風は今も吹いているか 7

梅雨だ、雨が降る、と言われていますが、現在近くでは低温サウナのような・・・・。

う~、暑いですねぇ。
マスクの中で蒸れるからか、ぶつぶつができ始めて困っています。これ、どうしたらいいんだろう。
保湿すればいいのか?
これからもっと熱くなると思ったら、冷感マスクよりも内側にぬらしたガーゼとかがいいのかなぁなどと考えております。
もう少しで最終話に手が届く!!1話が短くて申し訳ないですが、もう少しお付き合いください

BGM:From now on
– + – + – + – + – + – + – + – + – + –

トキに手伝ってもらって姿を改めている間、セイはどうにも納得しかねていた。

「まことに……、このような真似で少しでも沖田先生のためになるのでしょうか」
「神谷さまも医者として過ごされてきたならばよくお分かりでございましょう?病を得ても、思いのほかに永らえることがあることを」
「それは……」
「私、旦那様に伺いましたの。この病をもってしても生き永らえていらっしゃる方もおいでとのこと。それはすなわち、何より強いお気持ちがそうさせているのではないでしょうか」

それが土方だとは言わず、松本がそう伝えたのだろう。

「殿方においては何よりも譲れないものがございます。女子にも、同じようにあるのですわ。それをどうかなかったことにはなさらないでくださいませ」
「……私は武士です。女子のものなど……」

いつものようにその在り様を否定したセイに、トキは静かに首を振った。

「私は、このお腹のややこのために、何があっても生きて、松本の家を守るつもりですよ。子供たちのためにも、旦那様のためにも。旦那様がお戻りになる日まで確かに、トキは旦那様の代わりに守ってまいりましたと、胸を張ってこたえられるように」

それもまた、心は武士だと口にしそうになって、セイは口を噤んだ。

「これもまた、夢のひと時でもよいではありませんか。心安らぐ時が、沖田様に力を与えるならば……」
「夢と……、夢と思ってくださいますでしょうか」
「まあ!当たり前でございましょう?」

そうでなければ、どうしてここまで共に戦ってこれたというのか。
そばに近ければ近いほど、これほどわかりやすいものが見えなくなるのかと思いながら、髪結いが丸髷に整えるのを眺めた。

―― どうぞ、神様。一日でも長く、穏やかに過ごすことができますように……

胸の内にただそれだけを願ってトキは支度を済ませた。

「本当に白粉を塗って化粧をしたらすこぶるきれいな娘さんだと思うんですけどねぇ?」
「先生?!本当に殴りますよ?」
「だ、だって!ほら、いつぞやの!お見合いの時に現れた時のあなたといったら!」
「あー……。そういやそんなこともありましたね」

昼の牛乳粥を給仕しながら、セイは自分のためにも総司のよそったものと同じだけをよそう。
それを見た総司は、ゆっくりとだが確実に匙をすすめる。

「今もかわりませんよ。神谷さんは」
「そうですか?どうせ日に焼けて真っ黒になった以外は、とかおっしゃるんでしょう?」
「いや、一層男前になったことぐらいで……」

むぅ~、っと頬を膨らませたセイににらまれたがそれもいつものことである。

そんな言い合いをしながらも、総司は美味いといって牛乳粥を平らげて、苦い薬をも飲んだ。
その様子を見て、内藤が来た日の喀血は、久しぶりに暴れたからと見た。

総司に断りをいれて、町にでたセイはそれでも一番初めに白粉を探しに店を訪ねた。

急を知る。

たまたま総司にいわれ、白粉と紅を買い求めに来た。
それさえなければまだ知ることもなかったかもしれない。

それでも、何かに導かれたとしか言いようがない状況で、セイは大久保の、いや近藤の行く末を知ることになる。

通りすがりの声をきいて、いてもたってもたまらず店を飛び出して瓦版を見せてもらった。

「えっ!おい、アンタ!」
「大丈夫かい?!」

その声も遠く、ただセイの頭の中では穏やかに笑う近藤の顔が思い浮かんだ。

兄とも父とも慕う近藤と総司が、あきれ顔の土方の前で、笑い合う姿。

―― どうして!?確かに今は新政府とは逆の立場だとしても、斬首以外の道はなかったというの?!

暗闇の中で総司の声が聞こえた。

『何が正しくて何が過ちか後の世に問うしか手のない事でしょう。いつかこの世が先生を裁くなら私も共に裁かれるまで』

―― 先生に……沖田先生に知られるわけにはいかない

「……―-」
「気が付いたかい?」
「私……」

悪い夢であってほしい。

そう思ったが、目を開けても現実は変わらなかった。枕元にはセイが見せてくれと握りしめたままだった瓦版がある。

「帰らなければ……」
「まだ顔が真っ青だよ。無理せずもうしばらく寝ておいでなさい」

青い顔をしていたとしても、何としても帰らなければならない。
顔をごまかすには、と自分がどこにいたのかを思い出す。

「駕籠を呼んで頂けますか?それからあつかましいお願いなのですが……」

自分ではやり切れる自信がなかったから、似合う白粉と紅を選んでほしいというお願いで、セイは店の者に化粧を頼んだ。

二つ返事で受けてくれた店の女将が丁寧に化粧を施してくれる。

「若いご新造さんには恐ろしい話だったんでしょう?あんなむごい……」
「……ええ。恐ろしい……」
「新選組っていえば京の都でも活躍なさった方々じゃありませんか。その一番偉い方を見せしめにしたってひどい話じゃありませんか」

上の空で女将の話を聞きながら、セイは細く長く息を吸い込んだ。
総司に気取られないように。

寝付いているからと言って総司の勘の良さまでなまっているわけではない。
ごく普通に。

―― そうだ。甘いものを買うといったのだった

近くの店を思い浮かべて駕籠に乗ってから途中で止めて待ってもらおう。
そうして、何事もなかったように帰ろう。

帰りが遅くなれば、それもまた総司に心配をかけてしまう。

急ぎ、化粧を済ませ、店の女将に礼をいって駕籠に乗ったセイは、千駄ヶ谷の仮住まいへと戻っていった。

— 続く