悪童達の双六遊び 2

〜はじめの一言〜
拍手お礼文より。大人げないなぁ。先生ったら。

BGM:
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「まずは考試からじゃありません?」

端のほうへ考試、と書かれてそこから線が描かれる。
入隊時の考試ではぎりぎりだったのは松原で、早速、そこには総司に稽古をつけてもらう、が加わる。

「お前、今でも稽古のときはひーひー言ってるだろうが」
「うるせぇ!」

揶揄する声に続き、笑い声が広がる。じゃあ、次は、と隊士たちが次々とお題を埋めていく。

「この一回休みはあれだな。神谷、お前が決めろよ」
「えー?!じゃあ……、うーん。甘味めぐり?」

どっと笑い声が上がって、セイが何かおかしなことを言ったかと、顔を赤くして周りを見ると、総司まで笑いすぎて涙を浮かべている。

「沖田先生まで!!」
「あっはっは。すみません。じゃあ、ここは神谷さんと私と甘味めぐりに行く、にしましょうよ」

双六の上に、二人の名前が書かれるというだけで、ぼっと赤くなったせいにますます周りから笑い声が上がった。

しばらくして、最後は、全員で幕臣になる、であがりとなった双六の最後まで書き上げると、皆が満足そうにそれを眺めている。

「これ……」

ぽつりとセイがつぶやいて、ざわざわとにぎやかだった隊部屋が少しだけ静かになった。

「ここまで書いたんだから、やってみたいかも……」

「……」
「……」
「……まあ、実際には何をどこまでするかは日を改めるところも出てくるかもしれないけどな」

なんだかんだ言っても皆、退屈していたのだ。これが出来上がってしまえば、はい、それで終いでは面白くない。
にやりと笑ったもの達は、それぞれ一分ずつ握って、脱落するごとにその金は没収、初めに幕臣にたどり着いた者が総取りすることになった。

ただでさえ、面白いことが好きなうえに、金がかかれば皆目の色が違う。ぎらぎらとした獲物を前にした彼らが誰かが持ち出した双六を手に一斉に騒ぎ始めた。

「は~い。神谷さん、じゃあここでも甘味めぐりですね」
「お、沖田先生、つぇぇ」

へらへらと皆の状況をつける紙に各自の罠に落ちたやるべきことに書き加えていく。
負けず嫌いという性格が出るのか、こういうところにも剣術の強さが反映されるのか、ほとんどいつもの腕の強さに比例した順になっていた。

「おわっ!!!副長室の掃除って誰だ!そんなの仕込んだ奴!」
「お前も盛り上がってただろ!」

ぎゃいのぎゃいのと大騒ぎになった一番隊の隊部屋は、周りの隊の隊士達も何事かと覗きだす。次々と出る目によって、悲鳴が上がり、罰のある升目にはまった隊士がごろごろと部屋の中を転がっていく。

「皆さん、意外と弱いですねぇ」
「……沖田先生だけずるい」

すっかり向きになったセイが、いらいらと手の中にどんどん溜まっていくお題の紙を握りしめていた。当然のように、その順位は負けず嫌いの順位でもある。普通の双六なら一回休み、とかそんなものだが、これは大人の遊びである。
落ちてしまった罰の数々は後で必ず実践することとして、紙切れにそれぞれ記したものを手渡されているのだ。

ある者は、稽古をつける、が三枚も溜まり、真っ青になり、ある者は副長室の掃除に青ざめていた。

「ほらほら。皆さん、まだ最後の幕臣までたどり着いていませんよ」
「もう沖田先生が総取り目前のくせに何をおっしゃってるんですか?!」

むきになったセイに、にやりと笑った総司が次は誰です~、と気楽な声を上げる。次の順番である、山口が賽子を振ると出た目をみて悲鳴が上がる。

他の隊の者たちが何事かと驚くほど盛り上がった一番隊の大双六大会は、結局総司の一人勝ちといえるほどの独走でけりがついた。後の者たちは、罰の数 で順位を決めるくらいでそこそこ、悪くなかったはずのセイも、稽古と、甘味めぐりや使いっぱしりなど、いくつかの罰を抱えてしまった。

「う~~。沖田先生は何もないんですか?!」
「ありますよぅ」

ほら、と言って皆に見せたのは、一番隊の部屋の掃除と、全員の稽古着を洗う、そして、土方に稽古をつけてもらう、だった。それをみたセイが不満を口にする。

「先生のそれ、罰になってないじゃないですか!ずるい」

初めの二つは結局、一番隊総出で、全員がやる羽目になるだろうし、最後の一つは総司にとってもおいしい話だろう。
負けたのがよほど悔しいのか、むぅっとした顔にセイに、しょうがないですねぇ、と総司は言うと、セイの手の中から一枚を抜き出した。

「じゃあ、これを私がもらってあげます。それでいいでしょう?」

勝ったことで満足したのか、セイの罰の一つを引き抜いた総司だったが、よく見ないようでよく見ている。その一枚はセイが引いた中でも一番まずいもの、隊士達の使う湯殿の掃除というものだった。

月以内にすべての罰をこなすこと、という取り決めで隊士達は皆、散らばっていった。
残された双六と書付をしまいながらセイは、ちらりと総司を見る。セイの手にたくさんある甘味巡りの数枚を一人でするのかと思うと、一人ではどうにも寂しいし、それだけ一人で回ってもと思う。

その視線に負けたのか、くすっと総司が笑って、セイの肩にそっと肩を寄せた。

「じゃあ、神谷さん。このお金であなたの三回分の甘味処に行く、のお伴しましょうか」

密かに囁いてきた総司に、セイがいいんですか?!と思わず叫んだ。

「しぃ!皆さんにももちろんお土産を買ってきますけどね。その罰、今月中ですから」

ひょいっとセイの手をつつくと、総司はかけた金を大事そうにしまいこんだ。俄然、嬉しくなったセイはにこにこと仕事を片付け始める。
部屋の隅のほうでは、ひそひそと隊士たちが囁き合っていた。

「なあ、俺達って」
「報われないよなぁ」

「「はぁ~~~~」」

 

– 終わり –