湯気の向こうに おまけ-アカの向こうに (笑

〜はじめのひとこと〜
続編!!すみません、ほんとにもう。。

BGM:
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異様な光景。
まさにその一言に尽きる。

隊士棟の奥にある風呂場は、土方が僧坊の風呂桶を拝借して作らせたものから、大きめな風呂桶になり、数も増えている。一つの風呂桶に、大の男でも三人は入れるし、風呂桶の周りには床几が置かれており、ゆったりと風呂に入れるようになっていた。

そこに、今日は幹部と参加した隊士達がずらりと並んでいる。

もとはといえば、斉藤がセイに一緒に風呂に入ろうと誘ったことを聞きつけた一番隊の隊士達が三番隊の隊士の代わりに背中を流すといいだしたのがきっかけだった。
そこに三番隊の隊士たちが現れて、言い合いになった結果、幹部達の背中を流しあってどの隊が一番かを競うことにまで発展してしまった。

あまりに馬鹿馬鹿しい話に土方は即、却下を言い渡そうとしたが近藤がそれを止めた。

「いいじゃないか。面白そうだ。暑い日が続くしなぁ。そのくらいの遊びがあってもいいだろう」

まさに鶴の一声で近藤と土方のほか、巡察以外で参加できる幹部は参加することになった。
土方にとって、幸いなことは伊東がたまたま不在だということだろう。

端から、近藤、土方、そして総司と斉藤、永倉と原田、藤堂と井上といういつもの顔ぶれが並んだ。
浴衣を脱いでそれぞれが湯船につかるとこちらも浴衣の上を脱ぎ、尻っぱしょりになった隊士達がまずはそれぞれ自分の隊の組長についた。
近藤や土方には一番隊と三番隊がそれぞれつく。これは公正にくじで決められている。

仕切り役に付いたのはセイがついた。セイだけは、普段通りの姿で股立ちを取っている。

「えーとでは、まずは皆様先に湯に入ってください。十数えたら、それぞれ背中を流していきます。はじめっ!」

それぞれ流し役の一番手が皆の浴衣を受け取り、それぞれが手拭を手に湯に入った。

「いや~、こんな昼間っから湯に入ってお前らに背中流してもらうなんざ、いいもんだねぇ」

呑気に原田が声を上げると近藤が笑いながら頷いた。

「そうだなぁ。俺も誰かに背中を流してもらうなんて、総司にやってもらって以来じゃないかな?」
「よく言うぜ、近藤さん。お考にもやらせてんだろうが」
「そういうお前こそ、花街であちこちの妓達にやってもらってるだろう?」

近藤と土方のやり取りに皆が笑い出す。原田がそこに茶々を入れた。

「俺はおまさにそんなことやらせてねえぞ」
「おまさちゃんには、だろうが」

永倉が原田の頭を小突いて、風呂から上半身を表にだした。すかさず二番隊の隊士が永倉の背後に回った。

「永倉先生、いきますぜ~!!」
「おー。頼む」

それに倣って、次々と隊士達が幹部たちの背に回った。次々と手拭を浸して、背を流し始める。
井上だけが、風呂から出て風呂用の小椅子に腰を下ろした。

「なんじゃ、皆、湯が汚れるだろうが」

ほかの者たちも、そうか、と湯から上がり始める。腕自慢の者たちが次々と、幹部たちの背中を流し始めた。
初めは皆、気持ちよ下げに過ごしていた。山口が総司に向かって問いかけた。

「どうですか?沖田先生!」
「ええ、なかなかいいですねぇ」
「ほおら、三番隊の連中には負けませんよ」

にやりと斉藤の背中を流す三番隊の隊士を山口が馬鹿にした顔で笑った。むかっとした三番隊の隊士達が山口を押しのける。

「じゃあ!お前は永倉先生のところな!!沖田先生!俺達だって負けませんから!」

そういうと、総司の背中を目いっぱい擦りはじめた。困った顔で総司が曖昧に頷くと、山口が永倉のところに回り順繰りに擦り手がずれて行った。

「む、お前ら、もうちょっと。おい、加減しろよ」
「なんすか副長!女みたいにキメの細かい肌してますねぇ」
「う、うるせぇ!!いいからやるなら、気合入れてやれ!」
「おいっす!」

それが二順目になると、誰の背中も真っ赤になり始める。近藤がうっすら涙目になって、おずおずと口を開いた。

「その、背中はもういいんじゃない、かな?」
「おっ、局長。背中以外もっすか?承知ィ!!」

肩から腕、肩から胸にかけて擦りはじめると、ほかの者たちも負けじと一斉に、背中から腕や肩にまで手拭を動かし始めた。

「いや、あの。うん……ありがとう」
「とんでもないっすよ。やつらよりも俺の方が、五番隊の方がうまいっすよね?!」
「あ、いや、皆、その、よくやってくれてるよ」

近藤の助けを求める視線に皆がすぅっと目を逸らした。一番手に音を上げたのは井上だった。

「わ、わしはもう……だいぶ擦られすぎて背中が痛いわぃ」

井上の言葉にほかの者達も一斉に同意しかけた。しかし、それは擦り手によって封じ込められる。

「藤堂先生の背中って気持ちいいですねぇ~。うふふ。うっとり~」

ぞわわわっ。

「あ、あのっ、もしかして君、そういうヒト?」
「んふっ、藤堂センセっ。嬉しいです~お近づきになれて」
「わああああ、それは駄目っ。俺、女の子が好きだから!!」

一方では、こんなやり取りも行われている。山口が真っ赤になった斉藤の背中をこれでもかと力任せに擦り立てる。

「斉藤先生?!お背中に吹き出物なんて見当たらないくらい、格好いいですねぇ!!」
「あ、うむ。その、風呂桶が壊れている間に治ったのかもしれんな」
「そーーーお、ですかっ。じゃあ、もっと気合入れますね!!」

がっしがっしと音がしそうなくらいの勢いで山口は斉藤の背中だけでなく、肩や腕も擦りだす。

「……うっ」
「遠慮しないでくださいねっ」

そんな光景があちこちで広がって、セイが手を挙げた。

「垢すり大会終了~!!発表は明日の朝礼で!」

その声をきいてほっとしたのは、背中を擦られる方の幹部達だった。満足げに去っていく隊士達とは裏腹に、背中を腫らした幹部達は、そのあとの湯に入ることさえできず、小者達の手によって、水で薄められた温い湯と、軟膏を塗られる羽目になった。

 

「やっぱり俺達って、腕が立つよな!」
「おうよ!伊達に新選組の看板背負ってないよな」

見事に意気投合した擦り隊の隊士達はその夜仲良く酒を飲みに出て行った。その姿を見送った原田がうつぶせに横になったままつぶやく。

「……なんでこんな羽目になったんだっけ……?」

 

– 終わり –