風は今も吹いているか 4

急ぎます、急ぎます(汗

だいぶ急いでますので、言葉足らずになったらどうしようという焦りと共に、それでも急ぎます~!
(ってこれはあとで加筆修正の可能性・・・・)

BGM:From now on
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一日が穏やかに流れていく。
世上の流れの早さを知ればなおさらにその流れは淵のようだ。瀬を流れた水がゆるやかで、深く、川に住まう者たちの一時の休息を得るための。

少しずつ日を重ね、桜の花と共に総司の体は残っていた生気を呼び覚ましたのかと思うくらいに体調は良くなっていた。

「ごほっ、ごほっ」
「先生っ?!」
「……あ゛……、ふう。大丈夫ですよ。こうして咳をするのも、体の中から悪いものを吐き出していると思えば、って言ったのはあなたじゃないですか」

咳を抑え込もうと、無理に息を止めようとした総司に、セイは確かにそういった。もう付き合いが長くなってきたのだから、総司の体なら悪いものを早く追い出そうとしているのかもしれないと。

喀血がおさまっていることもあって、そうした動きになってきたのではないかと。

願いも込められたその言葉に総司はいつものように笑った。

「貴方らしいですよねぇ」
「だって……、本当にこのところ、具合も落ち着いてきたし」

今頃、近藤たちはどのあたりにいるのか。

昔語りと今語りを行きつ戻りつする日々である。

「それにしても、甲州であと一足先についていれば今頃、局……隊長は甲府城にお入りになっていましたよね。そうしたら今はずんと違っていたかもしれないですよねぇ」
「……そうですねぇ。でも、そうなれば後から来た東征軍と思い切りぶつかっていたのか……結果的にはかわらなかったかもしれません」
「そうでしょうか?近……、ああもう、まだ慣れなくてすみません!大久保隊長と内藤副長なら戦わずに事を収められたかもしれませんよ?」

今でも改名した名よりも親しんだ近藤や土方の名が口をついて出てしまう。

誰が聞いているわけでもないが、言い換えたセイはどこかでまるで自分の事のように誇らしげな様子で胸を張った。

「……やはり、あなたは女子でもあるんですねぇ」
「なっ!どういう意味ですか!私は武士です!」
「ええ。武士であるのと同時に女子でもあるのだなぁって思ったんですよ」

決して否定するのではなく、ただそこにあるがままのものを口にした。
そんな総司に目を剥いていたセイも、怪訝そうな顔で首を傾げる。

「先生?」
「……はなから戦を望む女子はいないでしょう?」
「女子だって、いざとなれば戦いますよ!」
「それは……。そうじゃなくて、武士は、剣をもって戦います。強さと己の志と誇りと、何より主君のために」

剣の腕を磨き、剣を持たなくとも、志をもとに仕えるべき主と共に生きる。
それが武士道だが、女子は武家の者であっても庶民であっても、親に仕え、夫に仕え家を守る。

「隊長だって副長だって、人を斬りたくて戦っていらっしゃるわけじゃありません!大樹公が恭順を望まれているとわかっていらっしゃるのにむやみに戦をされるとは思わないだけです!」
「そうですね……。貴方が正しいのかもしれません……」

ただそれだけを言って、総司はそのまま口を噤んでしまった。
だからこそ、セイはまるで自分のほうが間違っているかのような気になって、ひどく居心地が悪い気がした。

セイには士道は理解できていても、武家の何たるかを生来、身に染みていたとしてもどうしても理解しきれていない部分がある。

それが、総司や、近藤たちが誇りのために命をかけられること。それに尽きるのかもしれない。

そうでなくてなぜ、今慶喜が恭順を頑なまでに願っている今、誠の武士として刀を握ろうというのか。
もし今、浮之助が己のためにかけられる命を嘆いていたかを彼らが知っていれば、少しは流れが変わっていたかもしれない。

それを知る者はどれだけいただろうか。

旧幕府軍の中でも、突き進んできた武士としての道から後戻りすることもできず、誰もがもがいた。

「……桜、もうすぐ散りますねぇ」

ぽつりと総司はつぶやいた。

潔しとする武士において、今の自分はどうなのだろうと何度も自問自答する。
そして何度もセイに引き戻される。

主のためならどんなことでもできるのではないかと。

だが、満開の桜を見ているとどうしても思ってしまう。

「……私は、いつまで武士として生きられるでしょうか」
「いつまでもです!」

少し離れて傍にいたセイは、ぐっと喉の奥にこみあげたものを力づくで抑え込んで総司の傍ににじり寄った。

「先生は私が主と心に定めた方ですから!先生はどこまでも武士です!!」

もし。
もしもの時はその志を受け継いで武士として生きること。

それはとうの昔に定められたことのようにセイの胸の中にある。

「だから沖田総司という方はどこまでも武士です!」
「……貴方って人は……」

涙目であることは隠せはしないが、どうしても何度でも繰り返すのだ。

自分たちが生きたこと。生きた時代がどう変わっていくとしても、武士が長い時間をかけて戦いの上に築いた安寧の時間があったことは、確かなのだから。

「ですから、一日も早く隊長たちのところに向かいましょう。まだまだすべきことはあるのですから」
「ええ。そうですね。神谷さん」
「はい。沖田先生」

思い出語りは人の心のように、行きつ戻りつしてまっすぐに進むことは難しい。
それでも見つめ合って、微笑み合った総司とセイの間には一つ確かに武士としての絆がある。そして、人の面が一つではないのと同じように、確かにそこにあるのは……。

ただ。
今は。
同じ時間を過ごしてきたことが愛おしい。
同じ時間を過ごせることが愛おしい。

話疲れたのか、目を閉じて、眠りに落ちたらしい総司の傍に座ったセイは、そっと布団をなおして立ち上がった。

—続く