櫻 1
〜はじめのつぶやき〜
ちょっと前に、友人と話をしていまして、艶話についてあれこれ話すうちに、
気合いの入った艶話が読みたいとリクエストをいただきまして。
久々にがんばってみました。
BGM:環-cycle-
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酒豪が多い、というよりも、隊の中でも猛者の集まっているからもっともだというほうが正しいのか。
「うぉーい、酒!」
「はいはい。今頼んできますよ。原田先生!脱がない!そこ!!」
たまたまが重なって、原田、永倉、藤堂、総司が土方も共に貸座敷で酒を飲んでいた。
「だぁから、土方さんってば」
「なんだよ」
「俺はねぇ?」
顔を真っ赤にした藤堂が土方に酒を注ぎながらその膝を叩く。
「別にぃ、一番の子はおゆうちゃんがいればいいんですよぉ。でも」
ぱた。
ぱたぱたと涙がこぼれた。
酒を運んできたセイは、部屋の前で思わず足を止める。
「なぁんででしょうねぇ。ただ……。誰かを……あっためてあげたいなぁって……」
「……馬鹿が」
そういって、土方はぐいっと酒を飲み干す。
そして、手元に残っていた酒を藤堂の杯に注いだ。
「いいから飲め。飲んで、妓に抱いてもらってこい」
「ちょっ……!副長!」
部屋に入りかけだったセイが眉間にしわを寄せて土方に詰め寄ろうとしたその手を原田が掴む。
「神谷。酒」
「でもっ」
「酒だ」
低く、響く声にセイは遮られて文句を言おうと、足元を見た瞬間、ぎくりとその手を止めた。
酒に酔っていたはずの原田も、永倉も目だけがセイを捕らえて、盃を差し出している。
その眼が、セイの足をその場に縫い留める。
「……あ」
躊躇ったセイの手に手が重なった。
おおぶりの白鳥を手にしたセイの手ごと、傾けて原田と永倉の盃に酒を注ぐ。
はっと、手の主を振り返ったセイの傍で、総司の顔も思いのほか冷たい。
同じ部屋の中だというのに、流れるものが違うかのようにただ静かで、表の喧騒だけが響いてくる。
「お前はただ、寒いだけだ」
「そう……なのかなぁ……。ねぇ、土方さん」
呂律の回らない口でそう呟いた藤堂はそのままずるずるっと、土方の膝の上に倒れこむように眠り込んでしまった。
「……ちっ」
土方の舌打ちに眉をひそめたセイよりも先に原田が膝に手を置いて立ち上がった。
「……すんません。土方さん」
「いや。いいさ」
藤堂の腕を掴んで原田は藤堂を担ぎ上げる。
もう片方の手を永倉が無造作に肩に回す。
「土方さん、俺ら、こいつを連れて行きますわ」
「お先っす」
とうどうを抱えた二人が座敷を出ていくのを待って、総司はセイをその場所に座らせた。
今日は、たまたまこんな顔ぶれが集まったのだと思っていたセイは、目を伏せた総司に盃を持たされて初めて気づく。
「……え?」
「酒は……、藤堂さんのものだけです」
「どうして……」
座敷に上がる時は、大刀は店に預けるものだ。だから、総司もセイも、土方さえこの場に大刀は持ちこんではいない。
ふいに総司は懐に手を差し入れた。
セイの膝の上に、ちゃり、と音をさせた何かをぽとりと落とす。
小さな白い貝殻の合わせ貝だろうか。小さな穴をあけたそこに糸が通されて、二つ合わさるようになっていた。
「それは、今日藤堂さんが斬った男の……、相手の方が藤堂さんに投げつけた物です」
「!」
きっと、相手の女人は若いのだろう。朱色の紐に、わずかに残る香りは若々しい娘の好むものだ。
「え……、どうして……」
つい口からそんな言葉が飛び出してしまう。
思えば今日の巡察は藤堂の隊だった。捕り物があったこともそういえばと思いだす。だが、それほど大騒ぎにならず、たんたんと報告だけだったはずだ。
「斬った相手は、武士でしたから」
よその藩士を斬ったわけではないだろうから、不逞浪士なのだろうと察しはついたが、それがどうして相方まで、と思う。
「斬った相手は浪士でしたが、その人はただ、利用されていることはわかっていました。だから、なるべくその人は見逃そうとおもっていたんですが」
相方の女人を質にとられた男は、密かに武器を集めてさびれた社に運び込んだ。
浪士たちの手に渡る前に、踏み込んだ藤堂と斬りあいになって、男は果てた。浪士たちは男を見捨てて去り、相方の女人は男の亡骸を前にして膝をついた。