れ出したのだ。

決して、口には出さない藤堂の痛みを察したのだろう。

「気にするあいつが馬鹿なんだ」

土方の盃だけは藤堂と一緒に飲んでいたから酒が入っている。うまくもないと思いながら土方は酒をあおった。

「斬ったやつのことなどその場で忘れればいいんだ。それをあいつは……」
「……そうですねぇ。私ならそうですが、藤堂さんは優しいですから」

それを気にする、土方も。
そして原田と永倉も同じだろうとはあえて言わない。
総司はセイの手に渡した盃に白鳥を寄せた。

水だと知りながら飲み干したセイにさらに注ぐ。

「ちっ……。総司、後はその小僧の面倒は任せたぞ。よく聞かせておけ。俺も明日の朝には屯所に戻る」

盃を置いて立ち上がった土方は、羽織を肩から掛けて座敷から出ていく。ついでのように、あいつらもお前も、と付け加えたのも土方らしい。一晩飲み明かして憂さを晴らせということのようだ。

セイは、その場に膝をついて土方が去っていくのを見送った。

今日は何もないと思っていたセイは、通りすがりに他行しようとする総司に連れられて、ここに来たということは、何の言い訳にもならない。

「……すみません」

ただ、飲みたいのだと思って、この座を手伝っていたセイはいつものように、酔っぱらう彼らをぞんざいにあしらっていた。

俯いたセイの頭を、総司はふわぁっと笑みを浮かべて軽く撫でた。そして、畳の上を這って、土方が座っていた座布団の下に手を入れる。

「……沖田先生?」
「ほら……、あった」

懐紙に包まれた一両小判を取り出した総司に、セイは目を丸くした。

「一番優しいのは、土方さんかもしれません。貴方にも本当は教えたくなかったんだと思いますよ。だから、飲んでいる間も、何も言わなかったでしょう」

総司は、座敷の始末をと立ち上がる。この座敷の始末に、土方の小判は多すぎだ。
懐紙ごと懐にしまって、自分の紙入れから支払いを済ませる。

その間、セイはそういえばと今日、この店に来てからのことを思い返す。
酒を頼むのは原田が、その後、藤堂を潰すまで飲ませて。セイはただ総司の後ろに追いやられて、何も食べずに飲んでいた彼らの分、料理を楽しんでいた。

「神谷さん。今日は、私に付き合ってくれますか?」
「あ、はい」

素直に頷いたセイは、僅かに微笑んだ総司について、店を変える。
小さな店でセイが総司に連れられて足を運ぶ店の前についたところでセイは足を止めた。