風天の嵐 10

〜はじめのつぶやき〜
どんな屋敷なんでしょうね

BGM:土屋アンナ Voice of butterfly
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難しい顔をした斉藤が口を開いた。

「すぐに探索に出ましょう。うちの隊はもともと今日は非番でしたから。沖田さん。一番隊は、巡察があったはずだが寝てなどいられんだろう。すぐに起こして、うちの者達と一緒に俺がつれていってもいいが?」

―― あんたは組下の者の面倒を見ている暇などないだろう?

総司の様子から先手を打った斉藤の言葉に総司は視線をさまよわせたまま答えなかった。代わりに土方がそれに頷く。

「……」
「そうだな。斉藤。頼めるか?」
「承知」

頷いた斉藤がすぐさま部屋をでて一番隊の隊部屋へ向かった。
出て行った斉藤と入れ替わるように監察の者が藤堂と一緒に駆けつけてくる。土方はすぐに南部の家、お里の元へ二人組で隊士を向かわせた。総司が回って、セイがいないことはわかっていたが、何があるかわからない。
そのままそれぞれ念のために、待機させることにした。

「お前はすぐ山崎を呼んできてくれ」

残る隊士を市中へと走らせた土方は夜番だった隊以外をすべて起こすように指示を飛ばす。
永倉の二番隊は夜番をこなした後だけに、すぐの出番はない。
屯所の守りもあるために、表に出ることは敵わないながら、状況の説明と彼らへと指揮を伝えることならいくらでもできる。

「しかし、夜ってのが痛いな。昼間なら誰かが見ているってこともあるだろうに」

隊士達を走らせた後、永倉が頭に手を当てて苦い顔で思わず呟く。人通りが全くないというわけではないが、夜歩きするものが互いの顔などをしげしげと見るわけではない。
ふと思いついて永倉が土方に問いかけた。

「なあ、土方さん。総司が目当てじゃないとしたら駄目もとで、ほら、あの神谷が助けたっていう千野って女のところへ話を聞きにいくのはどうだ?」
「夜が明けてからだな。こんな時間だぞ」
「あ……。ちっくし…いや。そうか。総司、お前、家にいなくていいのか?もしかしたら神谷が戻ってくるかもしれねぇだろ」

そういわれて、しばらくそこで存在を消したように座り込んでいた総司は、静かに立ち上がった。

「……ません」
「何?」
「このまま、おとなしく待っているなんてできません」
「駄目だ。お前はここにいろ」
「嫌です!!」

刀を持って部屋を飛び出した総司をすんでのところで捕まえ損ねた土方はちっと舌打ちをした。すぐ永倉がその後を追いかける。隊部屋に立ち寄って刀を掴むと起き出していた隊士達には藤堂の指示に従うようにいい、全力で総司の後を追いかける。

走り出て行った総司の後を追いかけて永倉も全力で走った。門は開け放たれて、篝火が点されている。

「総司!!」

大分先に行ってしまった総司に追いついた永倉はその肩を掴んだ。互いに荒い息を吐いている。

「はぁ……、待てって。俺も一緒に探す。一人じゃ何かあった時に対応できねぇだろ」
「……すみません」

永倉の顔を見てから、ぎこちなく視線を落とした総司は、喉の奥を突き刺す冷気に深く息を吐き出した。
白々と明け始めた空を見上げる。

「大丈夫だ」

根拠があるわけではない。永倉にもそんなことは言い切れないとわかっている。だが、セイならばきっと、必ず笑顔で戻ってくるはずだ。そして、自分たちはそれを必ず取り戻すのだ。

「お前の嫁だろ?」

―― 信じろよ

ぐっと奥歯を噛み締めた総司は、刀の柄を握りしめた。

「……そうですね」

ぽん、と永倉の手が肩に置かれた。肩におかれる手が、今日は何度目になるだろう。
呼吸を整えた総司は永倉と共に歩き出した。

―― 絶対に、見つけ出しますから……。セイ……

 

セイを乗せた駕籠は、どこかの屋敷の内まで乗り付けてからぴたりと止まった。玄関らしき場所ではなく、奥座敷につながる中庭らしい。暗闇の中だけに、よくわからないが土の上に直に下ろされた感じがした。

「降りろ」

その声に駕籠が開けられて、セイは汚れた足袋のまま駕籠から地面へと降りた。無言で促す男達によって、目の前の廊下へと上がると、前後を囲まれて奥へと連れて行かれる。

入り組んだ廊下を歩いていくと、角を曲がったところでセイは思わず声をあげそうになった。

「……っ!」

廊下の両脇はすべて罪人を捕えるかのような座敷牢になっていた。柱には灯りが点されており、暗くはないが明るくもない。

「入れ」

その一つの前で男の一人が戸を開けると、セイはその男を睨みつけたが、何も言わずその中へと入った。そこには布団が用意されており、足元の方には明り取りの為のはめ殺しの小窓があった。
今は消えているが行燈の用意もあり、そこで過ごすように一通りの物は揃えられているようだった。

「今宵はひとまず休むがいい。寒くはないと思うが必要ならば火鉢を差し入れよう」

言うだけ言うと男達は戸口に錠をかけて立ち去って行った。

「もし……、もし」

近い場所からだとは思ったが、どこからか声が聞こえてセイに呼びかけてくる。
格子に近づいて辺りを見ると、他にも閉じ込められている者がいるらしい。出来る限り格子の間に顔を近づけて問いかけた。

「どなたか、他にもいらっしゃるのですか?」
「貴方様はどちらのお方でしょう。外の様子はお分かりになりますか?どこか逃げ出せるような機会などありませんでしたでしょうかっ」

その声に次々と格子に向かって、しがみつく音がする。すすり泣く声と、助けてとただ繰り返す声に驚いた。

 

 

 

– 続く –